第4回 他人の著作物を安全に利用するために

デザイナーのための著作権と法律講座


第4回 他人の著作物を安全に利用するために


アート・エンタテインメントの業務を多く扱う「骨董通り法律事務所For the Arts」の弁護士による、著作権とそれにまつわる法律関連の連載です。クリエイターが気になる法律問題についてわかりやすく解説しているので、ぜひ参考にしてください。

文:弁護士 永井幸輔(骨董通り法律事務所 for the Arts)



ケース:クライアントからの依頼で、旅行情報誌の表紙のアートワークを制作することになった。メインビジュアルには紅葉の山の風景写真を使いたいが、手元に使える写真がなかったため、インターネットで探して利用することにした。著作権を侵害しないよう適法に写真を使うためには、どうすればよいだろうか。

今回は、著作物の「利用」の側面についてお話ししましょう。

自身で発表するかクライアント・ワークであるかを問わず、制作物に他人のアートワークを使用することも少なくないのではないでしょうか。既存の作品には、制作コストを抑えられたり、過去の優れた創造性をサンプリング/リミックスしたりできるなど、多くのメリットがあります。 Book その反面、他人の著作物を利用する場合には、原則として著作権者から利用許諾(ライセンス)を受ける必要があり、これを怠ると著作権侵害となることがあります。クライアント・ワークの場合には、クライアントとの間の契約違反となることもあるでしょう。

デザイナーにとって著作権とは、「人に侵害されないようにするもの」というだけでなく、「自ら侵害しないようにするもの」でもあります。実際、自分の作品が他人の著作権を侵害していないか、というデザイナーの方からの相談も少なくありません。

そこで以下、他人の著作物を安全に利用する方法について、詳しく紹介します。


■ 個別にライセンスを受ける方法


冒頭のケースでは、使用する写真について、著名な写真家の写真である場合、フォト・エージェンシーの写真である場合、SNSなどの写真共有サイトやブログで見つけた写真である場合など、さまざまなパターンがあるでしょう。しかし、いずれの場合でも、他人の写真をそのまま利用するのであれば、一般的に著作権者からライセンスを受ける必要があります。

具体的には、①まず写真の著作権者が誰であるのかを調査した上で、②著作権者と交渉し、③必要な場合には許諾の対価を支払った上で、④ライセンス契約を交わすことになります。④については、簡単なものでいいので覚書などの書面を作ることが望ましいですが、メールなどで簡易に確認する場合もあるでしょう。いずれにせよ、後で許諾があったことを証明できるよう、何らかの記録を残すことが肝要です。

ただし、①〜④はそれぞれ時間的/金銭的なコストがかかります。十分なリソースがあるのであれば行うことも可能ですが、なかなかそのようなリソースに恵まれない場合も多いでしょう。また、インターネットで見つけた写真の場合、①著作権者がすんなり見つからない、または連絡が取れない場合も少なくありません。そのため、次のクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCライセンス)を利用する方法を知っておくと有用です。


■ CCライセンス作品の利用


CCライセンスとは、著作権者が「この条件を守れば、私の作品を自由に使えます」と意思表示をすることができるパブリック・ライセンスです。自分の作品を積極的に利用してほしいと考える作者が、あえて作品の
無償利用を広く許諾するライセンスで、現在、FlickrWikipediaYouTubeVimeoJamendoSound Cloud などのプラットフォームにおいて、世界中で広く導入されています。

そのほか、TEDKhan AcademyccMixter などのWebサイト、Nine Inch Nailsの作品「THE SLIP」、Vincent MoonDublab などのクリエイター、その他有名無名を問わず多くの作家に利用されています。2012年12月にはVOCALOID「初音ミク」にも採用されたというニュースが話題になりました。

CCライセンスでは、4つの条件から選択して組み合わせたライセンスを作品に付けて表示します。選択できる条件は、下図のとおりです。

CC_license

冒頭のケースでは、例えば、FlickrのAdvanced Search を利用して、CCライセンスが付与されている作品を検索することができます。今回は、旅行情報誌の表紙に写真を利用するため、非営利(NC)が条件の写真は利用できない可能性が高そうです。

そこで、「Only search within Creative Commons-licensed content」「Find content to use commercially」のチェックボックスにチェックした上で、「紅葉」を検索すれば、商用利用可能な写真がヒットします。クオリティの高い写真も少なくありませんので、是非一度試してみてください。

なお、画像を改変して使う場合には、改変禁止(ND)の写真も利用できないため、「Find content to modify, adapt, or build upon」にもチェックする必要があります。


■ パブリック・ドメイン作品の利用


このほか、著作権の保護期間が満了している著作物は、著作権者に利用許諾を取らなくても利用することができます。著作権は、永久に続く権利ではなく、一定の期間が経過すると消滅し、いわゆるパブリック・ドメイン(公有)になります。これは、文化や芸術は創作の連鎖で生まれるものであるため、一定期間保護された作品は後世において自由に使えるようにすべきという趣旨で定められています。

日本では、著作権保護期間については、原則として著作者の死後50年、著作者が不明な作品や会社などの法人が発行している作品は公表後50年、映画の著作物については公表後70年などの定めがあり、この期間を経過した著作品であれば、基本的に自由に利用することができます。 hat 例えば、1953年公開の映画「ローマの休日」はすでに日本での著作権が切れているため(映画の著作物の保護期間が公表後70年に延長される前、まだ50年だったころに保護期間が満了しました)、自由に利用できます。ただし、保護期間が満了して著作権が消滅した後でも、著作者人格権を侵害するような形での利用は禁じられているため、著作者が生きていれば意に反すると言われそうなアレンジは避けるのが無難でしょう。

また、著作権者が著作権を放棄している著作物についてもパブリック・ドメインとなり、利用許諾を取らずに利用することが可能です。これらのパブリック・ドメインの作品は、青空文庫EuropeanaINTERNET ARCHIVEPixabay などのWebサイトで見つけることができます。

メディアやツールが多様化し、インターネットやデジタル技術を使った制作環境が整った今日、他人の著作権とうまく付き合うことは必要不可欠です。本稿をきっかけに、より積極的・戦略的に著作物を利用してみてください。


  アートと権利、今月の話題 

  動向(2013年8月分)

 『同人マーク』運用開始。赤松 健氏の新連載で採用

 8月28日、クリエイティブ・コモンズを運用する特定非営利活動法人コモンスフィアは、二次創作同人誌のための意思表示ライセンス「同人マーク」の運用を開始した。

 このマークが付与された作品は二次創作同人誌に利用することができる。公序良俗に反しなければ、性的表現やボーイズラブ(BL)的な表現も可能。許されるのはコミケなど、即売会当日での販売のみだが、作者が追加で許可すればデジタル利用もできる。すでに人気漫画家・赤松 健氏の作品『UQ HOLDER!』(週刊少年マガジン)に採用されている。マークの制作には、骨董通り法律事務所のメンバーも参加。オリジナル作品と同人文化の共存を図る画期的な試みとして注目される。

P133-ex 二次創作同人誌向けの意思表示ライセンス「同人マーク」


  動向

 「話題のキリスト画『修復』、著作権収入の約半分が作者に」

昨年、スペインの教会の柱に描かれた約100年前のイエス・キリストの肖像画がボランティアの女性によって「修復」され、まるで別の絵画のように描き直されたことが話題となった事件で、8月21日、修復画による著作権収入の49%を修復担当の女性が受け取る契約が締結された。

当初酷評された修復画は世界的な話題になったことで多くの観光客を呼び込み、関連グッズの著作権収入も期待大。絵画の価値をも揺さぶりかねないこの修復画、果たして「修復」か二次的著作物か。収入の約半分を取得する契約は、著作権的にも興味深い。


●参考文献:松島恵美=諏訪公一『クリエイターのための法律相談所』(グラフィック社、2012)

※本コラムは、弊社の連載「デザイナーのための著作権と法律講座」(月刊MdN 2013年11月号)の記事に、一部加筆修正したものです。



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さて、次回の第5講では「ネットなどにある他人の素材を利用するとき」をお送ります。「既存の著作物を利用できる場合」や「引用はどこまでが許されるか」など、インターネット上にある素材を利用する際の注意点について解説していきます。


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2014/3/5




【骨董通り法律事務所 Kotto Dori Law Office】

骨董通り法律事務所

“For the Arts”を旗印に2003年に設立され、法律家としての活動を通じてさまざまな芸術活動を支援する法律事務所。出版、映像、演劇、音楽、ゲームなどのアート・エンタテインメント業界のクライアントに対する「契約交渉の代理」「訴訟などの紛争処理」「著作権など知的財産権に関するアドバイスの提供」を中心的な取扱業務としている。また、幅広い業種のクライアントのための企業法務,紛争処理にも力を入れる。


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