旬のアートディレクターをお迎えして、デザインする際の思考のプロセスを伺うとともに、創作のスタンスに迫るこのコーナー。第21回目はenamel.の石岡良治氏。第1話では「marimekko」のショップバッグや広告を紹介する。
第1話
テキスタイルとグラフィックデザイン
「marimekko」
本国のイメージを維持しながらローカライズ
フィンランドでテキスタイルブランドとして生まれ育った人気ブランド「marimekko」。このブランドが日本に上陸するときから、ショップバッグや広告などを手がけてきたのが石岡さんだ。
「海外ブランドですので、そのままではなく少し整理して日本になじませる必要がありました。一方でmarimekkoが持つ良い部分、たとえばフィンランドらしい牧歌的な雰囲気などを保つことも意識しています。その狭間でバランスを取っているのです」
たとえば最もベーシックなショップバッグでは、ブランドロゴがそのまま使用されている。
「フィンランドでは、同じ型のショップバッグでも微妙にサイズが違うことがあります。大らかですよね。しかし、日本では定型サイズのショッピングバックを採用したら、サイズはすべて正確に揃うのですが、それだけで“日本製”の雰囲気が強調されてしまう。だから、あえて外観では特別な処理はせず本国のイメージを残すようクライアントとも話し合いました」
テキスタイルデザインへの意識
ロゴを用いたショップバックのほか、花のグラフィックを配したショップバッグも用意された。代表的なものは「芥子」をモチーフとしたもの。
「この図版は、もともとテキスタイルに描かれていたものです。これは、ブランドを象徴するひとつの柄ですので、国内のショップバッグでも採用しました。バッグだけでなくすべてに当てはまることですが、marimekkoの大きな特徴は“テキスタイルデザイン”ですので、それを喚起したいと考えています」
その言葉通り、過去の雑誌広告でも、テキスタイルを前面に押し出したビジュアルが用いられている。そこでは、marimekkoというブランド自体を覚えてもらいながら「それぞれのテキスタイルを手がけたデザイナーの特徴もうかがえる」表現を心がけた。さらに最近では、本国でmarimekkoが「ファッションブランド」としての認知されていることから、少しずつそういった印象を訴求していくべく、ファッション性の高い広告へとシフトしている。
自分の指向性に合致した仕事
もともと石岡さんは、学生時代にテキスタイル科で学んでいた。当時はグラフィックデザインへの興味が強かったが、実際にグラフィックデザイナーとして仕事をするようになると、回帰するようにテキスタイルの魅力が見えてきたと語る。
「テキスタイルは紙媒体より木やコンクリートのような“素材”に近く、マテリアルとしての印象が強いのです。あるデザインが、反物のような“柄”として、何十年も残っていく可能性があることも素敵ですよね。生活の中で身近過ぎるため、日本では布地にデザイン性を感じることがあまりないようですが、ぜひテキスタイルの良さにも注目してもらいたいですね」
「テキスタイルは紙媒体より木やコンクリートのような“素材”に近く、マテリアルとしての印象が強いのです。あるデザインが、反物のような“柄”として、何十年も残っていく可能性があることも素敵ですよね。生活の中で身近過ぎるため、日本では布地にデザイン性を感じることがあまりないようですが、ぜひテキスタイルの良さにも注目してもらいたいですね」
そんな石岡さんにとって、marimekkoの仕事に携わることは、テキスタイルと紙の橋渡しをするような、まさに自分の指向にも合致した営みだろう。「非常にやり甲斐のある仕事では?」との問いかけに「そうですね。とても面白いです」と即答していたことが印象的だった。
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)
次週、第2話は「“手ぐせ感”を意識した制作」について伺います。こうご期待。
次週、第2話は「“手ぐせ感”を意識した制作」について伺います。こうご期待。
●石岡良治(いしおか・りょうじ) |