第1話 論理的に工夫されたグラフィック | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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旬のアートディレクターをお迎えして、デザインする際の思考のプロセスを伺うとともに、創作のスタンスに迫るこのコーナー。第22回目は柿木原政広氏。第1話では、2007年に森美術館で開催された展覧会「日本美術が笑う」にまつわるビジュアルを紹介する。



第1話
論理的に工夫されたグラフィック
「日本美術が笑う」



日本的な自然物で顔を表現


昨年1月27日から5月6日まで、日本美術の作品に見られる“笑い”に注目した展覧会「日本美術が笑う」が開催された。柿木原氏は、ポスターや会場周りのサインをはじめ、この展覧会を支えるビジュアル全般を手がけた。

「最初に『日本美術が笑う』というタイトルを聞いて、すごく面白いと感じたのです。だから、その言葉がより魅力的に見えるようにしようと思いました」
そこで考えついたのが「日本」を感じさせる数々のオブジェクトを組み合わせて笑顔を表現するアイデア。そのグラフィックは展覧会の内容を反映した意味あるシンボルとなっている。
「松、竹、梅、水で顔を構成し、日本を象徴するアイテムとして太陽も加えています。それぞれのパーツは伝統的な家紋の形などを参考にしながら作成しました」

微妙なバランスのさじ加減



「各パーツの配置では、目尻や口尻などの角度にこだわっています。岸田劉生の『麗子像』からもわかるように、“笑う”作品のなかには、ガハハと大笑いするものだけでなく、微妙な笑みを携えた表情のものもあるのです。そのような顔のニュアンスを表現しました」
また、微笑む程度に仕上げるのと同時に“顔だとわかり過ぎないさじ加減”にも配慮。

「もっと各パーツが近づいていて、鼻が小さくて口が大きかったり、口の部分にピンクを用いたりするほうが、より顔らしく見えるはずです。でも、このグラフィックを最初に見たときに、顔であることばかりに目が向いてしまうと、日本的な形で構成されていることをはじめ、別の大切な要素がわかりづらくなってしまうと思ったのです。そこで、一見しただけでは顔と認識されないくらいで良いとしたのです」

多くの「意味」を含んだ表現



色に関しては、モダンな印象も与えることを重視。森美術館の展覧会ならではの、和とモダンの両立だ。それはアルファベットで綴られた判子にも垣間見れる。
「このような象徴的な要素を盛り込むと、アルファベットで書かれていても日本っぽさが感じられますよね。これは見る人の認識能力を活用した表現です。竹をモチーフに楽しげに仕上げたタイトル文字も同様で、筆文字ではありませんが、和風のイメージを感じ取れるはずです」

ポスターの紙には、和紙や風合いのあるマット紙ではなく高級感のある「きらびき」を使用。「きらびき」はその名の通り、キラキラ光る綺羅紙にも似た風合いを持つ紙。これは「戦国時代などには自らの力を誇示することを目的とした、光り輝く美術作品が多かった」ことを踏まえた選択だ。しかし工夫はそれだけに留まらない。

「同時期に、森美術館で“笑い”をテーマとした現代アート展も開催されていたのですが、同じ場所にポスターが飾られる場合には、こちらは掛け軸のような枠に入れることで差別化をはかりました。また、駅からの巡回バスの外装も手がけたのですが、そちらでは同じグラフィックのままだとダイナミックさに欠けるので、あえて顔のパーツはバラバラにして配置しました」
すみずみまでロジカルな思考が行き届いたアートディレクション。複合的な要素を盛り込みつつも、シンプルにまとめ上げている腕前には驚かされるばかりだ。
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)

次週、第2話は「人間の心理に働きかける表現」について伺います。こうご期待。




●柿木原政広(かきのきはら・まさひろ)
1970年広島県生まれ。1993年拓殖大学工学部工業デザイン学科卒業。広告制作会社ザ・マンを経て1996年ドラフトに入社。03年日本グラフィックデザイナー協会新人賞受賞。07年に株式会社10を設立。

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