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ウェブアクセシビリティ・レポート 第4回 おもなアクセシビリティ指針とアクセシビリティ指針の取り入れ方

2024.4.24 WED

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ウェブアクセシビリティ・レポート

文=KeiYu HelpLab石田優子
ユーザーの視点に立ったサイト構築、運営に関するユーザビリティ、アクセシビリティの向上などのコンサルティング、調査などを行っている。


第4回
おもなアクセシビリティ指針とアクセシビリティ指針の取り入れ方


2006年4月27日に、世界的なアクセシビリティ指針である、W3C(Wide Web Consortium)のWCAG(Web Content Accessibility Guidelines)2.0ラストコール・ワーキングドラフトが公開された。そこで今回は主要なアクセシビリティ指針とその位置づけなどについて解説する。


おもなアクセシビリティ指針

WCAG 1.0とWCAG 2.0
そもそもウェブアクセシビリティという概念が注目されるきっかけとなったのが、1999年5月5日にW3Cが勧告として公開したWCAG 1.0である。

W3CとはWWWで利用される技術の標準化を進める団体で、HTML、CSS、XMLなどさまざまな仕様を公開している。これらの仕様はワーキングドラフトからスタートし、ラストコール・ワーキングドラフト、勧告候補と順次公開されてパブリックコメントなどを受け付け、そして確定したものを勧告として公開している。

現在Web標準と呼ばれるものも多くはW3Cの仕様に基づいている。このW3Cが内部にWAI(Web Accessibility Initiative)というアクセシビリティを専門に研究するグループを設け、ウェブアクセシビリティについてのチェックポイントをまとめたものがWCAG 1.0だ。

WCAG 1.0は優先度1から優先度3までの65のチェック項目から構成されている。WWWの標準化団体がアクセシビリティについて取り組み始めた影響は大きく、このあとに発表された各国政府などのガイドラインはWCAG 1.0を意識して作成されている。

しかし、WCAG 1.0はブラウザの実装状況を考慮していない項目も多いうえ、チェック項目が65もあり、優先度1から3まで満たすことが現実的には困難、さらに、チェック項目に該当しているのかどうかのテストが困難な項目も含まれていた。またwebを取り巻く技術の進歩に指針の内容が追いつかないという面もあった。このため、この先、技術が進歩したとしても適用可能で、かつ、よりテストしやすくわかりやすい指針をということで、WCAG 2.0が検討され、現在ラストコール・ワーキングドラフトの段階にまで進んでいる。

WCAG 2.0の目新しい点としては、そのサイトを使用するユーザーの環境に合わせたベースラインを設定し、そのベースラインに適合するかどうかを基準にチェックできるようにしている点がある。社員の閲覧環境を把握可能なイントラネットでは、「XHTML1.0、CSS、GIF、JPEG、ならびにJavaScript」、より広範囲なユーザーが閲覧される公共機関サイトでは「HTML 4.01 Transitional、.GIF、ならびに.JPEG」といったようにベースラインをサイト運営・制作者などが設定する方式だ。

まだ流動的なラストコール・ワーキングドラフト段階であり、ベースラインをだれが決めるのか、その上げ下げで使用できるユーザー層が限定されたりしないのかなどの疑問の声もあるので、最終的な勧告の動向を見守りたい。WCAG 1.0と2.0はW3Cのサイトで公開されている【1】。

【1】WCAG 2.0ラストコール・ワーキングドラフト(www.w3.org/TR/WCAG20/)
【1】WCAG 2.0ラストコール・ワーキングドラフト(www.w3.org/TR/WCAG20/)


米国リハビリテーション法
第508条の電子・情報技術アクセシビリティ基準

米国では、リハビリテーション法 第508条によって、連邦政府が調達、使用する製品や、一般市民に提供する情報、サービスに対して、障害をもつ政府職員・一般市民が、障害をもたない人と同等にアクセスできるようにすることが義務づけられている。

2001年6月21日以降、この第508条「電子・情報技術アクセシビリティ基準」のwebサイト関連の項目に連邦政府のサイトは準拠させることが義務づけられた。連邦政府以外の民間サイトにまでは第508条は適用されないが、米国のweb制作業界にアクセシビリティという概念を普及させ、民間サイトも含めたアクセシビリティ向上の機運をつくるのに大きな役割を果たした。

第508条のアクセシビリティ基準は16項目からなり、WCAG 1.0の優先度1とほぼ合致する内容になっている。第508条の電子・情報技術アクセシビリティ基準は、United States Access Boardのサイトなどで公開されている【2】。

【2】第508条の電子・情報技術アクセシビリティ基準日本語訳(www.access-board.gov/sec508/language/japanese.html)
【2】第508条の電子・情報技術アクセシビリティ基準日本語訳(www.access-board.gov/sec508/language/japanese.html)


JIS X 8341-3 高齢者・障害者等配慮設計指針
2004年6月20日に日本独自のアクセシビリティ指針としてJIS X 8341-3が公開された。日本工業規格であり、リハビリテーション法第508条のような法的拘束力はないが、政府、自治体のほか、銀行、交通など公共性の高い分野への適用が期待されている。5章「開発及び制作に関する個別要件」に具体的な確保基準として39項目があり、「~しなければならない」の必須項目と、「~することが望ましい」の推奨項目に分類されている。

JIS X 8341-3は、WCAG 1.0、リハビリテーション法第508条を参考とし、当時のワーキングドラフト段階のWCAG 2.0も一部先取りするような形で策定された。漢字圏独自の単語間スペースや改行の問題(単語間にスペースが入っていると音声読み上げソフトでは正しく読み上げられない)や、サイトの保守・運営に言及しているところが特長だ。

JIS X 8341-3の一部の項目はWCAG 2.0にも反映されているが、ラストコール・ワーキングドラフト段階では完全な互換性はない。JIS X 8341-3は、日本工業標準調査会のサイト(www.jisc.go.jp/)の「JIS検索」で検索して閲覧できる【3】。

【3】JIS X 8341-3
【3】JIS X 8341-3


アクセシビリティ指針の取り入れ方
リハビリテーション法第508条に米国政府各サイトおよび一部の民間サイトは準拠するようになり、その旨を表明しているサイトがあるが、その他のアクセシビリティ指針への準拠を表明しているサイトは少ない。

これは、アクセシビリティ指針への適合性を機械的に検証することができず、人間が目で見て判断しなければならない項目が多く、準拠と表明することがはばかられるためである。指針で指摘されているものをすべて網羅することが困難だったり、実際の運用にあたっては、そのサイトのユーザーに合わせて、より細かな技術に触れる必要がある場合もある。このため、WCAGや第508条、JIS X 8341-3を参考として、各サイト独自のアクセシビリティ・ガイドラインを設けている場合が多い。

たとえば日本ヒューレット・パッカードのサイトは、第508条とWCAG 1.0(優先順)を基準として独自のガイドラインを策定することを表明している。日本の政府、地方自治体サイトではJIS X 8341-3を参考として独自のガイドラインを設ける場合が増えているが、島根県サイトではJIS X 8341-3のほかに、WCAG 2.0のドラフトも参考としている。

各種のアクセシビリティ指針は大枠となる基準であるが、それに合致するかどうかのみにとらわれていて、ユーザーに目を向けないと、実際のユーザー層やその閲覧環境とちぐはぐになることが考えられる。サイトごとにユーザーの声を聞きながら実際に運用可能なガイドラインをつくっていくのが現実的だろう【4】【5】。

【4】日本ヒューレット・パッカードサイトのアクセシビリティに関するページ(h50146.www5.hp.com/info/accessibility/best_practice.html)
【4】日本ヒューレット・パッカードサイトのアクセシビリティに関するページ(h50146.www5.hp.com/info/accessibility/best_practice.html)

【5】島根県サイトのホームページ作成ガイドライン(www.pref.shimane.lg.jp/gi.html)
【5】島根県サイトのホームページ作成ガイドライン(www.pref.shimane.lg.jp/gi.html)


本記事は『Web STRATEGY』2006年7-8 vol.4からの転載です



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