ウェブアクセシビリティ・レポート 第15回 動画のアクセシビリティ

ウェブアクセシビリティ・レポート

文=KeiYu HelpLab石田優子
ユーザーの視点に立ったサイト構築、運営に関するユーザビリティ、アクセシビリティの向上などのコンサルティング、調査などを行っている。


第15回
動画のアクセシビリティ


動画投稿サイトが人気だが、一般サイトでも一部のコンテンツに動画を取り入れる例が増えてきた。今回は動画を視聴しているユーザーの声をもとに、動画のアクセシビリティについて取り上げる。


動画を視聴しているユーザーについて
さまざまな障害のユーザーの間で、YouTubeやGyao、ニコニコ動画などが話題になっている。視覚障害のユーザーが動画サイトの音を楽しみ、聴覚障害ユーザーが映像を楽しんでいる。さらに、インターネットでの動画流行以前、そして現在もテレビを視聴している。字幕や副音声があればよいが、副音声のない番組でも、字幕のない番組でも、もちろん多くの人が利用している。

数年前に、ある視覚障害者団体が行った、どのような媒体から情報を得ているかの調査結果では、第1位がテレビだった。意外なようだが、テレビの普及率、およびテレビが提供する情報量を考えれば、当然の結果だったといえる。

家族と一緒にテレビを視聴するシーンも多いだろうし、友達などと共通の話題としてもテレビ番組の情報は欠かせない。視覚障害だけでなく、聴覚障害、発達障害などのさまざまな障害、高齢の人などにとってもテレビは欠かせない情報源、そして娯楽手段である。その延長戦上にインターネットの動画がある。

また、動画はテキスト情報を補完したり、場合によってはテキスト情報よりもユーザーの情報取得や内容の理解に役立っていたりする場合もある。このため、テキストや静止画像だけでなく、マルチメディアに対するアクセシビリティに配慮も欠かせないものとなってきているといえるだろう。

YouTubeについて
YouTube【1】は比較的シンプルなサイト構成になっている。YouTubeの動画はFlashを使用しているが、最近は音声読み上げソフトでもFlash対応しているものが増えたので、Flashの簡単な再生自体はあまり問題にならなくなってきている。

【1】YouTubeの画面はキーボードだけで動画選択や再生が可能
【1】YouTubeの画面はキーボードだけで動画選択や再生が可能


また、YouTubeはFlash以外の部分がキーボードだけでメニュー移動でき、キーワード検索で好きな動画を探すことが容易だ。小さな画面が見づらい人は画面全体に動画を拡大することもでき、かつ[Esc]キーひとつで元のサイズに戻すことができる。このキーボードで操作できる点は、視覚障害ユーザーだけでなく、マウス操作が困難なユーザーにとっても利用しやすい。

音声を楽しむユーザー、おもしろい映像を楽しむユーザーの両方に人気が高い。ただ、音声読み上げユーザーがYouTubeを視聴するうえで不便なのが、【2】の停止、巻き戻し、ボリュームなどのボタン部分だ。ボタンに代替テキストが付いていないため、キーでボタンを順に進むことができるものの、何のボタンかがわからない。また、YouTubeの動画にユーザーが字幕を付けて公開できる字幕in【3】があるが、聴覚障害ユーザーに求められる字幕が、このような一般向けサービスとして実現されていることも注目したい。

【2】YouTubeの動画のボタン部分
【2】YouTubeの動画のボタン部分

【3】字幕inではYouTubeの動画に字幕が付けて公開されている
【3】字幕inではYouTubeの動画に字幕が付けて公開されている


動画、音声、文字など、さまざまなデータを同期させる技術としては、W3C標準として勧告されたXMLベースのSMIL(Synchronized Multimedia Integration Language)などがあるが、個々の企業が独自に開発、提供しはじめたサービスがアクセシビリティにも役立っていることが増えてきている。

広範囲なマーケット向けの技術を利用、応用することによって、アクセシビリティの向上ができないかといったことも、ウェブ制作サイドとしては検討が必要であるし、字幕inや次に紹介するニコニコ動画のように一般向けサービスとして展開している企業サイドとしても、その技術のアクセシビリティへの応用にも目を向けていただきたい。

ニコニコ動画について
ニコニコ動画【4】は音声読み上げユーザーには非常に利用しにくい。まず、無料会員登録でも画像認証が必要で、音声読み上げユーザーはひとりでは登録ができない。

【4】ニコニコ動画の画面
【4】ニコニコ動画の画面


また、画面構成が複雑で目的の動画を探しにくいうえに、ニコニコ動画の場合は、ボタンにマウスオーバーすると【5】のようにテキストが表示されるのだが、このボタン部分はまったくキー操作できず、かつ音声で読み上げられない。Flash動画を制作する場合、ボタンをキーで順に移動するようにし、代替テキストを付けることは技術的に容易であるだけに、この点への配慮が望まれる。ただし、視覚障害以外の障害を持つユーザーに聞いたところでは、ニコニコ動画がもっとも楽しくて好きだという意見もあったことは添えておく。アクセシビリティ、ユーザビリティの良しあしと、サイトへの好感度が必ずしも一致しない一例であろう。

【5】ニコニコ動画のボタン部分はキー操作と音声読み上げのいずれもできない
【5】ニコニコ動画のボタン部分はキー操作と音声読み上げのいずれもできない


さらに、ニコニコ動画のコメント表示は、字幕inのような整理された情報ではなく、文字がスクロールするので判読しにくいのだが、このコメント表示も、応用次第では、字幕としても使える可能性もある。

動画サイトにおけるボタンへの代替テキストの配慮がなされていないのは、YouTubeやニコニコ動画だけではない。Gyaoなど多くのサイトでこの配慮がなされていない。見た目が同じなようでも、ユーザーによって使えるか使えないかが決まるだけに、操作ボタンは動画に限らず気をつける必要がある。Flashに標準装備されているアクセシビリティ機能で、ボタンにテキストを付け、キーボードで順に移動するようにすることは可能であるだけに、各動画サイトにはぜひ実装してもらいたい。また、ウェブ制作者として動画制作にかかわる場合は、この点に注意を払っていただきたい。

なお、動画再生用のプレイヤーに関しては、Windows Media Playerの場合は、キーボードで操作でき、かつボタンにもすべて代替テキストが付いていて音声読み上げ可能だ【6】。サイト内に動画を埋め込む場合、動画ファイルへの直接のテキストリンクを用意して、自動的にプレイヤーが起動するようにするという手もあるだろう。

【6】Windows Media Playerのボタン部分はキー操作と音声読み上げが可能
【6】Windows Media Playerのボタン部分はキー操作と音声読み上げが可能


ディスレクシア(読み書き障害)のユーザーからの声
この連載のVol.10で取り上げた、視力に関係なく文字を読み書きすることに困難を伴うディスレクシア(読み書き障害)のユーザーとって動画サイト視聴上の問題についてもお聞きした。ネットに限らずテキスト情報を得ることに困難を伴うディスレクシアの人にとって、音声、動画情報が役に立つ場合があるからだ。

しかし、ディスレクシアといっても個人差が大きく、映像の色、音声とも、見やすい、聞きやすいものは人それぞれである。テレビ番組でも過度な光の使い方の場合は途中で疲れるという人もいた。

字幕も含めた映像全体の色、音声を好みによって変えられるようにできるのがもっともよいが、技術的なハードルが高い。しかし、字幕などの文字はスクロールするよりも停止させておく、一度に多くの情報を出すのではなく、ひと区切りずつに分けて出すようにするだけでも、ディスレクシア、そして他のユーザーにとっても内容を理解しやすくなる。

動画におけるその他の配慮
ここまで紹介したブロードバンド接続のユーザー層をメインにしたサイト以外で、ナローバンド用の56Kとブロードバンド用の200Kのような2種類の動画を用意している場合があるが、「56K」「200K」と記載されているだけでは、多くのユーザーには意味がわからない。どちらを選択すればよいのか、「ダイヤルアップ、ISDNの場合」「ADSL、CATV、光ファイバーなどの場合」のように横に説明文を添えておくのが親切だ。また、動画再生用のプレイヤーのダウンロードページへのリンクも付けておくとよいだろう【7】。

【7】NHKニュースでは「56K」「200K」の横に説明文を入れ、また再生用のプレイヤーのダウンロードページにもリンクされている
【7】NHKニュースでは「56K」「200K」の横に説明文を入れ、また再生用のプレイヤーのダウンロードページにもリンクされている


本記事は『Web STRATEGY』2008年5-6 vol.15からの転載です

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