ウェブアクセシビリティ・レポート 第14回 音声読み上げソフトでの閲覧者かつサイト制作者からの声

ウェブアクセシビリティ・レポート

文=KeiYu HelpLab石田優子
ユーザーの視点に立ったサイト構築、運営に関するユーザビリティ、アクセシビリティの向上などのコンサルティング、調査などを行っている。


第14回
音声読み上げソフトでの閲覧者かつサイト制作者からの声


アクセシビリティはウェブ制作者からの視点で考えられがちだが、配慮される側と思われている人たち自身も、サイト制作、情報発信者でもある。今回は、自身でサイト制作されている視覚障害の方お二人に、制作方法や、アクセシビリティについての考えをインタビューした内容をご紹介する。


イエラ鍼灸治療室 西尾憲一氏の場合
中途失明の西尾氏とパソコンやインターネットとの出合いは古い。20年以上前にDOSを使い始め、C言語でプログラムをつくったり、音声読み上げソフトでniftyやPC-VAN、草の根ネットなどに参加したりしたところから始まる。

インターネットもいち早く参加し、ネット上の情報を集めて、C#やJavaなどのプログラム言語、HTMLやCSSもすべて独学で習得した。点字本などでは技術関連図書がほとんどないので、音声読み上げソフトで閲覧可能なネットの情報の存在は大きい。

現在の環境は、Windows XPとWindows版の音声読み上げソフトで、暮らしや仕事のさまざまな情報収集から、治療器具やPC関連用品、食品、衣料品、CD、本などのショッピング、インターネットバンキングまで幅広くネットを活用されている【1】。

【1】西尾氏とPC。音声読み上げソフトをインストールしている以外は通常のPCで、他の人が閲覧する場合用にディスプレイとマウスもある
【1】西尾氏とPC。音声読み上げソフトをインストールしている以外は通常のPCで、他の人が閲覧する場合用にディスプレイとマウスもある


西尾氏のサイトの制作方法
イエラ鍼灸治療室のサイト【2】は、西尾氏ひとりで制作、運営されている。WZエディタでHTMLやCSSをすべて手書きし【3】、FTPソフトのFFFTPでサーバにアップしている。また同サイトは写真が豊富だが、この写真だけは同行の人に撮影してもらったものをページに埋め込んでいる。

【2】西尾氏制作のイエラ鍼灸治療室サイト(http://www.elnet.jpn.org/hari/)
【2】西尾氏制作のイエラ鍼灸治療室サイト(http://www.elnet.jpn.org/hari/)

【3】西尾氏のテキストエディタでのコーディング画面
【3】西尾氏のテキストエディタでのコーディング画面


CSSレイアウトは頭の中でこうなるだろうと想像して設計してあるが、細かなレイアウト崩れなどの問題がないかどうかといった点だけは、確認できない。このため、ほかの人に時折確認してもらっている。しかし、一度完成したページは、複製して内容のみ変更して使い回すことができるので、レイアウトの問題などもなく、また、CSSを取り入れてから作業効率が非常に良くなったという。

西尾氏のウェブアクセシビリティについての意見
西尾氏のサイトは写真が豊富だが、適度なalt属性がつけられていれば、サイトにはビジュアルがあるほうが、むしろイメージが膨らんでよいというのが西尾氏の意見だ。

ふだんのサイト閲覧で困るのは、メニュー項目が多いサイトで、メニューを飛ばして本文にジャンプするナビゲーションスキップ機能はほしい。さらにサイドメニューが右側にあると、メニューよりも先に本文が読み上げられるので操作が楽だそうだ。また、テキストボックスのラベルが画像で表示されている場合、記入すべき内容が読み上げられないなどのため、ショッピングの最後の送付先入力の段階で断念したことが何度かあるそうだ。

西尾氏の場合はNetReaderという音声読み上げ専用ブラウザを使うようになってから、テキストボックス読み上げが簡単になったそうだが、一般のブラウザで音声読み上げしているユーザーは多いので、フォームのアクセシビリティへの配慮はサイト制作のうえで重要なポイントといえる。

アメディア 望月優氏の場合
視覚障害関連機器、ソフトの開発、販売などを行っている(株)アメディア社長の望月優氏とパソコンの出合いも古い。1985年ごろからワープロを使い始め、職業リハビリセンターで本格的にCOBOLとC言語を学び、最近では早稲田大学の夜間講座でPerlを学んでいる。自社ソフト開発の場合は、望月氏が仕様を考え、プログラミングは社員が行っているという。

ネットはパソコン通信のころはそれほど行っていなかったが、1999年ごろからインターネットを利用し始め、このころアメディアが開発した音声読み上げブラウザ、ボイスサーフィンの開発動機のひとつが、望月氏自身がインターネットを快適に閲覧したいというものだったそうだ。現在のネットの用途は情報収集が多く、その他は本などを購入するぐらいだが、情報収集といっても、電話番号調べなどでもネットを使うと手軽にできるのが非常に便利だそうだ【4】。

【4】望月氏とPC。通常のキーボードの手前にテキストをピンディスプレイで点字表示する点字キーボードがある
【4】望月氏とPC。通常のキーボードの手前にテキストをピンディスプレイで点字表示する点字キーボードがある


望月氏のサイトの制作方法
望月氏の場合、2005年にインターネットのビジネス塾に参加し、サイトは社長自身がつくらなければ駄目だという話を聞いて啓発され、それからサイト制作に力を入れられるようになった。同時期に社内勉強会でWeb標準を取り上げ、以来、Web標準にのっとったコーディングを意識した、サイトづくりを心がけられている。

タグを手書きするのは手間で、ミスも起きるというので、現在は通常のテキストに簡単な符号を付け、望月氏自作のPerlのプログラムで変換するとWeb標準のタグ付きのHTMLファイルが生成されるように工夫されている。

CSSなどのビジュアル部分は、ほかの社員に任せ、HTML部分のみを望月氏が制作されている。アメディアサイトの多くのページは社員制作のものだが、望月氏自身がHTMLを書くときは、Windowsのコマンドプロンプトから、DOS版のテキストエディタ、音声読み上げソフト、FTPソフトの組み合わせでHTML制作からアップロードまで行っている。DOSに固執する気はないが、一度覚えて使い慣れた操作が楽なため、今でもDOS版のソフトを使い続けられているそうだ【5】。

【5】アメディアサイトの望月氏が制作したページ(http://www.amedia.co.jp/it/)
【5】アメディアサイトの望月氏が制作したページ(http://www.amedia.co.jp/it/)


望月氏のウェブアクセシビリティについての意見
望月氏がサイト制作で重要だと考えられているのは、見出しの適切なマークアップだ。多くの音声読み上げソフトには見出し読み上げ機能があるので、h要素でマークアップされていると、本文全体を読まないでも飛ばし読みができるので閲覧しやすい。ただ、音声読み上げユーザーでも見出し読み上げ機能の存在を知らない人も多く、制作者、ユーザーともに見出し構造という概念を知り、その実装が進み、また、活用されればという。

アクセシビリティは、制作者だけでなく、ユーザーも知り、互いに歩み寄る姿勢が重要というのが望月氏の考えだ。困るのはFlashだけのサイトで、これは音声読み上げソフトでは何も読み上げできず、操作できない場合が多い。画像の場合は、特にリンク画像にだけはalt属性がないと、リンク先がわからないので、このような重要な画像にだけはalt属性が最低限ほしいという話だ。

まとめ
以上のほかに、西尾氏、望月氏に筆者が以前から疑問に思っていたことを質問した。「障害者の方」と書くと「しょうがいしゃのほう」と読み上げられるので「方」を「かた」とひらがなで書くべきかという議論がウェブ制作に関して時々あるのだが、それに意味があるかどうかだ。

お二人とも音声読み上げソフトがすべての漢字を正しく読み上げるわけではないので、その点だけにこだわる必要はないという意見だった。また、最近の音声読み上げソフトでは文脈で「かた」と「ほう」を正しく読み分ける場合も多いことも読者としては知っておいてほしい。

西尾氏からは、重要なのは、正しく読み上げられないとユーザーが困る漢字にこそ、ふりがなを付けてほしいという声があった。たとえば銀行の支店名などが正しく読み上げられないと振り込みができない。ウェブデザイナーと実際のユーザーであり制作者でもある人の問題意識が一致するところもあれば、違う場合もある。

今回は音声読み上げユーザーに取材したが、操作、閲覧環境により、意外なところでユーザーは困らず、意外なところが盲点になっていたりする。アクセシビリティという概念が普及し始めた今、その配慮がユーザーにとって実用的なものであるかどうかの検証が、今後は重要となってくるだろう。


本記事は『Web STRATEGY』2008年3-4 vol.14からの転載です

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