ウェブアクセシビリティ・レポート 第12回 PDFのアクセシビリティ

ウェブアクセシビリティ・レポート

文=KeiYu HelpLab石田優子
ユーザーの視点に立ったサイト構築、運営に関するユーザビリティ、アクセシビリティの向上などのコンサルティング、調査などを行っている。


第12回
PDFのアクセシビリティ


さまざまなアプリケーションで作成した文書をWeb掲載用に変換するファイル形式としてPDFが用いられることがあるが、PDFのアクセシビリティについては、あまり配慮されていない場合が多い。今回はPDFのアクセシビリティについての現況と、配慮すべき点について取り上げる。

参考資料
PDF文書のアクセシビリティ(www.nise.go.jp/research/kogaku/twatanab/WebAccess/PDFAccessibilityQ&A.pdf / www.ish.we.kanagawa-it.ac.jp/~mit/PDFaccessibility/index.html)
協力:国立特別支援教育総合研究所 主任研究員 渡辺哲也氏/研究支援員 山口俊光氏


PDFのアクセシビリティ化

歴史と現状
もともとテキストを構造化してマークアップすることで文書共有するところから発展したHTMLと異なり、PDFは、ページ全体の文字や図形のレイアウトを印刷物そのままに再現することに主眼が置かれている。このため、音声読み上げソフトで、文書をテキスト情報として取り出すことが当初は困難だった。

しかし、Adobe Acrobat Reader 5からは、Windows版では、アクセシビリティ支援技術用のMicrosoft Active Accessibility(MSAA)に正式対応し、MSAA対応の音声読み上げソフトでは音声読み上げが可能になるように仕様変更された【1】。また、Adobe Reader 6以降ならば、音声読み上げソフトがなくても、OS自体の音声合成機能を利用して音声読み上げができる。ただ、音声読み上げソフトユーザーが、PDF文書が読み上げ可能だと知らない場合がいまだにあり、PDF作成者側も、PDFのアクセシビリティに配慮する意識が薄い。

【1】アクセシビリティに配慮したPDF文書(www.adobe.com/jp/products/acrobat/pdfs/access_sample.pdf)を、音声ブラウザボイスサーフィンで読み上げた場合
【1】アクセシビリティに配慮したPDF文書(www.adobe.com/jp/products/acrobat/pdfs/access_sample.pdf)を、音声ブラウザボイスサーフィンで読み上げた場合


Adobe Readerが音声読み上げに対応しているといっても、作成方法によっては、適切な順序でテキストが読み上げられない場合もあるし、図表の場合は「タグ付け」という作業が別に必要になる。PDFの音声での読み上げ方法と、どのようにすればよりアクセシブルなPDFを作成できるかについて、以降で説明する。

PDFを音声読み上げする方法
ほとんどの音声読み上げソフトの最近のバージョンは、PDF対応を明記しているが、各音声読み上げソフトによって、読み上げ方法が異なり、特に表の読み上げにある程度対応しているのはJAWSぐらいである。

しかし、テキスト情報に関しては、あらかじめアクセシビリティを意識してPDF文書を作成していると、かなり正確に読み上げることができる。 音声読み上げソフトがなくても、日本語の合成音声エンジンがインストールされている環境では、Adobe Reader 6以降の[編集]メニューの[環境設定] を選択し、[読み上げ] パネルの[読み上げオプション] 欄の 「デフォルトの音声を使用」で日本語の合成音声エンジンを選択するだけで、音声読み上げが可能になる【2】。

【2】[読み上げ] パネルの[読み上げオプション] 欄の 「デフォルトの音声を使用」で日本語合成音声エンジンを選択
【2】[読み上げ] パネルの[読み上げオプション] 欄の 「デフォルトの音声を使用」で日本語合成音声エンジンを選択


残念ながら、WindowsもMac OSも標準では英語の合成音声エンジンしか搭載されていないため、そのままでは日本語の読み上げができないが、Office XPのWordに搭載されている日本語合成音声エンジンをインストールしておけば、日本語読み上げができる。また、マイクロソフト社のサイトから無償でダウンロード可能な日本語合成音声エンジンを追加でインストールすることでも読み上げ可能となる。

具体的な手順については、Adobeサイトの「読み上げ機能を使用して日本語の文書を読み上げる方法」(support.adobe.co.jp/faq/faq/qadoc.sv?224228+002)を参照してほしい。


アクセシビリティに配慮したPDF文書を作成する方法

Word文書のPDF化の場合
アクセシブルなPDFを作成するもっとも簡単な方法は、MS Wordで文書を作成することだ。
AcrobatシリーズをインストールするとWordに追加される[Adobe PDFに変換]コマンドを使ってPDF化できる。このとき、テキストだけのWord文書ならば、あらかじめWordのメニューの[Adobe PDF]の[変換設定の変更]を選択し、変換設定用のダイアログの[設定]タブで「タグ付きPDFでアクセシビリティと折り返しを有効にする」にチェックが入っていることを確認したうえで、PDF文書に変換する【3】。
タグ付けとは、文書の論理構造に沿って読み上げしやすくする作業に当たり、複雑なレイアウトのWord文書でない場合、これだけで、読み上げ順序がある程度整えられる。

【3】「設定」タブで「タグ付きPDFでアクセシビリティと折り返しを有効にする」にチェック
【3】「設定」タブで「タグ付きPDFでアクセシビリティと折り返しを有効にする」にチェック


また、折り返し機能をオンにすると、弱視の人がAdobe ReaderでPDF文書をズームで拡大した場合などに、テキストがウインドウ幅に応じて自動的に折り返されるので、いちいち横スクロールすることなく閲覧できる【4】。

【4】背景色を黒、テキストを黄色に変更したPDF文書。Adobe Reader の「ズーム」の「折り返し」をオンにすると、元の文章の折り返し位置に関係なく、ズーム倍率に合わせてテキストが折り返される
【4】背景色を黒、テキストを黄色に変更したPDF文書。Adobe Reader の「ズーム」の「折り返し」をオンにすると、元の文章の折り返し位置に関係なく、ズーム倍率に合わせてテキストが折り返される


さらに、[アドバンスト]メニューの[アクセシビリティ]で「文書のテキストにハイコントラストカラーを使用」にチェックし、背景色と文字色を弱視者に見やすい色に変更することもできる。

図の場合は、PDFへの変換前にWordの図に代替テキストを設定しておく必要がある。Wordの図を右クリックして[図の書式設定]の[Web]タブで図に対する説明文を追加してから、PDF文書に変換する【5】。

【5】Wordの「図の書式設定」の「Web」タブで図の代替テキストを指定できる
【5】Wordの「図の書式設定」の「Web」タブで図の代替テキストを指定できる


ただし、この方法で代替テキストを追加しても、音声読み上げソフトによっては、代替テキストが読み上げられない場合もある。Word以外で作成した文書や、作成したあとのPDF文書に対しては、Acrobat Professionalでのみ、あとから細かなタグ付け作業が可能だ。

イメージスキャナで書類を読み込んでPDF化する場合
イメージスキャナで書類を読み込んでPDF化する場合は、PDFへの変換時に、Acrobatの[ファイル]メニューの[PDFの作成]の[スキャナ]を選択し、「テキスト認識とメタデータ」の「検索可能にする(OCR実行)」と「アクセシビリティ」のオプションをオンにすると、スキャナで読み込んだ文字も音声読み上げ可能となる。

図表などをアクセシブルにするには、Acrobat Professionalでの細かな設定が必要だが、Professional以外でも、少し注意するだけで、重要なテキスト情報を音声読み上げユーザーが聞き取ることができるので、最低限の配慮はするようにしてほしい。

セキュリティとアクセシビリティの問題
PDFの音声読み上げ時にもっとも問題となるのが、コピー、印刷、抽出、注釈の付加、編集を許可しないようにPDF文書を保護している場合だ。単にセキュリティ設定すると、まったく音性読み上げが不可能になる。

低暗号化レベルのセキュリティの場合は、Acrobatの[セキュリティ]メニューの[パスワードによるセキュリティ]を選択し、ダイアログボックスで「テキスト、画像、その他の内容のコピーおよびアクセシビリティを有効にする」を選択し、高暗号化レベルのセキュリティの場合は、同じダイアログボックスで「スクリーンリーダーデバイスのテキストアクセスを有効にする」を選択しておくことで、これをクリアできる。

セキュリティとアクセシビリティは、PDFに限らず、しばしば衝突する問題であるが、できるだけ多くのユーザーに情報提供するために、このような点にも配慮したい。


本記事は『Web STRATEGY』2007年11-12 vol.12からの転載です

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