第9回 音声読み上げとWebライティング(その2) - WEBライティングと文章編集の実践テクニック | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-

第9回 音声読み上げとWebライティング(その2) - WEBライティングと文章編集の実践テクニック

2024.4.20 SAT

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WEBライティングと文章編集の実践テクニック


文=益子貴寛 (株)サイバーガーデン 代表取締役
Webプロデューサー/コンサルタント。(社)日本能率連盟登録資格「Web検定」プロジェクトメンバー。Webデザインに関する記事執筆、講義など多 数。『月刊web creators』(MdN)、ITpro(日経BP社)、Web担当者Forum(インプレスR&D)に連載をもつ。著書に『Web標準の教科 書 ─XHTMLとCSSでつくる“正しい”Webサイト』『伝わるWeb文章デザイン100の鉄則』(ともに秀和システム)。共著に『スタイルシート・デザ イン』(MdN)、『変革期のウェブ』(マイコミ新書)など。
url. www.cybergarden.net/


第9回
音声読み上げとWebライティング(その2)


前号に引き続き、おもに音声読み上げを念頭において、まちがえがちな用字用語の使い方や文章表現を見ていこう。今回は、数字と単位、機種依存文字と記号類、漢字と送り仮名、振り仮名の表記問題を解説する。最後に、文字要素の可読性とデザイン性という、本質的だがあまり語られないポイントを取り上げる。

本記事内での音声読み上げは、一般的な音声ブラウザに基づきます。ほかの音声ブラウザやスクリーンリーダーでは必ずしも同じ結果が得られない場合があります。


数字に関する表記

数字とそれに関する記号を表記するにあたって気をつけるべき点がいくつかある。まず金額については、「\」や「$」といった通貨記号を数字の前に置いて表記しないことだ。基本的に記号類は読み飛ばされ、「\」や「$」も例外ではないため、金額であることが伝わらない可能性が極めて高い。つまり、「\1,000,000」ではなく「1,000,000円」と表記すべきということになる【1】。

【1】貨単位は記号で示さず、最後に「円」や「ドル」といったテキストで示そう
【1】貨単位は記号で示さず、最後に「円」や「ドル」といったテキストで示そう


次に、単位について考えてみよう。「mm」「cm」「m」「km」などの長さ、「mg」「g」「kg」「t」などの質量、「ml」「l」「cc」などの容積といった単位は、理解しやすいかたちで読み上げられるものもあるが、「センチメートル」「キログラム」「リットル」とカナ表記したほうが確実だ【2】。

【2】数字に単位を付ける場合はカナ表記するほうが確実
【2】数字に単位を付ける場合はカナ表記するほうが確実


ITに関する情報を掲載しているページでは、「B」「KB」「MB」「GB」などの情報量、「kbps」「mbps」などの転送速度、「kHz」「mHz」などの電波振幅数といった単位を利用するケースもあるだろう。これらについても、なるべくカナ表記したほうがよい。

なお、数字を表記する際、3桁ごとにカンマを入れておくのがよいとされている。音声読み上げソフトによってはこのカンマが入っていない場合、数字をひとつひとつ読み上げてしまうことがあるので注意したい。


機種依存文字、記号類

機種依存文字は文字化けの原因となるだけでなく、音声読み上げが適切に行われない可能性が高いので、使用を避けるべきである。機種依存文字とは、OSの種類などに基づく記号や文字のことであり、そのプラットフォーム環境でしか適切に表示・表現されない。たとえばWindowsやMacintoshの丸囲み文字やローマ数字、ミニ文字などがある。なお、使っても安全な記号類をまとめておいたので、参考にしてほしい【3】。

【3】使っても安全な記号類
【3】使っても安全な記号類


前述のとおり、記号類は基本的に読み上げの対象とはならない。ただし、IBMホームページ・リーダー Windows版 Ver.3.04では、いくつかの記号については読み上げ対象となるので、覚えておくとよいだろう【4】。とはいえ、たとえば「?」が特定のソフトで「から」と読み上げられるからといって、ほかのソフトでも同じとは限らないため、きちんとした読み方で表記したほうがよい。

【4】IBMホームページ・リーダーで読み上げ対象となる記号類
【4】IBMホームページ・リーダーで読み上げ対象となる記号類


漢字、送り仮名、振り仮名

漢字について、通常の表記と音声読み上げも考慮した表記には、わりと隔たりが生まれることがある。たとえば「方」という漢字は文脈によって「かた」「ほう」と読み分けるが、音声読み上げでは「ほう」と読み上げられる傾向がある。たとえば「参加者の方は」は「さんかしゃのほうは」と読み上げられてしまう。したがって、この場合は「参加者のかたは」と平仮名で書くか、「参加者の人は」と別の言い回しで書いたほうが混乱が少ないといえる。

同様の例として「行って」がある。文脈によって「いって」「おこなって」と読み分けるが、音声読み上げでは「いって」と読み上げられる傾向がある。したがって、意図どおりに読み分けてもらうためには「行って」「行なって」と書き分けたほうがよい。

また、「辛い」は「からい」と「つらい」というまったく別の意味になる読み方が可能だ。この場合も、より一般的・直感的な「からい」のときに「辛い」と表記し、「つらい」は平仮名で書いておいたほうがよいだろう。

さて、実は送り仮名や仮名書きには国内基準が用意されているのを知らない人も多いだろう。「公用文における当用漢字の音訓使用及び送り仮名の付け方」(昭和48年、内閣訓令)と「公用文における漢字使用等について」(昭和56年、事務次官等会議申合せ)のふたつがそれである【5】。

【5】「本則」と「公用文」はWeb上でも見ることができる
【5】「本則」と「公用文」はWeb上でも見ることができる
(www.konan-wu.ac.jp/~kikuchi/kanji/okuri.html)
(www.geocities.co.jp/Bookend-Kenji/7118/koyobun06.html)

前者には「本則」「例外」「許容」として漢字や送り仮名の指針が示されている。一方、後者は前者の修正版という位置づけになる。これらふたつは、Microsoft WordなどのOffice製品でも、「文章校正の詳細設定」で送り仮名のルールとして選択できる(「本則」と「公用文」という選択肢)。

「公用文」の接続詞の説明を見てみると、「かつ」「したがって」「ゆえに」などは仮名で、「及び」「並びに」「若しくは」などは漢字で書くと述べられている。しかし、現在はどのメディアも、難解な漢字は平仮名で書く傾向があり、「および」「ならびに」「もしくは」と表記するケースが多い点に留意しよう。

振り仮名についても考えてみよう。先ほど難解な漢字は平仮名で書くと述べたが、それでも正確性を期したり、平仮名では伝わりにくい表現は、漢字で表記せざるを得ない。この場合、たとえば「躊躇(ちゅうちょ)」「脳梗塞(のうこうそく)」のように、漢字のあとにカッコ書きで仮名を振るのが一般的だ。

しかし、この方法も万能ではなく、音声読み上げソフトが対応している漢字であれば、同じ音が2回読み上げられてしまうことになる。あるいは、たとえば「脳梗塞」のうち「脳」だけに対応している場合は「のうのうこうそく」と、「脳梗塞」のうち「脳」を「のう」、「塞」を「さい」と読み上げられた場合は「のうさいのうこうそく」と読み上げられることになる。

さらに、アクセシビリティ支援製品である富士通の「WebUD」(segroup.fujitsu.com/consulting/strategy/accessibility/webud/)やIBMの「らくらくウェブ散策」(www-06.ibm.com/jp/accessibility/solution_offerings/EasyWebBrowsing.html)の導入サイトの場合、これらの製品には振り仮名(読み仮名)機能がついているため、それとの兼ね合いを考えなければならない【6】。

【6】富士通「WebUD」の導入サイト例。
【6】富士通「WebUD」の導入サイト例。
広島市ホームページ(www.city.hiroshima.jp/)


文字要素の可読性とデザイン性

最後に、文字要素の可読性やデザイン性と音声読み上げについて考えてみたい。適切な音声読み上げを考えるのであれば、漢字はまったく使わずにすべて仮名で表記したほうがよい。しかし、Webページは音声読み上げだけを念頭において制作されているわけではなく、すべて仮名で表記した文章は、通常の漢字交じりの文章と比べて可読性や理解度の点で格段に劣る。

デザイン性の観点からも、たとえば、漢字であれば4文字で収まるものも仮名では10文字分の領域を要するなど、かなり自由度が制約されてしまう。領域に対して情報量が減少するということであり、逆にいえば、情報量を維持するためにはより多くの領域を要するということである。

これらは、表音文字である英語などと大きく異なり、表意文字の言語体系をもつ日本特有の問題である。Web制作者・運営者の今後の対応としては、XHTML 1.1から利用できるようになったルビ機能(マークアップ)のWebページへの導入やCSSによるルビ表現の操作がまず考えられるが、しばらくはブラウザの実装を待たなければならない状況である。

このように、アクセシビリティの中でも特に引き合いに出される音声読み上げ問題については、テクノロジーインフラの整備や進展を待たなければ、根本的な解決が図れないものも多い。ただ、大切なのは、よりよいかたちでアクセシビリティに対応できるように、いろんな支援ツールを使ってみたり、実際のユーザーの声に耳を傾けること、そして、現状はベストとはいえなくても、可能な限りベタープラクティス(よりよい実務)を積み重ねることである。


本記事は『Web STRATEGY』2007年5-6 vol.9からの転載です


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