第7回 ユーザー中心デザイン(UCD)とWebライティング - WEBライティングと文章編集の実践テクニック | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-

第7回 ユーザー中心デザイン(UCD)とWebライティング - WEBライティングと文章編集の実践テクニック

2024.4.20 SAT

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WEBライティングと文章編集の実践テクニック


文=益子貴寛 (株)サイバーガーデン 代表取締役
Webプロデューサー/コンサルタント。(社)日本能率連盟登録資格「Web検定」プロジェクトメンバー。Webデザインに関する記事執筆、講義など多 数。『月刊web creators』(MdN)、ITpro(日経BP社)、Web担当者Forum(インプレスR&D)に連載をもつ。著書に『Web標準の教科 書 ─XHTMLとCSSでつくる“正しい”Webサイト』『伝わるWeb文章デザイン100の鉄則』(ともに秀和システム)。共著に『スタイルシート・デザ イン』(MdN)、『変革期のウェブ』(マイコミ新書)など。
url. www.cybergarden.net/


第7回
ユーザー中心デザイン(UCD)とWebライティング


ユーザー中心デザイン(UCD)の発想をWebライティングに生かす方法を見ていこう。大切なのは、ユーザーターゲット、ニーズ、前提知識、シチュエーションをイメージすることだ。あわせて、ユーザーリテラシーに配慮した言葉選びについて考えてみよう。


ユーザー中心デザイン(UCD)とは

最近、ユーザー中心デザイン(User-Centered Design: UCD)という言葉をよく耳にする。そもそもWebサイトに限らず、どのような商品やサービスもユーザーあってのものであるため、当たり前といえば当たり前のことであるが、「供給者主導」という言葉があるように、ユーザーのことをあまり考えずにつくられたWebサイトが多いのも事実だ。

一昔前までは「Webサイトはとりあえず公開しておけばよいもの」、「パンフレットや商品カタログのようなもの」という認識が強かった。しかし、Webというメディアが誕生して15年が過ぎ、アプリケーションやテクノロジーの進化だけでなく、「ユーザーの成熟」という時代背景が、運営者・制作者ではなくユーザーを基点に考えることの必要性を後押ししている。

Webサイト制作は「サイトで実現したいことは何か」という問いから始めることが多い。これはあくまで運営者の視点であって、ユーザーの視点が抜け落ちている。ユーザーが「サイトに求めることは何か」ということを同じぐらいの熱量で考えておかなければ、よいサイトはつくれない【1】。

【1】ユーザー中心デザイン(UCD)とは、これまでのように「運営者がサイトで実現したいこと」だけでなく、「ユーザーがサイトに求めることは何か」を同等(またはそれ以上)に重視することだ
【1】ユーザー中心デザイン(UCD)とは、これまでのように「運営者がサイトで実現したいこと」だけでなく、「ユーザーがサイトに求めることは何か」を同等(またはそれ以上)に重視することだ


ユーザー基点で考えるWebライティング

では、Webライティングの観点からUCDを考えるとどうだろうか。文章をどのようなユーザーが、どのようなニーズで、どのような前提知識や経験をもって、どのようなシチュエーションで読むのかを考えることが大切である。このような考えに基づいて、UCDの発想をWebライティングに生かす方法を説明しよう。

1. どのようなユーザーが読むのか
Webに限ったことではないが、ターゲットユーザーを設定しておくことはコンテンツ制作の基本といってよい。文章を書く際にも、だれに対して伝えたいのか、どのようなユーザーが読むのかを明確にイメージしておく必要がある。

たとえば「日本の政治問題」というテーマについて、万人向けに書くのと知識層(インテリ)向けに書くのとでは、内容はもとより表現やテイストがおのずと違ってくる【2】。テーマによっては男性向けと女性向けといった区別もあるだろう。Webというメディアはだれでもアクセスできることが前提であるが、どのようなユーザーに伝えたいかを明確に決めておかないと、効果的なコンテンツをつくるのは難しい。

【2】ユーザー層を考えた内容、表現、テイスト選び
【2】ユーザー層を考えた内容、表現、テイスト選び


2. どのようなニーズで読むのか
ユーザーが何を求めてその文章を読むのか、というユーザーニーズを察知することも大切だ。
ただし、たとえば「企業情報を知りたい」というユーザーニーズがあるとして、そこで思考をやめてしまっては意味がない。具体的にどのような企業情報を知りたいのか、「会社概要」か「会社沿革」か「財務情報」かという情報の種類や、求める性質としては「即時性」か「詳細さ」か「リアリティ」か、といったことを考える必要がある。

また一方で、あらゆるユーザーニーズをとりこぼしなく満たすのは難しい、という認識も必要である。よく知られていることに即時性と正確性のトレードオフがある。即時性が高ければ正確性が、正確性が高ければ即時性が低くならざるを得ないということである。ニーズにこたえるために何を重要視するかを考えなければいけない。

「会社沿革」というコンテンツを考えてみると、クロニクル(年代記)的なつくりがよいのか、経営者へのインタビュー(回顧録)のようなつくりがよいのか、その両方を組み合わせて掲載するのがよいのかはユーザーニーズによる【3】。経営者がメディアへの露出が多い人物であれば、インタビューコンテンツが効果的だ。「ユーザーがその経営者の言葉を直接聞きたいと思うかどうか」というニーズが、コンテンツの判断基準ということがわかるだろう。

【3】ユーザーのニーズを考えたコンテンツ選び
【3】ユーザーのニーズを考えたコンテンツ選び


3. どのような前提知識や経験をもって読むのか
ユーザーがそのコンテンツに訪れるまでに得ている情報や、常識として備えているであろう知識や経験がどの程度かということも考えておきたい。

ある有名メーカーのポテトチップスは、ほとんどのユーザーが目にし、口にしたことがあるだろう。テレビCMなどでイメージをつかんでもいるはずだ。一方、知名度がない会社の、有機栽培したジャガイモと天然塩を使用したこだわりのポテトチップは、ほとんどのユーザーにとって未知の商品である。両者はユーザーの前提知識や食べた経験という点で大きく異なっている。Webでの商品説明に含める内容、いわゆる「プロット」もおのずと違ってくるはずだ。前者では多くの消費者に支持されている理由、商品バリエーションや流通の広さなどに、後者ではいかに自社製品のこだわりや安全性を知ってもらうか、広く流通している有名メーカーのポテトチップスとどう違うかなどにフォーカスするのがセオリーになるだろう【4】。

【4】ユーザーの前提知識や経験を考えたプロット選び
【4】ユーザーの前提知識や経験を考えたプロット選び


サイト全体のつくりとして、ホームやカテゴリトップで商品イメージをすでに伝えているのであれば、個別ページでは詳細情報に特化するなど、ユーザーがそのコンテンツを見るまでに得ている情報との兼ね合いを考えることも大切である。もちろん検索エンジンから個別ページに直接訪れるユーザーもいるため、ある程度の情報の重複は避けられないが、「どのぐらい重複させるのか」というサジ加減もまた、きちんと考える必要がある。

4. どのようなシチュエーションで読むのか
ユーザーがその文章を目にする場所、時間帯を想定しておこう。

たとえば仕事中にザッピング感覚で見る人を対象にするのか、自宅で夜ゆっくり見る人を対象にするのかで、文章をどう構成するかが変わってくる。段落を頻繁に分け、見出しを細かいレベルまで与えるのか、それともシンプルな読み物風にざっくりとした構成でよいのか、といったことが考えられる。

以前、あるニュースキャスターが「朝と夜のニュース番組では伝え方が違う。朝は忙しい人でもわかりやすいように短めでダイジェスト的に、夜は腰を落ち着けてみる人が多いのでそれぞれのテーマを深く掘り下げるように構成して伝える」と述べていた。Web上の文章も、ユーザーのシチュエーションを考えて構成し、書くことが大切である【5】。

【5】ユーザーのシチュエーションを考えた構成選び
【5】ユーザーのシチュエーションを考えた構成選び


ユーザーリテラシーと言葉選び

ユーザーがどのようなリテラシー(読み書き能力)を備えているかをイメージすることは、文章を書くうえでとても大切である。特にカタカナ語や略語、難解語をどの程度まで使ってよいかは、ユーザーが備えているであろうリテラシーレベルに依存する。これらの語は、文章の雰囲気やテイストを決定づける大きな要因であるため、書き手の思惑と読み手のリテラシーとのバランスをとるのが難しい。

書き手が知的な雰囲気を演出するためにカタカナ語を多用したいと考えているとしよう。しかし、それが行きすぎると、読み手はところどころで理解が難しいと感じてしまうかもしれない。つまり、書き手は「このぐらいのカタカナ語であれば、多くのユーザーが知っている、あるいは文脈から類推できるだろう」という想定のもとで言葉を選ぶ必要がある。略語や難解語も同様だ。これらについては、どうしてもその文脈で使う必要がある(使いたい)場合、括弧書きで意味や読み方を補足するとよいだろう。そうすることで、文章のテイストを保ったままユーザーの理解を促すことができる。どのくらい補足するのかも、やはり読み手のリテラシーレベルをイメージして行う必要があるのは言うまでもない。

なお、カタカナ語の選び方については、独立行政法人 国立国語研究所の「外来語定着度調査」が参考になる(www.kokken.go.jp/public/gairaigo/Yoron/)【6】。ハ行を見てみると、認知率がもっとも高いのが97.2%の「ボランティア」、もっとも低いのは5%の「フィランソロフィー」だ。たとえばサイト全体として「認知率50%以上の外来語は使用してもよい」といった基準を設けるなど、運営に生かしてもよいだろう。

【6】独立行政法人 国立国語研究所の「外来語定着度調査」
【6】独立行政法人 国立国語研究所の「外来語定着度調査」


ジョークやウイットほか、凝った表現についてもユーザーリテラシーに依存する点に注意しよう。ある特定の年齢層にしか通じないジョークや、シェークスピアの戯曲に出てくるそれほど有名でないウイットを説明なしに使った場合、読み手の多くが途方に暮れてしまうかもしれない。ここらへんの「踏み込み」は下手に説明的になると効果がないので悩ましいところだが、ターゲットユーザーを相当絞り込んでいる場合を除いては、それなりの気遣いをもって使う必要がある。


本記事は『Web STRATEGY』2007年1-2 vol.7からの転載です
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