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ソシオメディア UX戦略フォーラム 2017 Spring イベントレポート「エクスペリエンスリーダーの現在」

【イベントレポート】
ソシオメディア UX戦略フォーラム 2017 Spring 「エクスペリエンスリーダーの現在」

2017年6月23日
TEXT:ソシオメディア株式会社
ユーザーエクスペリエンス(UX)のコンサルティングを行うソシオメディアは、2017年4月26日に「UX戦略フォーラム 2017 Spring」を開催した。今回のテーマは「エクスペリエンスリーダーの現在」。世界を代表するエクスペリエンスリーダーである IBM Design ゼネラル・マネジャーのフィル・ギルバート氏(Phil Gilbert)をキーノートに迎え、また日本を代表する企業においてエクスペリエンス分野を牽引する3名を迎えながら、企業戦略の中核にUXを据えるリーダー像の現在を探った同イベントをレポートする。

2014年に始まった同フォーラムシリーズは、これまで6回にわたり「UXの最新動向とUX戦略の実践」「メトリクスの基本と応用」「イノベーションのためのUXマネジメント」「メソッドの基盤」「メトリクスの探求」「イノベーション組織の推進」をテーマに開催してきた。今回はこれらに続く7回目として、企業におけるUX戦略やUXリーダーシップのあり方について学ぶ機会となった。
「よいデザインだけではもはや充分ではない:差別化のためのデザインを目指して」フィル・ギルバート氏(IBM)
フィル・ギルバート氏(IBM)

フィル・ギルバート氏(IBM)

この演題は、「よいデザインがよいビジネスである」(優れたデザインがあってこそより強固な企業ブランドが築かれる意)という、トーマス・J・ワトソン・ジュニア(IBMを絶対的な地位へと導いた名経営者)による名言にならっている。

美しいものを作るのではなく、効果を生んで結果を出す手段がデザインであると語るギルバート氏は、自身が立ち上げた企業がIBMに買収されるとともにIBMに参画し、デザイン思考を取り入れた実践によって18ヶ月かけて1000人のエンジニアの意識を変え、45あった製品を4つに絞り、売上げを倍にしてシェアを獲得した。その活動をIBMの全子会社に展開することを経営陣から求められ、「IBMの未来は顧客体験の実現にかかっている」として、デザイナーを1000人採用。現在では世界各国に42のデザインスタジオがあり、デザイナーも1500人ほどになっているが、IBMの変革を実現するためにはまだ足りないと語る。

「現代社会では顧客との関係がデジタル化している。製品がなんであれ、顧客がもっとよいデジタル体験を得られるようにしなければならない。デジタルはすばやい変化が可能なので、スピードがデザイン思考には必須」。そして、デザイン思考に必要な三項目(IBM Design Thinking)を掲げて締めくくった。

・ユーザーに対してどのように結果を出すかへのフォーカス(Forcus on user outcomes)
・やむことなき再発明の繰り返し(Restless reinvention)
・あらゆる多様性があり、エンパワーメントをもったチーム(Diverse, empowered teams)
「社会イノベーションのための協創とUXデザイン」
 北川 央樹氏(日立製作所)
北川 央樹氏(日立製作所)

北川 央樹氏(日立製作所)

企業の中にデザイン思考をインストールする方法は、企業の方向性や事業によって異なる、と語る北川氏は、日立がどのようにデザイン思考を拡げてきたのかについて説明した。「まず組織を変革。社会イノベーション協創センタを作り、デザイン本部のデザイナーをそこへ異動し、顧客とともに作る形にした」。
また、銀行などの大規模なシステム開発の要件定義をするときのコンサルティングの手法としてEXアプローチを実践、これを様々な業種業態に展開したという。例えば東日本大震災時の仙台の避難所における3ヶ月にわたる日報を分析し、防災計画に取り入れられるような活動から、「企業の中だけでやるのではなく、社会の人々を取り込んでいく」ことの重要性を説いた。

「問題の裏返しの解決策では本質的な問題解決はできない」としてUXの重要性を語るとともに、「その限界もあるので、データのアナリティクスやAIをデザイナーが活用することで突破していくことが必要」とした。
「UXを通じて新たなイノベーションを生み出す場作りへのチャレンジ」
  青山 昇一氏(パナソニック)
青山 昇一氏(パナソニック)

青山 昇一氏(パナソニック)

創業者松下幸之助からはじまるユニバーサルデザインのポリシーがパナソニックにはあった。青山氏は、そのような流れの中からパナソニックのUD基本6原則を作った経験をまず紹介した。そのUDも取り入れたUXのモデルを社内で規定し、サービス全体の視点からUXをとらえ、また「UX評価マップ」を作成してUXを客観化する取り込みをしているとのこと。

一方、青山氏は2016年4月に竣工した「Wonder LAB Osaka」を現在担当し、ここではデザイン思考の実践、交流しながら作業する空間としての多様なイベントを開催している。「Wonder LABでは、社内外のメンバーのモチベーションを上げ、その中でUXへの理解を深めてもらう実践を続けている」と語った。
「豊かな未来社会を実現する『富士通ヒューマンセントリック・エクスペリエンスデザイン』-その概要と実践事例」上田 義弘氏(富士通デザイン)
上田 義弘氏(富士通デザイン)

上田 義弘氏(富士通デザイン)

スタッフ200名強で年間1600ほどのプロジェクトを行っているという富士通デザイン。昨今は、AI、クラウド、IoTをあわせたナレッジインテグレーションなどをトータルに扱っているが、進化したテクノロジーをどのように活用すべきかがわからない顧客が多い。そこで例えばIoTの活用シーンを30のストーリーにまとめ、顧客と共有してディスカッションしたり、デザイナーが企業の現場を視察し、ワークショップを開催してジャーニーマップやサービスブループリントを描き、ツールを提供する、といった実践をしてきた。こうしたタイプの案件が年間300〜400にのぼるという。

上田氏はこうした実践から「思うこと」として、最後に以下の3つをあげた。

・創出するUXの質と実現力:どのようなメンバーなら成功するかというチーミング。
・お客様の思いと経営者の意思。
・企業のアイデンティティと開発者の倫理観:企業のアイデンティティが判断に影響するブランドとしての判断と、社会にとって悪い面はないかという視点。
●パネルディスカッション
パネルディスカッションでは、まずは「UXが経営に売れいれられつつあるが、リーダーシップとしての資質は何だと思うか」という質問に各パネラーが回答した。
「社内でも客先に対しても、トップにデザインの価値やメリットを伝え、浸透させることができること」(北川氏)、「創造力、共感力、そして多様性を受け入れること。また根気も大事。UDを立ち上げた先輩からは『ろうそくに火をともす』と言われた。火はすぐに消えるのでまたつけにいく」(青山氏)、「ビジョンを示すことと、環境を作ること」(上田氏)、「教育、ビジョン、謙虚さが重要。そして今みなさんの話を聞いていて、コミュニケーションも大事だと思った。自分の意見を効率的に伝えるということ。そのためには、よく考えて理論をうまく作ることと、説得力を持つことが必要」。

続いて青山氏からギルバート氏へ質問。「組織の中に新しい仕組みを導入しようとすると、困難があると思うが、どのようにしていったか?」

「IBMには変革は可能だという文化があったが、抵抗もあった。リーダーに自分のこととして変革に同意してもらう必要がある。まずは小さな規模からはじめ、成果を出していった。『Leading Change』(邦訳:『企業変革力』日経BP社刊)は最高のチェンジマインドの本として参考になる」。その回答を受けて北川氏が「そのような成果を積み上げてエグゼクティブを説得していくために、どのように成果を設定するべきか」と質問。

ギルバート氏は「いろいろなことを試みたが、今から実践するのであれば、NPS(ネット・プロモーター・スコア)を徹底的に企業の中に植え付けるだろう。NPSはプロセスではなく結果のメトリクスであり、これがUXの結果そのもの。また定性的な回答ももらえる点もNPSのよいところ」とNPSの有効性を紹介した。

最後に上田氏から「デザイナーの質を高めるには何が有効か」という問いかけがあり、ギルバート氏はこう答えた。「我々のプログラムの興味深い点は、個人個人に対応しないこと。チーム全体にアプローチし、カルチャーを浸透させ、チームのパフォーマンスを最大化する。そのための制度を作り、ツールを提供している」。
関連情報
・UXSFについて https://www.sociomedia.co.jp/uxsf


ソシオメディア株式会社
●2001年に設立されたUXデザイン・コンサルティングファーム。ユーザーインターフェース・デザインやデザイン・リサーチ、コンセプト・デザインを専門とする。同時に、企業組織やチームへのコンサルティング活動やITスタートアップにおけるリーンアプローチの経験などを活かし、ITとエクスペリエンスデザインに関わる包括的な専門性を用いながら、企業のイノベーションに向けた「UX戦略コンサルティング」の諸活動に注力している。
URL:https://www.sociomedia.co.jp/

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