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第40回 恵まれた環境が支えるWEB制作プロダクション

自由でリベラルな独特の文化を誇る北欧のWeb制作プロダクション。こうした会社でプロとして仕事をするスタッフは、日本のWeb業界と比較してどのような仕事をしているのだろう。日本の業界事情も比較的詳しいスウェーデンのインタラクティブエージェンシー、Great Works(www.greatworks.se/)設立者のひとりである、フレデリック・ベルグストローム氏に話を聞いた。

(文=井上準之介)


スウェーデンのWeb制作業界


スウェーデンでのWeb制作業界の仕事は、一般的にはほとんど理解されておらず、ステレオタイプなイメージが先行しおもしろおかしく語られる。友人はなく、オフィスに住み込み黙々とキーボードをたたくハイテクオタク、というイメージが代表的だ。しかし、真実はその逆だ。Webクリエイターたちは、最初IT技術をそれほど理解していなかった。ただ何か新しい、しかし何ができるのかもよくわからないまま、まったく未知の世界へ好奇心にあふれた気持ちで踏み込んだのだ。

黎明期のWebプロダクションの多くはとても小規模で、テクノロジーとデザインが好きな若い起業家たちによって設立された。就業時間はほかの業界の倍以上で、仮眠用ベッド完備のオフィスも珍しくなかった。また、一緒に仕事をする仲間も身内であることが多く、会社は「家族」のような存在だった。

Webプロダクションの一日


担当する役割によって若干の差はあるが、9時の出社からスタートし、ほとんどのスタッフは社内で作業を行って一日を過ごす。そして、ランチや短い休憩を挟み、大きな作業がない限り、ほとんどは18時ごろ退社する。

各自の作業以外に、社内での打ち合わせを行うが、その時間は非常に短い。また、クライアントや外部とのミーティングのために外出することもあるが、この役割はおもにプロデューサーやディレクターが担当し、彼らが社内のスタッフにクライアントの要望などを伝えるというスタイルをとっている。

スウェーデンのWebプロダクションでの仕事は、基本的にほかの国との差はない。時には夜を徹して作業を行い、ほかの業界では見られない業務時間になることも少なくない。しかし、どうしても必要な場合を除いては仕事を早く終わらせて定時に退社するという意識が高いため、限られた時間の中で集中して効率よく仕事を進めることを徹底している。

若くて優秀な人材が集まるWeb制作業界


スウェーデンは他のヨーロッパ各国と比較して最新技術への意識が非常に高い国だ。かなり早い時期に発生したブロードバンド革命は、政府による強力な経済的支援により実現したものだった。こうしたインフラ面での整備は、若者たちがWeb制作の技術を非常に速いスピードで学ぶための地盤を固める、強力な後押しとなった。

同時に、ベンチャーキャピタルなどの投資家たちは、こうした若い起業家たちへ積極的に投資を行い、インターネットブームを巻き起こすことになる。これが、現在世界的にも高く評価されているスウェーデンのWebプロダクションの優秀な人材とそのマインドを育てる原動力になった。

Web制作業界における給与は、通常年俸金額をベースに個人の能力や経験をもとに決められる。最近では、優秀な人材の獲得競争が激しくなってきており、募集広告だけでは優秀な人材の獲得が難しく、ヘッドハンターに人材探しを依頼することが増えている。若く優秀なクリエイターたちは経験を積み、スキルを高めることでより高いレベルの仕事にチャレンジする環境が整いつつある。また、最近ではスウェーデン国内だけでなく、ロンドンやニューヨークなど海外からの優秀な人材採用も積極的に進めている。

さらに、こうした若く優秀な人材を育成するため、国内ではWeb分野における専門教育も盛んだ。学生たちは、高校に進学する際にデザイン、映像制作などの専門教育を行う学校を選択することができる。その次のステップとして、大学や専門学校に進学して専門分野をさらに深く学ぶことも可能だ。

なかでも、ハイパーアイランド(www.hyperisland.se/)、ベックマンズ(www.beckmans.se/)などの専門学校はWeb制作業界向けの優秀な人材育成に重要な役割を果たしている。主要なWebプロダクションでは、こうした専門学校とも連携し、インターン制度を通じて優秀な学生を実際の現場に受け入れたり、卒業後の就職先として広く門戸を開いている。

グローバルクライアントのWeb制作


Web制作業界は、これまで他のメディア制作業界より給与レベルが低かった。広告業界の中で既存のメディアと比較して新しいWebの評価がまだまだ低い位置づけにあったからだ。しかし、この傾向はここ1~2年で急速に変化している。広告業界ではWebの重要性が非常に高まってきており、大手代理店では新興Webプロダクションで活躍する優れた人材の積極的な採用を進め、これに伴ってWeb制作業界全体の給与レベルも上昇を続けている。

新興業界にあるWebプロダクションでは、そこで働く者はほとんどが20歳代の若者だ。現在、この業界のビジネスは成熟し、他の業界と比較してよりグローバルな展開が可能となっている。たとえば、広告コンテンツを制作する場合、他のメディアでは国内またはスカンジナビア諸国という限られた地域で活動を行う企業がほとんどである一方、Webではグローバルに仕事を行うことが非常に容易だ。それはもちろん、コミュニケーションに必要な英語を国民のほとんどが使えるスウェーデンだからこそだといえるだろう。


ベルグストローム氏
ベルグストローム氏(写真左)/ 仕事道具(写真右)


ミーティング風景
ミーティング風景(写真左)/Great Worksのメンバー(写真右)


Profile/井上準之介

株式会社ティー・ワイ・オーインタラクティブデザイン、執行役員プロデューサー。新規事業開発・海外事業展開ビジネス分野での多様なプロジェクトを経て2004年TYO-IDに入社。同社がすすめるグローバルパートナーとの協力によるコンテンツ企画・制作体制構築を推進

本記事は『web creators』2008 vol.80からの転載です。本特集全記事は誌面で読むことができます。
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