旬のアートディレクターをお迎えして、デザインする際のプロセスを伺うとともに、創作のスタンスに迫るこのコーナー。第28回目は大島依提亜氏。第1話では、映画『かもめ食堂』(配給:メディア・スーツ)のパンフレットを紹介する。
第1話
スーツケース型の映画パンフレット『かもめ食堂』
「モノ」を意識した佇まい
荻上直子監督のもと、全編を通じてフィンランドでロケーション撮影がされた映画『かもめ食堂』。大島さんがデザインしたパンフレットは、作中に出てくるスーツケースをモチーフにしたユニークなものだ。冊子というよりは、際立った「もの」としての存在感が多くの人の目を引き付けた。
「はじめは小ロットを想定していたのですが、思いのほか好評で、最終的には当初の予定から10倍近くもの部数を刷ることになりました。取っ手へのタグ付けをはじめ、手作業による処理も多かったので印刷工程は大変のようでしたが、完成品は一括納入ではなく、映画館に分納することで、何とかしのぐことができました」
シールをペタペタと貼り付けたようなグラフィックは、旅行バッグのたたずまいを表現するアイデア。なかでも、ここで注目したいのはフィンランド航空のロゴ。表1に採用されたそれは見るからにキュートな旧式のものだ。
「現在のロゴとは形が異なります。しかし、映画の雰囲気には以前のものの方があうかと思い、フィンランド航空に直接交渉してみたのです。結果、裏面に現行のものも入れれば良いとの条件つきで承諾を得られました」
こうしたアイデアを定着するための印刷にも抜かりはない。インキには白とスミ、青の特色を採用。にじんだ文字やマークの重なり具合などで、まるで本当にシールが貼ってあるかのような立体感が表現されている。
「UVインキなどを用いた隆起印刷ではないので、グラフィックの配置や濃淡の工夫によって、なるべく平面的な印象になるのを防いでいます。白のオペークインキは2度刷りしました。この板紙は白オペークとの相性が良く、不透明度を効果的に使えるので、かなり重宝します」
「UVインキなどを用いた隆起印刷ではないので、グラフィックの配置や濃淡の工夫によって、なるべく平面的な印象になるのを防いでいます。白のオペークインキは2度刷りしました。この板紙は白オペークとの相性が良く、不透明度を効果的に使えるので、かなり重宝します」
パンフレットと映画の距離感
このようにパンフレットを作りあげていく上で、大島さんが注意しているポイントは「内容に踏み込み過ぎたビジュアルを避ける」こと。それは今回の場合に限ったことではなく、映画の観客に対する配慮である。
「パンフレットは基本的に劇場を訪れたお客さんが買うものです。とはいえ、購入するタイミングはまちまちで、意外にも上映前に購入する方も多い。だから、特に物語の展開がハッキリしている作品に関しては、エンディングを想起させる絵を使わないように心がけています」
劇中カットの扱い方も重要だ。今回のパンフレットには、写真家の高橋ヨーコさんが撮影したスチール写真を本文ページに使用。それらを活用したページ構成にも工夫が見られる。
「ページネーションで工夫してクオリティを高めるためには、綿密な台割調整が欠かせません。特に僕の場合、使用インキの数や紙の種類、サイズなどをページごとに変えるケースも多い。だから、クライアントには内容だけを羅列してもらい、こちらで台割を作成することも珍しくないんですよね」
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)
「ページネーションで工夫してクオリティを高めるためには、綿密な台割調整が欠かせません。特に僕の場合、使用インキの数や紙の種類、サイズなどをページごとに変えるケースも多い。だから、クライアントには内容だけを羅列してもらい、こちらで台割を作成することも珍しくないんですよね」
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)
次週、第2話は「映画媒体における幅広い展開」について伺います。こうご期待。
●大島依提亜(おおしま・いであ) |