第2話 平滑でない紙を使った写真集 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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第1話に引き続き、マッチアンドカンパニーの町口覚氏によってデザインされた作品を紹介し、その制作過程における思考のプロセスに迫る。第2話では、圧倒的な迫力を感じさせる森山大道氏の写真集『S'』をピックアップ。



平滑でない紙を使った写真集『S'』


枠の中で最大限のパフォーマンスを試みる


高いコントラスト、ブレやボケさえもが独特の強さを放つモノクロ写真。日本を代表する写真家、森山大道氏の写真だ。町口さんは、氏の写真集の造本・構成をこれまでに数多く手がけてきたことでも知られる。今年の5月に講談社から発行された『S'』もそのなかの1冊だ。
「誰もいないスポーツの聖地をテーマにした写真集で、もともと雑誌『VS.』(光文社)に連載していた写真です。国立霞ヶ丘競技場、阪神甲子園球場、大倉山ジャンプ競技場、東京競馬場などで撮影されました」

通常版のほか、金色の函に収納された特別限定版も用意されたが、いずれもサイズはA3。一般的な写真集と比べて大きい。この判型は作り手たちがどうしても譲れない、と考える要項だった。
「この判型を出版社に打診した結果、予算組みの関係から本文が96ページになりました。枠が決まれば、だいたいの掲載点数も見えてくるので、その範囲内で最大限のパフォーマンスをすればいい。そこで、森山さんからベタ焼きをすべてお借りして、掲載する写真56点を絞り込んでいきました」


「写真」ではなく「写真集」が好き


通常、写真集などを作成する際には、印刷での再現性が高く、表面がフラットな紙が採用される。凹凸の激しいファンシーペーパーなどでは写真の見え方が変わってしまうことを避けるためだ。しかし『S'』では、あえて布目のような風合いのある王子製紙の“OKエンボス布目”が選択された。

「今回の森山さんの写真であれば、この紙の特性が発揮されるのではないかと考え、事前のテストでフラットな紙と並行して印刷しました。それを森山さんに見てもらったら、僕と同じ意見だったんです。森山さんから“物質的誘惑”という言葉を引き出すくらい、ギラギラした魅力的な佇まいを生み出すことができました」

こうしたある種チャレンジな試みを実践するには、作家との信頼関係が欠かせない。さらには紙との相乗効果で写真集の味わいを高めるという共通の目的があった。

「僕は森山さんの写真集に限らず、様々な写真家の写真集を手がけています。しかし、写真自体が好きなのではなく、あくまでも印刷され製本された写真集が好きなんです。森山さんも印刷物がとても好きな写真家なので、とても仕事がしやすいですね」

ちなみに、リコーによって銀座四丁目に開設されたばかりの写真ギャラリー「RING CUBE」は、12月3日から28日まで『S'』に基づく写真展を開催。ビルの外壁に取り付けられた大型のビジョンには映像も流されるそうだ。クリスマスの銀座で見ることができる、また違った形の『S'』に、町口さんも「今から楽しみ」と心を躍らせていた。
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)


次週、第3話は「特色4色で刷られた写真集」について伺います。乞うご期待。




●町口覚
1971年東京生まれ。デザイン事務所マッチアンドカンパニー主宰。95年、同世代の写真家40人の作品を収録した写真集『40+1 PHOTOGRAPHERS PIN-UP』を製作発表、以来、日本の写真界をリードする写真家たちの写真集を数多く手がける。また映画や演劇のグラフィックデザイン、書籍の装丁なども数多く手がける。05年、写真集レーベル「M」を開始、書籍販売Webサイト「book shop m」(http://bookshop-m.com/)を運営。

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