第1話 アナログの手間を加える印刷物 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
【サイトリニューアル!】新サイトはこちらMdNについて
旬のアートディレクターをお迎えして、デザインする際の思考プロセスと、創作のスタンスに迫るこのコーナー。第32回目は新村則人氏。第1話では「プリントゴッコ」を活用して生み出された無印良品のポスターを紹介する。


第1話
アナログの手間を加える印刷物
「無印良品」



プリントゴッコでの質感表現


無印良品「キャンプ場」のポスターといえば、新村さんが15年ほど前から携わっている代表的な仕事のひとつ。現在の表現スタイルは、ビジュアルを大胆に配置して、さり気なくキャッチフレーズを添えたものだが、初期の頃は、そこに説明文となるテキスト要素がしっかりと盛り込まれていた。

「無印良品のキャンプ場が、世間で認知されてきてから、徐々に文章を少なくしていきました。通常、クライアントは文字を減らすことに対して慎重になるケースが多いのですが、この仕事では先方から少なくしましょうと提案していただいたのです。あまり声高に主張しすぎないほうが、無印良品らしいですからね」

2006年からは、印刷用紙にクラフト紙を採用。さらに、孔版印刷の仕組みで年賀状作成などにも使われる「プリントゴッコ」を制作過程で活用している。いったんイラストをプリントゴッコで刷ってから、それをスキャニングしているのだ。

「エッジの滲みや擦れなどを見せるための工夫です。イラストが単調でしたので、最初はビニールシートなどの素材にシルク印刷することを検討していましたが、印刷の制約で実現できませんでした。代わりにクラフト紙にしたのですが、イラストの質感を出すためにプリントゴッコを活用するアイデアが生まれたのです」


あえてきれいに整えない


だが、この手法は一見すると「二度手間」で、かなり面倒に感じる。そこまでアナログの質感にこだわる理由とは何だろうか。

「現在ではコンピュータが浸透しているので、きれいに整えることは簡単です。ただ、その分、チープに見えてしまう危険性もはらんでいる。それに抵抗があり、常にひと手間を加えたいと思うのです」

そのこだわりが強く感じられるのが、イラスト上にある格子状の模様だろう。ハッキリとした格子は2007年のてんとう虫といも虫のバージョンから見てとれる。これはタイリング出力(ページ分割出力)による繋ぎ目の跡を残したものだ。

「プリントゴッコでは最大A4までしか刷れませんが、イラストを複数に分割して実寸で刷り、あとからデータ上ですべてを貼り合わせています。その繋ぎ目をわざと残しているのです。縮小して刷ったイラストをデータ上で拡大すると、ディテールが見えづらくなってしまいますからね」

2008年には木の表面をモチーフにしたが、複雑な色の違いを見せるためにインキ数を増やした。プリントゴッコで刷る版数も膨大になり、一苦労だったようだ。だが、その「手間」こそが、独特の存在感と暖かみを感じさせる仕上がりを支えている。
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)


次週、第2話は「デザインにおける決断のタイミング」について伺います。こうご期待。




新村則人(しんむら・のりと)
1960年5月5日 山口県生まれ。1980年大阪デザイナー学院卒業後、松永真デザイン事務所、I&S/BBDOなどを経て1995年新村デザイン事務所設立。1999年東京TDC銅賞、1999年及び2000年NY ADC銀賞、1999年、2000年、2001年及び2002年NY ADC銅賞、2000年JAGDA新人賞、2002年ブルーノビエンナーレ特別賞などの受賞歴がある。JAGDA、東京TDC、ニューヨークADC会員
http://www.shinmura-d.co.jp/

twitter facebook このエントリーをはてなブックマークに追加 RSS
【サイトリニューアル!】新サイトはこちらMdNについて

この連載のすべての記事

アクセスランキング

8.30-9.5

MdN BOOKS|デザインの本

Pick upコンテンツ

現在