リアルとデジタルの境界をあやふやにする拡張現実の世界 - WEBデザイン×ITフォーカスノート 第8回 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-

リアルとデジタルの境界をあやふやにする拡張現実の世界 - WEBデザイン×ITフォーカスノート 第8回

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WEBデザイン×ITフォーカスノート

第8回 リアルとデジタルの境界をあやふやにする拡張現実の世界

拡張現実(AR)とはコンピュータによって生成したデータを現実世界と混同させるための研究を指す。映像にデータをリアルタイムで組み込むことで、あたかもデジタルオブジェクトがそこにあるかのような効果がつくり出せる。数十年前から研究が進められているARだが、現在は研究だけでなく広告や教育などさまざまなシーンで見かけるようになった。
(文=長谷川恭久)

拡張現実はごく身近な存在

「拡張現実(Augmented Reality 以下、AR)」とは、現実世界と仮想環境が組み合わさった複合現実の一種だ。リアルのオブジェクトを操作することで、仮想環境のオブジェクトとインタラクションができるのが拡張仮想(Augmented Virtuality)である。ARはその逆で、現実世界をコンピュータに取り込むことによって混同した世界の中を操作できる。

現実世界に新たなリアリティを付加価値として与えることができるAR。最近よく耳にするキーワードであると同時に未来的なものを想像しがちだが、十数年前からTV番組では使われてきた。野球などの競技の解説をする際、アナウンサーが重要なシーンに線や円を描くことがある。VTRを利用しているのでリアルタイムとはいえないが、現実世界とデジタルが融合しているという点ではARだ。また、ニュース番組でアナウンサーが話している同じスクリーン上にグラフやグラフィックが一緒に映し出されることがあるが、これもARの一例だ。TVだけでなく一人称シューティングゲームやWiiコントローラを使ったゲームなど、遊びの要素としてARは重要な役割を果たしている。ARを見ることができるサングラスを使ってデータと混同した現実世界を歩き回るといったSFのようなシーンも、英Vuzix社の「Warp 920 AV」(www.realwire.com/release_detail.asp?ReleaseID=10934)によって実現されている。

拡張現実はごく身近な存在

ARを実現するには、映像のトラッキング、3Dオブジェクトの構築、アニメーションや回転のためのマッピング、動きに合わせたモデルの構造化などさまざまな要素を考慮しなければならない。ARの実現方法といえば、米General Electric社の「Smart Grid」のサイト(ge.ecomagination.com/smartgrid/)から特別なマークが印刷された1枚のシートを印刷し、それをWebカメラを搭載しているPCに向けてかざすことで3Dモデルが描写されるというものがある。しかし、こうした紙に印刷することなくカメラだけでARを実現するケースもいくつか出てきている。

従来、AR開発環境はハードを含めた高い知識が必要とされてきたが、「ARToolKit」(www.hitl.washington.edu/artoolkit/)のような無料のライブラリの登場で、ARが開発者にとってより身近な存在になった。ARToolKitは複数のプラットフォームで開発できるだけでなく、JavaやActionScript 3.0といった言語で開発できる環境もある。FlashでARを実現することを可能にした「FLARToolkit」(www.libspark.org/wiki/saqoosha/FLARToolKit/)の登場から上記のようなFlashを利用したARプロモーションサイトが多数登場した。基本的にプログラミングの知識が必要とされるARだが、独metaio社が開発した「Unifeye Design」(www.metaio.com/design/)を使えば、プログラムの知識がなくてもPhotoshopや3Dソフトウエアがわかる人ならARをつくれる。

さまざまな開発環境と表現が実現可能

現在、消費者がARを体験できる多くのものは広告かゲームだ。プロモーションのギミックとして使われている状態だが、今後さらに用途は広がり生活や仕事に直結した便利なARツールが数多く登場すると考えられる。たとえば同じオブジェクトを眺めていても見ている情報はそれぞれ異なるといったこともARを使えば実現できる。さまざまなシチュエーションに対応できることから、家で利用するPCより、どこでも存在する携帯端末のほうがARに向いたサービスを提供できる。特に近年の携帯端末は速いネット回線だけでなく、ビデオカメラやGPSを実装したものが多く、ARを実現するためのテクノロジーがそろっている。携帯電話本体にある機能やAPIが充実している米Google社のAndroidスマートフォンではすでにARを利用したツールがいくつか利用できる。また、iPhoneでも開発者は積極的に開発を進めており、現状ARを利用したアプリも非公式だがいくつか存在する。次期OSバージョンにあたる3.1では、正式にカメラ用のAPIが使える環境が整えられ、ARアプリをストアから購入できるといわれている。

今後の可能性に期待できるARだが、同時にいくつかの課題がある。まず、さまざまな処理を行うため高スペックのコンピュータを要する。特に現実世界の状態につねにシンクロしなければならないので、使い心地や軽快さの少しの低下が使いにくさに直結してしまう恐れがある。今後、より複雑な動きや膨大な情報を描写するのであれば、回線速度だけでなくハードのスペックとのバランスをより考慮しなくてはならない。また、拡張現実という今までになかった場に情報を置くため、アクセシビリティ対策も重要な項目だ。拡張現実の場でしか情報を得ることができないのであれば、拡張現実というより格納された情報が存在する別世界にすぎない。ひとつの体験としてARが存在することを意識し、Webサイトやさまざまな媒体を通じて消費者の世界を拡張するサービスや情報の提供が必要とされる。

IT8-1
ARは数年前からさまざまなシーンで利用され始めており、専門企業も数社ある
www.t-immersion.com/

IT8-2
ARToolKitはGNU General Public Licenseとして公開されている
www.hitl.washington.edu/artoolkit/

IT8-3
iPhoneを利用した地下鉄を見つけるためのアプリ「New York Nearest Subway」のデモ
www.youtube.com/watch?v=ps49T0iJwVg

Profile 長谷川恭久

デザインやコンサルティングを通じてWeb関連の仕事に携わる活動家。ブログやポッドキャスト、雑誌などを通じて情報配信中。
URL: www.yasuhisa.com/

本記事は『web creators』2009年10月号(vol.94)からの転載です。

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