第1話 デザインは自己表現の場ではない | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
【サイトリニューアル!】新サイトはこちらMdNについて


このコーナーでは、旬のアートディレクターをお迎えしてデザインする際の思考のプロセスを伺うとともに創作のスタンスに迫る。第2回目はgood design companyの水野学氏。 第1話では、NTTドコモがiモードに次いで打ち出したビッグプロジェクト「iD」の制作秘話に迫る。

第1話 デザインは自己表現の場ではない


デザインは相手のためにあるもの。
だから相手の立場で相手以上に考える。


――NTT DoCoMo『iD』は、どのようにスタートしたのでしょうか。

水野●この仕事は携帯電話にクレジットカードと同様のサービスを付帯させるという、iモードに次ぐビッグプロジェクトだったのです。それなのに、広告代理店を介していなくて、ある紹介者の方から「NTTドコモの仕事なんですけど請けてもらえますか?」と電話があったことから始まりました。電話を頂いたときには、これほど大きなプロジェクトだとは思ってもいませんでした。

――具体的に、どのようにプロジェクトは進行していったのですか?

水野●まず、NTTドコモの役員の方から、直接このプロジェクトについて話を聞かせていただきました。そこで僕が共感したのは、NTT ドコモは会社や社員のことはもちろん、社会のことを真剣に考えているという点。10年、20年先の人間の生き方、人類、経済の発展から今後の歩み方までをも視野に入れていることが、ひしひしと伝わってきました。25歳で独立して、何のコネもなく仕事をしてきた自分に、こんなに大きなプロジェクトを任せてもらえることが本当に嬉しかったです。

NTTドコモ『iD』ポスター NTTドコモ『iD』ポスター
NTTドコモ『iD』ポスター

実際には、サービスの内容以外、何も決まっていない状態から携わることになり、ドコモの方と博報堂のコピーライター曽原剛さんと僕とで話を詰めていきました。最終的には、ネーミングからポスター、ホームページ、CMなどの広告展開、レジでのカードリーダーや請求書の封筒のほか、『iD』にまつわるすべての制作物のディレクションを行いました。

――ネーミングはどのようにして決めたのですか?

水野●携帯電話って自己の存在証明のようなものになりつつあると思うんです。つまり自分自身に近しいものだから、他人には簡単に見せたりもしないですよ ね。そこにクレジットカード機能が搭載されるなら、なおさら肌身離さず持つものになるはず。そう考えていくうちに、身分証明「iD」というキーワードが自然と思い浮かびました。

――このプロジェクトの企画プレゼンテーションでは手紙を用いたそうですが、その理由を教えてください。

水野●このプロジェクトは、携帯電話にクレジットカード機能を搭載するという、まったく新しい試み。だから利用する人はちょっと不安を抱くかもしれない。それをいかに解消できるかがポイントになると思ったのです。とにかく一番大切なのは、安全で安心できること。そこでキーワードは「信頼感」だと考えまし た。であれば、クライアントからも信頼を得られる方法にしようと、事務的な企画書ではなく、このプロジェクトで大切だと思うことを手書きの手紙にしたためたのです。

――「信頼感」というコンセプトに行き着くまでに、紆余曲折はありませんでしたか?

水野●特に悩まなかったです。あえて説明するなら、核となる部分を見い出すために、どれだけ余分な要素を削ぎ落とすかがポイントでした。

――そういったコンセプトを見い出すために、大切にしていることは何ですか?
水野●相手のことを相手以上に考えることです。自分がNTTドコモの社長や責任者で、このプロジェクトが失敗したら何百人もの社員が路頭に迷うかもしれない、と思って臨めば誰にでもできることだと思います。

――そういった考えを抱くようになったのはなぜでしょうか。

水野●僕には兄弟がいないので 「お前は親が死んだら一人なんだから、友達は大切にしなさい」と言われて育ったのです。だから常に相手の立場を考えるのが当たり前なのです。そのことが影響しているのかもしれません。それに、先人たちの言葉から学んだことも多いですね。

そもそも、デザインは相手(クライアント)のためにあるもので、自己表現の場であってはならないと思っています。自己表現がしたいなら、山に籠って一人で絵でも描いていればいい。これは社員にも言っていることです。「自分の作品は商業のために作っているのではない」と言うアーティストがいたりしますが、「だったら作品を誰にも見せるな」と思いますね(笑)。人に見せることで、誰かを感動させられるわけですし、それを褒めてくれる人が現れる。その結果、作品が売れて生活が成り立つ。それが商業であって、結局自分だけでは完結していないわけですからね。


(取材・文:山下薫 人物写真:谷本 夏)

次週、第2話は、「シンプルに表現することで伝達する」についてうかがいます。こうご期待

[プロフィール]
みずの・まなぶ●1972年東京生まれ。茅ヶ崎育ち。96年多摩美術大学美術学部デザイン科卒業後、パブロプロダクションに入社。広告制作会社ドラフトを経て1999年にgood design companyを設立。主な仕事に、「KIRIN903」(2004年)の商品コンセプト、企画・商品開発、広告展開、永昌源「杏露酒」のCMおよび広告制作、NTTドコモのクレジットサービス「iD」のブランディングなどがある。05年NY ADC入賞。05年One Show Silverを3部門で受賞。



twitter facebook このエントリーをはてなブックマークに追加 RSS
【サイトリニューアル!】新サイトはこちらMdNについて

この連載のすべての記事

アクセスランキング

8.30-9.5

MdN BOOKS|デザインの本

Pick upコンテンツ

現在