Designer meets Designers 07 レポート
プロモーションサイト制作にみる最新Webデザイン
ーリッチコンテンツが当たり前になった今、
あらためてプロモーションサイトを見直したいー
第7回目のDesigner meets Designers(D2)は「プロモーションサイト制作」がテーマ。当日は「実際に制作したことがある」、「これからの制作受注に生かしたい」というWebクリエイターたちが多数来場した。ユーザーに強くアピールするための存在感やそのデザイン表現に独自性が求められるプロモーションサイト。その最新事情に迫る。
SESSION 1
実例に学ぶ よいプロモーションサイトの条件と最新事情
ー雑多な情報に埋もれないプロモーションサイトをつくるためにー
多くのWebクリエイターたちにとって、すっかりおなじみのイベントとなったDesi gner meets Designers(D2)。今回は「プロモーションサイト制作にみる最新Webデザイン」というテーマが掲げられ、プロモーションサイトの制作を得意とする4名のトップクリエイターたちがそのノウハウを惜しげもなく披露した。
15:00の開演とともに弊誌編集長の佐藤弘基があいさつの言葉を述べると、すぐにSESSION 1がスタート。まずは(株)電通のテクニカルディレクター、中村洋基氏が登壇し、自身の講演に組み込まれている“ある仕組み”について説明した。
「お配りしている資料の中に、QRコードが印刷されているものがあると思います。それを携帯電話で読み込むと、今回の講演のためにつくったコメント投稿ページにアクセスできるようになっています。投稿したコメントはリアルタイムで前方のスクリーンに反映されますので、ぜひ皆さん、感想や質問を入力してください」
こう話しはじめると、早速会場からバーコードリーダーの読み込み音が。数秒後には前方のスクリーンに「楽しみにしてます!」、「このメッセージのログは見るの?」といったコメントが流れ出し、会場は和やかな雰囲気に包まれた。コメントの投稿でひとしきり盛り上がったあとは、いよいよ本題であるプロモーションサイトの話題に突入。“そもそもプロモーションサイトとは何なのか”、“プロモーションサイトが抱える課題”、そして“未来”について、たっぷりと同氏の考えが語られた。
「プロモーションとは『短時間で手早く商品や会社などについて知ってもらい、そして好きになってもらうこと』だと思います。簡単そうだと思うかもしれませんが、これが意外と難しいんですよね。特に最近は、Twitterやmixiニュースなどをはじめとする『小粒だけどおもしろい、おもしろいけど重要ではない記事』が増えています。これらのクリック率や反響がとても高いということは、皆さんも実感しているのではないでしょうか。プロモーションサイトをつくっている僕らは、こうした『えりすぐりの、クリックしたいけど1日で忘れる情報』と戦わなければなりません。何をつくっても効きにくく、そしてWebで情報を伝えるのが難しい時代。僕たちはそこに立っています。でも、未来がないとは考えないでくださいね。日本だけでなく世界全体に目を向けて、ユーザーの心をつかむプロモーションサイトについて考えれば、まだまだアイデアや法則のようなものが発見できるはず。雑多な情報に埋もれないプロモーションサイトがつくれると思います」
このように話し、次々とユニークな「世界のプロモーション」を紹介。“無人島の管理人になるだけで1千万円の収入が得られる夢の仕事”として世界中で話題となった、ハミルトン島のキャンペーン「The best job in the world」や、自分の写真をアップロードすると、100人の女性がリアルタイムで“写真の人がイケているか否か”を判断してくれる(ように見える)「Axe 100 girls」(www.axehaircrisisrelief.org/100girls/)などの事例を解説した。
「日本の場合はなぜか、『プロモーションサイトはリッチで、グリグリ動くものだ』と思っている人が多いようですが、逆にリッチなサイトが多すぎて横並びになってしまっていると思います。そうではなく、先ほど紹介した事例のようなインサイト――つまり、アイデアを生み出す発想力が大切なのです」と力強く語ると、「『こんなこといいな、できたらいいな』というプロモーションサイトをぜひ一緒につくっていきましょう!」と呼びかけた。
SESSION 2
プロモーションサイトに適したWebデザイン制作術
ー映画・アパレルサイトのデザインノウハウを公開!ー
続くSESSION2に登場したのは、ワヴデザイン(株)の代表、松本龍彦氏。Webだけでなくキャラクターデザインや印刷物まで手がけ、幅広いクリエイティブ活動を行うアートディレクターとして知られている。そんな同氏が語るのは「プロモーションサイトに適したWebデザイン制作術」というテーマについてだ。自身が手がけたプロモーションサイトを紹介しながら、詳細にデザインのポイントを解説していった。
「まずは、映画『40歳問題』のWebサイト(www.40sai-problem.com/)を紹介します。この映画は浜崎貴司さん、大沢伸一さん、桜井秀俊さんの3人が集まってひとつの曲をつくる様子を追ったドキュメンタリームービーなのですが、『40』という数字にインパクトがあったので、単純に『40』を前面に押し出したデザインにしようと決めました。映画撮影時に撮られた大量のスチールを並べて『40』の数字をつくり、それをトップページに大きく配置。何だかよくわからないけれどワクワクする、気になってしまう、そんなトップページがつくれたのではないかと思っています」
前方のスクリーンに表示された「40歳問題」のWebサイトについて、次々とその特徴やこだわりが説明されると、会場の参加者たちも納得した様子。真剣な表情で、松本氏の説明に耳を傾けていた。続いて、有名映画のパロディ映画である「少林老女」のWebサイト(現在公開終了)を紹介。日本ではあまりメジャーな存在ではない“パロディ映画”のWebサイトづくりについて、制作経験者だからこそ語れるノウハウを披露した。
「パロディ映画というのは往々にして予算が少ないものですが、だからといってクオリティの低いWebサイトには絶対にしたくありませんでした。パロディ映画だからこそクオリティにこだわり、映画自体のユーモアやおもしろさが伝わるように意識したつもりです」
ほかにも、フェイクドキュメンタリー番組「放送禁止2」の劇場版「ニッポンの大家族」Webサイト(www.nipponnodaikazoku-movie.com/)、音楽プロモーションサイト、有名ファッションブランドといったアパレル系プロモーションサイトなど、多彩な自社制作サイトを紹介。映画や音楽などのプロモーションサイトに携わるクリエイターにとって、非常に有用な知識やノウハウが語られた。
そして最後に、松本氏が考える“よいデザインを生み出すポイント”をレクチャー。
「ちょっとしたことなのですが、よいデザインを生み出すには、意外と制作環境が大事なのではないかなあ、と思っています。つい最近、代々木上原にオフィスの引っ越しをしたのですが、すぐ目の前に緑があって、いつでも公園へと散歩に出かけられる、そんな環境に変化して、明らかに働きやすくなったと感じています。それから、所属クリエイターが、自由に個人の仕事をしているところも弊社の特徴ですね。会社の仕事だけでは物足りないこともあるでしょうし、自分の意思で自由に進めたい案件もあるでしょう。そうしたことを堂々とやってもらうことで、モチベーションもアップすると考えています。長く働ける環境があるから、いい作品ができる、それが僕の考えです」
SESSION3
手と頭を動かして身につけるサイト制作の発想力
ー小細工は通用しない!“線のコミュニケーション”ー
SESSION 3の登壇者は、(株)イメージソース/ノングリッドの清水幹太氏。エディトリアルデザイナーからWebディレクターへの転身を果たしたという異色の経歴の持ち主で、その後、カンヌ国際広告賞金賞をはじめとする多くのアワードを受賞。実力派のWebクリエイターとして注目を集めている人物だ。
そんな同氏がSESSION 3で語るのは「手と頭を動かして身につけるサイト制作の発想力」。手書きかつ縦書きという個性的な資料を使い“プロモーションサイトとはどういったものなのか”といった基礎知識から解説をしていった。
「SESSION 1の中村さんがQRコードを使った講演をなさっていましたが、私もちょっとだけ、QRコードを使ってみたいと思います。お配りした資料の二次元バーコードを読み込んで、サイトからアンケートに答えてください」
まずこのように呼びかけると、SESSION 1のときと同様に会場のあちこちからバーコードの読み込み音が。そのあとすぐ、前方のスクリーンに“好きな人とデートに行くなら?”、“好きな人と食事に行くなら?”などのアンケート結果が表示された。
「表示の仕方にもいろいろあるんですが、まずは棒グラフでアンケートの結果を見てみましょう。すると、この会場には『デートに行くなら横浜で、そのあとはイタリアンレストランで食事をし、そしてホテルに泊まりたい』と考えている人が多いことが、一目でわかります。では、この結果を動画で表示させるとどうなるでしょうか? 試しに見てみましょう」
清水氏がこう話すと、画面いっぱいに理想のデートコースを思わせる動画が展開。美しい夜景、イタリアンレストランで供される熱々のピザ、そしてシティホテルの様子と泡立つシャンパン……。アンケートの様子がストーリー仕立ての動画で紹介され、会場の参加者たちは皆、一様に驚いた表情を見せていた。
「いかがでしょう? 皆さんのアンケートを反映したデートコースシミュレーションのような内容になっていたかと思いますが、実はこれがプロモーションサイトなのです。点ではなく線のコミュニケーションで、ユーザーを口説くための仕組みが盛り込まれている。ユーザーとコミュニケーションしながら、素敵な体験を提供しなければならず、制作者には発想力や芸人魂のようなものが求められるんですよね」
そのあとも、会場を巻き込んだユニークなプロモーションをその場で実践。参加者たちに大声を出してもらい、そのたびに前方スクリーンの画面上に清水氏の顔がゴロゴロと降ってくる、なんとも楽しいデモンストレーションが行われた。
「私がいま皆さんと行ったデモは『D2も3時間目に入っていちばん疲れる時間帯だろう、みんな眠くなるから起こさなきゃいけない』との考えでつくったもの。こういう狙いというか、判断を見失わないコンテクストが重要で、そこにストンと入ってくるアイデアが成功するのだと思います。どんなにすごい技術を使っていても、どんなにカッコいいサイトでも、狙いや理由がはっきりしないものは、単なる小細工にすぎません。『○○を伝えるために』という思いが絶対にブレないよう、プロモーションサイトづくりに取り組みましょう。この流れ、この場所だったらこれだ! といえるネタを引っ張り出すことが発想であり、アイデアであり、よいプロモーションを生み出すためのモトになるのではないかと思っています」と語り、個性的で楽しいSESSION3が終了した。
SESSION4
低予算でもつくれる魅力的なプロモーションサイト
ー低予算でサイトをつくる驚きのテクニックを披露!ー
7回目のD2を締めくくるSESSION 4は「低予算でもつくれる魅力的なプロモーションサイト」がテーマ。だれもが知りたいインパクトのある内容だけに、参加者たちもSESSIONの開始前から緊張した面持ちを見せていた。登壇者は(株)ピクルス代表のタナカミノル氏。同社ではWebサイト制作以外に、ブログパーツやゲームコンテンツなどの制作も手がけており、幅広い内容のプロモーションサイトを展開している。
「今回、僕がお話しすることはあまり表には出すことができないような『裏話』です。自分でもチャレンジングなテーマだなと思いますが、お題が難しいほど燃えるのがクリエイターとしての“性(さが)”というもの(笑)。ですので、お話しできる範囲で予算と仕事についてのノウハウについてお話しさせていただきます」
こう語ると、さまざまなWebサイトを紹介。制作にかかった予算となぜその予算で制作できたのかを説明した。続いてプロモーションサイトをアイデアで予算内に収めるコツについても言及し、“ほかではなかなか聞くことができない制作ノウハウ”を惜しげもなく大公開。会場からも頻繁に、驚きの声やどよめきが聞こえてくるほどの盛り上がりを見せた。
プロモーションサイトデザインのポイントから、実制作における予算調整のノウハウまで。プロモーションサイト制作のすべてが語られた7回目のD2。今回も参加者たちの心をグッとつかみ、大盛況のうちに幕を閉じた。
■ゲストプロフィール
中村洋基 ((株)電通) |
松本龍彦 (ワヴデザイン(株)) |
清水幹太 ((株)イメージソース/ノングリッド) |
タナカミノル ((株)ピクルス)
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文=秋山由香((株)Playce)
撮影=飯田昌之