第1話 GOTH モリノヨル | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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旬のアートディレクターをお迎えして、デザインする際の思考のプロセスと、創作のスタンスに迫るコーナー。第35回目はGRAPHの北川一成さん。第1話 では、小説家の乙一さんが描く猟奇的な世界観を、写真家の新津保建秀さんとともに表現した書籍「GOTH モリノヨル」にスポットをあてる。



第1話 GOTH モリノヨル
感覚や直感の大切さを訴求するためにも、
あえて実験的なデザインを投げかける。


●手描きの文字
手で一発書きしたタイトル文字。「書」や「料理」のように、やり直しのきかない緊張感に満ちた状況では、できあがりを想定して迷わず手を動かす高い身体技術が重要となる。表1と表4で文字の造形は同じだが位置が微妙に異なる。それが気持ち悪さを醸し出す


●帯+背
デザインの教養がない人がデザインしたような、巧妙さを排除した斬新なアプローチ。常軌を逸した空気を感じさせる


●写真集
同じアングルの写真を連続し、大小の強弱を付けずに並べた写真集。サービスプリントで焼いておまけのアルバムに入れただけのようなレイアウトは、盗撮写真のコレクションのイメージ。それこそがこの小説にある変質的の世界感

●本文
大きめの級数で普通に組まれた本文。ほかの部分と同様に、本文までもユニークにしてしまうと、本としてのコミュニケーションすら成立しなくなるため「同じだけど違う、違うけど同じ」の範囲に留めた








写真家の新津保建秀さんと一緒に「ヒント日」というユニットを組んで、昨年から展覧会で作品を発表しているのですが、そのテーマが「見えない視線」なんです。隠れている世界、モヤモヤ感、意識の外側にある視線。そういったものは、乙一さんの「GOTH」の世界観にもリンクする、ということで一緒に臨んだのが「GOTH モリノヨル」でした。


少し話が飛躍しますが、人間は本来持っている身体能力を鈍らせていると思うのです。人には鼻が利く、勘が働くといった能力があるはずですが、恵まれすぎるとそういった感覚は鈍ってしまう。そんな中、デザインがやるべきことというと、あえて不便なものや直感的なものを提示すること。感覚が鈍った人ばかりを対象にデザインしていたら、デザインのレベルも下げざるを得なくなるけれど、そこは無駄を承知で実験的で感覚的なデザインをやっていくことも大事だと思うのです。

「GOTH モリノヨル」なら、カバーにあるロゴ「GOTH モリノヨル」と、表紙のそれとでは造形は同じですが、文字の濃さが異なります。また、表一と表四ではロゴの位置が微妙に異なります。要は余白の使い方の話で、人は余白やモノクロの量の変化に気がついたら、同じ顔つきでも違和感を感じるものなのです。つまり文字ではなく、余白によって生み出される気配が、この本の印象につながっているわけです。こういうモヤモヤ感が大事。

帯にある写真の目の部分に「ノ」が突き刺さりそうだったり、帯の「映画化」という文言がビヨーンと横伸ばしにされていたり、座りの悪いQRコードの位置といい、奥付の組み方といい、デザインを知っている人とは思えない仕事ぶりですよね。だからといって、必ずしもトリッキーなデザインがやりたいわけではありませんが、多様性はあったほうがいい。みんなが同じである必要はないですからね。
(取材・文:立古和智 人物写真:谷本夏)

次週、第2話は「成安造形大学のブランディング」についてお送りします。こうご期待。




●北川一成(きたがわ・いっせい)
1965年兵庫県生まれ。87年筑波大学卒業後、GRAPH(旧北川紙器印刷)に入社。「デザイン×プリンティング」の相乗効果を生かした仕事で定評がある。代表作に富久錦のCIなどがある。国際グラフィック連盟、日本グラフィックデザイナー協会、東京TDC会員。NYADC・イギリスのD&AD Awardsなどの、国際デザインコンペの審査員も務める。著書に「変わる価値」(ワークスコーポレーション)がある。
http://www.moshi-moshi.jp/

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