第1話 未来につながる仕事・前編 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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旬のアートディレクターをお迎えして、デザインする際の思考のプロセスを伺うとともに創作のスタンスに迫るコーナー、第4回目は森本千絵氏。第1話では、彼女がワークスタイルを確立する契機となった作品をピックアップして、それにまつまるエピソードを聞いた。

第1話 未来につながる仕事・前編


従来通りの手順を踏まなくても、
広告は制作できると学んだ。



??現在は主にどんなプロジェクトに携わってらっしゃるのでしょうか。

森本●常に20点前後のプロジェクトを同時進行させています。広告キャンペーンのディレクションをはじめに企業のブランディング、商品開発に携わっているプロジェクトもあります。それ以外には本の装丁やCDジャケットのデザイン、プロモーションビデオやCMの演出、そして展覧会用の作品制作なども行なっています。最近はkurkkuというお店のグラフィックデザイン全般を手がけています



??幅広い分野でご活躍ですが、森本さんがはじめてアートディレクションを手がけられたお仕事は何だったのでしょうか?

森本●Mr.Childrenのベストアルバムの新聞15段広告です。この仕事に携わったことで、広告制作に対する考え方が少し変わりました。この仕事に携わる前までは、広告制作に対して「たくさんの大人が集まって会議をして、数々の段取りを踏みながら理屈で完成させていくもの」というイメージを抱いていたのです。けれども、そういった手順を踏まず完成させてしまったのです。その際に、従来からの方法とは異なるやり方でも広告制作はできるのだと学びました。

??なぜ、誰にも教わることなく制作することになったのでしょうか。

森本●当時、私は博報堂のCMを中心に制作しているチームに所属していました。もちろん、いろんな先輩のやり方はよく見て学んでいたのですが、ある時そのチームにMr.Childrenのベストアルバムの新聞15段広告の仕事が依頼されたのです。しかしチーム内にデザイナーは私しかいなかったので、いきなりアートディレクターを任されてしまったのです。当時の私はまだ入社2年目。まだ入稿データの作り方すら、よくわからない時期でした。

Mr.Childrenのベストアルバムの新聞15段広告Mr.Childrenのベストアルバムの新聞15段広告
















??入社2年目でアートディレクターを任されるのは異例ではありませんか?

森本●そうですね。いきなり、大きな媒体に責任をもつことはなかなかありませんね。当時は私も経験が足らなかったし教えてもらった期間も短かったので不安でした。


??そんな状況下でどんなアイデアを形にしたのでしょうか。


森本●広告上に「新聞がある空間」をデザインしようと考えました。たとえば、朝起きて父が冷たい飲み物を飲みがら新聞を読んでいて、手に持ったコップから水滴がポタリと新聞に落ちるとしますよね。新聞紙には水に濡れると裏面の文字が透けて見える特性があるのですが、それを活かしたのです。水滴が新聞に落ちた瞬間に、ベストアルバムが発売されるという情報が透けて見えるデザイン。私は、日頃から頭の中のイメージを空間的に捉えるんです。それを平面のデザインに落とし込んでいく。この手法は今でも継続的に用いています。

新聞に水滴が落ちた様をモチーフにデザイン 新聞に水滴が落ちた様をモチーフにデザイン















??この仕事で印象に残っているエピソードがあれば教えてください。

森本●刷り出し当日の朝は、印刷所に出向いて印刷品質のチェックをしたのですが、印刷所の方が少しでも広告が美しく見えるように工夫してくれたことが印象に残っています。また、この仕事を通じて小林武史さんと出会えたことから、kurkkuのアートワークのほか、ap bankやsalyuのCDジャケット制作など、様々な仕事へとつながっていきました。だから、私にとっては未来に繋がる出会いが詰まった仕事だったのです。

(取材・文:山下薫 写真:谷本 夏)



次週、第2話は「未来につながる仕事・後編」についてうかがいます。こうご期待。



[プロフィール]

もりもと・ちえ●1976年生まれ。武蔵野美術大学卒業。1999年博報堂入社。2005年から博報堂クリエイティブ・ヴォックスに所属。主な仕事にMr. ChildrenやSalyuのアートワーク、日産「NOTE」、三陽商会「AMACA」、キリンビール「8月のキリン」、東京大学文学部「古典を読む」のアートディレクション、協和発酵やワールド通商「FRANK MULLER」の映像演出、AP bank活動、ホンマタカシ写真集「アムール翠れん」の装丁、作品集に「8月のキリンノート」、「futo ?Kiyokawa Asami + Takimoto Mikiya + Morimoto Chie」、「GIONGO GITAIGO J"SHO」、「HAPPY NEWS」などがある。N.Y. ADC賞、ONE SHOW、東京ADC賞、JAGDA新人賞をはじめに受賞歴多数。

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