第1話 ほんとは編集者になりたかった | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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様々なジャンルで活躍するデザイナーの来歴をたどるシリーズ、第5回は書籍装幀編。岡崎京子、いとうせいこう、ナンシー関など、有名作家のブックデザインを数多く手がけている坂本志保さんに話をうかがい、本への愛情たっぷりの仕事+演劇方面での活躍ぶりを振り返ってみよう。

第1話 ほんとは編集者になりたかった


坂本志保

大学の演劇サークルが「原点」


――デザイナーになろうとしたきっかけは?

坂本●流されて……という感じです。高校の頃から平野甲賀さんが好きで、よく書き文字の真似をしていました。でも、大学はデザインとまったく関係ないところで、専攻はドイツ文学だったんです。ただ演劇科がある学校でしたので、劇団のサークルがいっぱいありました。そのひとつに連れられて入って、なんとなくチラシ作りや舞台美術をやり初めるようになったんです。

――それが原点といえば原点ですか?

坂本●そうなりますね。ほんとは編集者になりたかったんですよ。大学にもほとんど通ってなくて、いろんなところを出入りしているうち、ゲルニカのスタイリストさんと出会ってお手伝いしたり。で、ぼーっとしている間に就職試験が終わってた(笑)。一応、広告制作会社を受けて、ひとつだけ受かったんですけれど、訪問日にどうしても行きたくなくて……電話で「行けません、すみません」と断っちゃいました。

――卒業後はどうしてたんですか?

坂本●ブラブラしながら、スタイリストの手伝いを続けていたら、いまもお付き合いのある川勝正幸さんとかいろんな人と出会って。現場でよく「デザイナーのほうが向いてるんじゃないの?」と言われてました。

――自覚はあったのですか?

坂本●全然(笑)。そうこうしたら、安斎肇さん(現イラストレーター)がアシスタントを探してると紹介されたんです。当時、安斎さんは音楽系のデザイナーで、カセットブックの『TRA』とかをやってた頃。デザインできなくてもいいっていうから、勧められて面接に行ったんですね。でも安斎さん、面接に1時間半遅れてきて(笑)一緒に事務所を借りていたカメラマンの伊島薫さんが私を面接したんです。

――遅刻で有名な安斎さんらしい話ですね。

坂本●ようやく安斎さんが来たら、伊島さんが「この子、面白いよ」と言ってくれたので雇ってもらうことになりました。でも、デザインのこと、まったくわからない素人じゃないですか。自分でも「大丈夫かな?」と思ったのですが、編集者になりたかったぐらいだから「本をやれればいいな」と思ってて。

――実際、どのような仕事を?

坂本●安斎さんはイラストの仕事もやっていたのですが、どちらかというとデザインの仕事メインで、いまほど忙しくなかったんですね。なので、さっき言った『TRA』やレコード・ジャケット、雑誌『宝島』のレイアウトのお手伝いをしていたのですが、とにかくいろんな人が事務所に遊びにやってくる。ちなみにトレスコの使い方を教えてくれたのは、その中のミック板谷さんでした。あとは安斎さんと一日がかりでお面を作って、二人でかぶったところを伊島さんが撮るとか(笑)。

――ほのぼのとした時代ですね。

坂本●そう。ものすごくユルくて楽しかった。真剣に遊びながら仕事するって感じ。デザイン以外のところでも学ぶことが多かった気がします。そのときに、どんな仕事でも面白くしようと思えばできる……ということを知ったんですね。撮影のセットを作るお金がないなら、自分たちでセット作ればいいじゃんって。そういう意識はいまも残っています。


坂本さんの書棚

とにかく「本が大好き!」な、坂本さんの書棚一角。洋書の稀覯本がずらり

とにかく「本がやりたい」と言い続けて


――安斎さんのもとには、どれぐらいいたんですか?

坂本●2年欠けるぐらい。安斎さんのところにきた『宝島』の仕事を、次第に一人でやらせてもらえるようになって、ちょっといい気になったんですね。写植指定も一通り憶えて「これはできるんじゃないか」と。

――そこで独立を?

坂本●うーん、独立っていうほどの気もあまりなかったけれど……とにかく家で仕事を始めるようになりました。それが24?5歳のときですね。最初は『宝島』メインで、そのうち川勝さんやゲルニカつながりで上野耕路さんが仕事をくれるようになって。でも、自分から「やるぞ!」という覚悟になったこと、いまだにないんですよ(笑)。

――出会った人たちが仕事につながった、と。

坂本●そうそう。安斎さんのところが音楽関係だったから、最初はやっぱりその方面の仕事が多かったんですね。でも、人生にあまり音楽を重きを置いてないから、だんだん辛くなって、ストレスを感じるようになったこともあります。だから、周囲の人に会うたびに「本がやりたい」って言いまくってたんです。あの頃は、かなり思い詰めてましたね。

――本の装幀に憧れていた理由は?

坂本●やっぱり平野さんが好きだったから。あと、自分がないと困るものって本なんですね。やっぱり、他のデザイナーの人もそうじゃないですか。音楽がないと困る人は音楽の仕事をやるし、広告が好きな人は広告をやるし。私の場合はそれが本で、書き文字に固執してて、とにかく立体をやりたかった。そうしたら、岡崎京子さんの単行本の装幀をやらないか……とお話をいただいて。

――岡崎さんの『ボーイフレンドisベター』ですね。

坂本●そうです。生まれて初めて手がけた装幀作品になりました。それ以降、岡崎さんをはじめ様々な作家の方の本のデザインをやらせてもらってますが、自分の中では拙いながらも一番愛しい作品です。


岡崎京子『ボーイフレンドisベター』白泉社

坂本さんにとって初めての装幀仕事となった、岡崎京子『ボーイフレンドisベター』(1986年/白泉社)。繊細でスタイリッシュな書き文字タイポが、早くも“らしさ”を放っている。この一冊を機に岡崎作品の多くのブックデザインを手がけるようになった
次週、第2話は「装幀と芝居の二本立て」についてうかがいます。

(取材・文:増渕俊之 写真:栗栖誠紀)


坂本志保

[プロフィール]

さかもと・しほ●1960年、三重県生まれ。明治大学文学部独文科卒業。安斉肇氏のアシスタントを経て、85年に独立。岡崎京子、いとうせいこう、ナンシー関、竹中直人、戸梶圭太、中村うさぎなどの書籍装幀、竹中直人、吹越満をはじめとする演劇ポスターやパンフレットなどを多数手がけている。

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