第8回 事例:DAMとCMSでシングルソースを実現 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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実践CMS導入・運用ガイド


文=清水 誠文=清水 誠
実践系Webコンサルタント。DTP・印刷・ネットビジネスの分野を中心に、ITとIAによる業務カイゼン を手がける。印 刷物とWebへ画像をシングルソースするためのカラーマネジメント、文字情報をシングルソースするECM・XML・自動組版、ビジネスを加速するITイノ ベーションが最近のテーマ。1995年国際基督教大学卒


第8回
事例:DAMとCMSでシングルソースを実現


CMSにはいろいろな機能があるが、実際のところどう役に立つのか? これまではテンプレート、ナビゲーション、入力方法、配信など個別の機能について解説してきた。今回は応用編として、いろいろな機能を組み合わせてシングルソースを実現した事例を紹介したい。


背景:コンテンツ増加で制作・管理コストも増大

増大したコンテンツ更新コスト

A社は化粧品や栄養機能食品を扱う外資系企業だ。製品情報を中心としたコンテンツをWebや印刷物、映像などさまざまなメディアで発信している。近年、デジタル系のメディア、特にWebコンテンツが増えた結果、スタッフの人数も増え、コンテンツのバリエーションが複数派生していった。

マーケティング系コンテンツの場合、新規コンテンツの追加だけでなく、既存コンテンツにも手を加え続けて鮮度を保つ必要がある。そのためには、いろいろな場所に数多く存在するバリエーションを探し出し、それぞれに更新をかけていくことになるが、この変更の手間と時間が増大していった。

まずはコンテンツの一元管理から

バリエーションが複数存在する場合、どれが正しいオリジナルなのかがわからなくなりがちだ。そこで、画像やテキストの原稿を一元管理するために、第4回で紹介したデジタルアセット管理(DAM)のソリューションを導入することになった。まずはもっとも頻繁に使い回される製品情報と製品写真をコンテンツのアセットとして定義し、コンテンツの収集、制作と更新プロセスの整備、DAMの実装と導入、を3年かけて実現した【1】。

【1】画像を管理するDAMシステム。メタデータによる検索やフォーマット自動変換が可能
【1】画像を管理するDAMシステム。メタデータによる検索やフォーマット自動変換が可能


製品のテキスト情報に関しては、既存のコンテンツを精査して検討した結果、約150もの項目が必要なことがわかり、CMSでこの製品情報を管理するべく開発とコンテンツ移行を行った。

流し込みも自動化したい

検索すればつねに最新で正しい製品情報と製品画像をダウンロードできるようになったが、そのコンテンツを編集し、各種のメディアに流し込んでいく作業は手作業のままだった。せめて、製品の価格やスペック情報のような毎回変わらないコンテンツは配信を自動化したい。元のコンテンツに変更が入った場合は、レビューをスキップして即時配信してしまいたい。

そこで、コンテンツをWebや印刷物に配信する過程の自動化に着手した。いよいよCMSの出番だ。

プロジェクトにおける各種の取り組みを時系列で表すと、【2】のようになる。前半のコンテンツアセット化や管理プロセスの改善に予想以上に時間がかかったため、Webや印刷物でコンテンツを活用し配信するという後半のCMS部分に長い時間をかけることができた。

【2】A社におけるECMプロジェクトの全体像
【2】A社におけるECMプロジェクトの全体像


慎重に進めたCMS選定

RFPを使わないCMS選定

CMSの選定方法としてよく推奨されるのが、RFP(提案依頼書)を配布して入札を行う、という方法だろう。ところが、CMSのように発展途上にある新しい分野の場合、買い手は本当に必要な要件を正確に描くことが難しく、売り手も製品の本質や実装の現実を把握し伝えきることができない。RFPの作成に時間をかけても、提案のプレゼンテーションで見た使いやすそうな管理画面や、実績リストに挙げられた会社の知名度などに惑わされ、正しい判断をできないことが多い、と筆者は考えている。CMS製品の選定は始まりなのではなく、設計の一部として考えて、慎重に進めたほうがよいのではないか?

そこで、CMS業界レポートなどを参考に製品をある程度絞り込んだあと、RFI (Request For Information=情報の要求)を候補ベンダーに送付し、その後何度か打ち合わせと質疑応答を対話的に繰り返すことにした。重要なのは、CMS製品がどんな機能をもっているのかではなく、自社の抱える課題をCMS製品を使ってどのように解決できるのか、なのだ。

対話的な評価の結果、3製品にまで絞り込むことができたが、どれも一長一短であり、明白な結論を出すことができなかった。これは、CMS製品に問題があるわけではなく、選ぶための基準、特に優先度を明確にできていなかったためだ。そのため、コンテンツ管理の要件にもう一度立ち返ることにした。

DAMの立ち上げと並行して進めていたこともあり、ここまでに1年半の期間を費やしていた。

要件に立ち返る

A社のプロジェクトでは、「プロセスとシステムを改善することで、コンテンツ管理の効率を向上し、より効果的なマーケティングを可能にする」というゴールを掲げてきた。これでは当たり前すぎて、具体性に欠ける。これを再検討し、「すべてのメディアに一貫したメッセージを効率よく掲載したい」という具体的でわかりやすいメッセージに差し替えることにした。そして、そのために必要になることをエンドユーザーであるプランナー、クリエイター、コンテンツ管理者の視点で洗い出し、4つのストーリーとして定義したのだ【3】。

【3】CMS製品選定をスムーズに行うため、何を達成したいのかを再検討し、具体化
【3】CMS製品選定をスムーズに行うため、何を達成したいのかを再検討し、具体化


このうち、最初の3つに関しては、前述のDAMの立ち上げと、後述するポータルサイトの立ち上げによって実現される。CMS製品にもっとも求められたのが、最後の「アセットをメディアに配信してほしい」だ。

CMS製品の評価を進めるうちに、根本的な考え方と使い勝手、他システムとの連携、導入実績の4つに製品間で差があることがわかった。今回はDAM上で保管されたアセットを抽出して配信することが最重要なため、どのCMS製品を採用すべきかは明白だ。DAMで採用したECM製品スイートと同じCMS製品であれば、システム間の連携が容易になる。入札はキャンセルすることにした。


コンテンツの再利用を促進するポータルサイトを企画

プロトタイプで検証

選ぶべき製品は明確になったものの、そのCMS製品は使い勝手と国内での導入実績という点で他の製品よりも大きなデメリットを抱えていた。実績が少ないということは、CMS製品のメーカーにとっても開発ベンダーにとっても、わからないことが多いということを意味する。実際、どうなのだろうか?

実際の使い勝手、機能面の制約、開発の費用感などを把握するため、CMS製品を実際に使って、プロトタイプを作成するというプロジェクトを始動することにした。2カ所に存在しているDAMからコンテンツを抽出し、加工を加えてWebページを生成する。DAM上のコンテンツが更新・承認されると、そのコンテンツは無条件で配信先に反映される【4】。

【4】コンテンツは各種のシステム間を変換されながら運ばれていく
【4】コンテンツは各種のシステム間を変換されながら運ばれていく


プロトタイプ構築を進めるうちに、ダミーサイトをつくるのも実用的なサイトをつくるのも大きな違いがないことがわかった。非現実的なダミーのデザインではなく、実際にデザインされたページを組み込めば、デザインテンプレートの柔軟性や、メンテの容易さなど、より実際の運用に近い観点で評価が行える。そこで、デザインとコーディングを社内で行えるようにリソースを調整し、CMS製品の開発ベンダーと同時並行でコラボレーションできる体制を整えた。

CMSを補完するポータルサイト

こうして完成したのが、【5】のサイトだ。アセットのページでは、Photoshop画像などのアセットから自動生成されたサムネール画像が中央に表示され、右側にはアセットに関するメタデータが表示されている。一部のメタデータは、クリックして再検索も可能だ。

【5】再利用可能なアセットを検索・閲覧し、ダウンロードするためのポータルサイトを構築した。異なる情報ソースから取得した2種類のアセットを製品番号をキーとしてマッシュアップしているため、ユーザーは何がどこに保管されているかを意識する必要がない
【5】再利用可能なアセットを検索・閲覧し、ダウンロードするためのポータルサイトを構築した。異なる情報ソースから取得した2種類のアセットを製品番号をキーとしてマッシュアップしているため、ユーザーは何がどこに保管されているかを意識する必要がない


製品番号をクリックすると、製品情報のページに遷移する。ここでは、約150の項目がタブで分かれて表示されるだけでなく、その製品と同じ製品番号をもつ画像アセットが右側に表示される。そのうち特定の文字列を含むものは、サムネール画像付きで表示している。このように、別々のリポジトリ(DAM)で管理された画像と製品情報をマッシュアップして表示いるのだ。

閲覧と検索にCMSを使わない

コンテンツが複数のシステムで保管されていても、コンテンツの利用者はそれぞれのシステムにログインする必要がない。組織においては、CMS以外で管理されるコンテンツやデータも多い。それらをCMSに取り込み、CMSのUIでアクセスすることを強制するのではなく、CMSを管理と配信のみに限定して活用することにしたのだ。入力や閲覧はそれぞれ対象者とシチュエーションにふさわしいUIを用意することで、コンテンツの管理や再利用を促進できる。

検索・閲覧用のポータルサイト以外にも、一括入力できるExcelシートや、特定フォーマットのWordファイルを読み込めるインポート機能なども用意した。このアプローチには、CMSのコア機能をカスタマイズすることなく自由度の高い使用感を実現できる、CMSへの依存度を減らすことで、乗り換え時の影響範囲を減らす、などのメリットもある。

静的配信で動的サイトを実現

今回採用したCMSは、静的なファイルを生成して配信する、という特徴をもっている。これは前号で紹介したように、動的なコンテンツ生成はCMS以外の仕組みで実現すべき、という考え方に基づいている。動的配信を切り捨てた代わりに、静的配信に関しては豊富な機能をもっている。それがどこまで実用的なのかを検証するため、PHPとAjaxというふたつのレベルでページの動的生成を行ってみることにした。

個別のHTMLページに含まれるコンテンツは、CMS上ではXMLファイルとして管理される。その仕組みを流用し、ページをそれぞれHTMLとXMLの2種類のフォーマットで配信するような設定を行った。そして、PHPスクリプトがそれらのXMLファイルを読み込み、RSSを生成する。そのPHPスクリプト自身も、CMS上では画像やCSSファイルと同じようにファイルとして管理される。

Ajaxへの対応も問題ない。YUIをはじめ、いくつかのライブラリを活用して、タブやダイアログ、外部XMLファイルの読み込みなどを実装した。ページ下部のコメント機能やトラックバック機能も、最近はJavaScriptとPerlの組み合わせで実現できるのだ。PerlをLinux系のサーバに配信する場合、配信後に実行フラグを立てるための処理が必要な点のみ、注意が必要だ。


小規模サイトのCMS化でさらに検証

小規模サイトのCMS化でさらに検証

今回のサイトの場合、他のシステム上で承認済みのコンテンツ資産をそのまま再利用する。そのため、CMS上であらためてレビューや承認を行うことなく、即時配信を行うことにした。このために、DAMに対して検索クエリを実行し、得られた結果を処理して必要な新規ページ作成と既存ページ更新を行うためのジョブ(バッチプログラム)を開発し、定期的に実行している。このジョブはすべて自動化されたタスクで構成されていて、新規作成が行われたときにのみ通知メールを送付するようになっている。

また、デザインテンプレートはふたつ作成したが、テンプレートに流し込まれるコンテンツはすべて自動で抽出・生成されるため、入力画面を作成していない。テンプレートを変更した場合は、そのテンプレートから生成されているすべてのページに変更が反映される。

一方トップページに関しては、自由度を残したかったため、テンプレートは使用していない。HTMLのファイルをPC上で編集し、それを単なるファイルとしてCMSにアップロードしているだけだ。それだけでも、バージョン管理、ワークフロー、配信の自動化などCMSの基本的なメリットを享受できる。

このように、CMSで一般的な機能は、使わない、または限定的に使う、という方法もあるのだ。CMSがもっているから、一般的に使われることが多いから、といった理由で必然性もなく機能を導入することは、CMS導入失敗の原因になるので、避けたいところだ。

乗り換えを繰り返さないために

A社の場合、比較的早い時期からCMSを活用してきたこともあり、今回のCMSを導入する時点ですでに3種類のCMSを利用中、過去に何度か乗り換えも行ってきた。今回のCMSは今後すべてのWebサイトで活用していくことができるA社の標準ツールとして位置づけたため、選定・設計・導入・移行での失敗は避けたかった。

前述のポータルサイトを構築することでプロトタイピングを行ったが、今後の展開を考えると、すべての懸念点を検証できたとはいえない。ちょうどそのころ、小規模なサイトをリニューアルするという案件が発生したため、そのリニューアルをパイロットプロジェクトとして位置づけ、新しく導入したCMSを活用することにした。

【6】がそのサイトの運用フローだ。HTMLの知識をもたないスタッフが入力を行う点、レビューから承認、配信までのワークフローを使う点、負荷分散のために複数台に分けられた本番サーバに同時配信を行う、という3つの機能をはじめて利用することになる。

【6】お試しとしてのパイロットプロジェクトでは、コンテンツ入力やワークフローなどCMSとして一般的な機能について追加検証を行っている
【6】お試しとしてのパイロットプロジェクトでは、コンテンツ入力やワークフローなどCMSとして一般的な機能について追加検証を行っている


このプロジェクトは3月に始まったばかりで、6月のリリースに向けて鋭意進めているところだ。リリース後は数カ月かけて運用の最適化を行い、サイトをCMS化するために必要となる時間とコストの見積もり方、その進め方や留意点などをまとめることになっている。それを明確にしたうえで、30近くある残りのサイトに関する移行プランを立てていく。

サイト自身の重要度、更新頻度、現在の運用コスト、移行にあたってのリスクなどを考慮し、どのサイトをどの順番でどれくらいのコストをかけて移行していくのかを決定する。ほとんど更新しない小規模サイトなどは、そもそもCMS化しないほうがよい場合もあるだろう。

CMS化するサイトでも、ページによってCMSの活用レベルが異なる。テンプレートやワークフローが必要ないページもあるだろう。メリットとデメリットを明確にしたうえでCMSを効果的に活用し、コンテンツの管理や活用を促進していく予定だ。


本記事は『Web STRATEGY』2008年5-6 vol.15からの転載です
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