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デザイナーのための著作権と法律講座


第6回 パブリシティ権との付き合い方


アート・エンタテインメントの業務を多く扱う「骨董通り法律事務所For the Arts」の弁護士による、著作権とそれにまつわる法律関連の連載です。クリエイターが気になる法律問題についてわかりやすく解説しているので、ぜひ参考にしてください。

文:弁護士 中川隆太郎(骨董通り法律事務所 for the Arts)



第6講のテーマは「パブリシティ権」です。あまりなじみのない言葉かもしれませんが、スポーツ選手や俳優といった著名人の名前や肖像写真などを用いた商業コンテンツと深く関係している権利です。BookポスターやテレビCM など、私たちの周りはこれらの商業コンテンツで溢れており、クリエイティブの現場でも著名人の肖像などを取り扱う場面が極めて多いことから、実は著作権同様、皆さんとも関わりの深い権利です。


今回は、クリエイターの皆さんが、コンテンツ制作のプロセスの中で著名人の名前・写真などを使おうとしたとき、どのような場合に相手の許諾が必要となるのか見ていきましょう(なお、写真やイラストの場合、別途著作者の許諾も必要な場合がありますが、その点については別途バックナンバーをご覧ください)。


■ パブリシティ権とは何か


そもそも、パブリシティ権とはどんな権利でしょうか。例えば、スポーツブランドが「○○モデル」という著名サッカー選手の名前を冠したスパイクを販売し、広告に選手の名前や肖像写真を使うケースがありますよね。もちろん、選手の名前や肖像写真を利用することで、商品をより多く売ることが狙いです。著名人の名前や肖像は、商品やサービスの販売を促進する力(これを「顧客吸引力」といいます)を持つことがあり、本人が、この力を排他的に利用する権利を持つとされています。この権利がパブリシティ権です。

パブリシティ権は、明文の規定がなく不明確な点も多いのですが、一般に、個人の人格権に由来する権利と考えられており、①人以外の動物や法人には認められず、②譲渡や相続も認められない可能性が高いとされています。また、典型的には名前や肖像写真がパブリシティ権の対象ですが、それ以外にも、肖像イラストや声、サインなど、著名人を識別できる情報(アイデンティティー情報)はすべて対象となるともいわれています。


■ パブリシティ権侵害となるパターン


パブリシティ権はこのような権利ですが、無断で著名人のアイデンティティー情報を利用する行為が常に違法となるわけではありません。しかし、一定の場合(専ら顧客吸引力を利用する目的で使用する場合)には、パブリシティ権侵害となり、損害賠償や差止の対象となると考えられているので、注意が必要です。違法となる代表的なケースとして裁判所が挙げるのは、①肖像などそれ自体を独立の鑑賞対象となる商品などとして使用する場合(独立鑑賞対象型)、②差別化を図る目的で商品などに付す場合(キャラクター商品型)、そして、③商品などの広告として使用する場合(広告型)の3パターンです。以下、順に見ていきましょう。


■ 第1類型:独立鑑賞対象型


一つ目のパターンは、典型的にはポスターやブロマイドなどのように、肖像などのアイデンティティー情報それ自体を鑑賞対象とする商品として、無断で使用するケースです。従って、例えば皆さんが著名モデルの写真や、著名ミュージシャンの音声データをダウンロード販売したいと考えた場合には、事前に本人の許諾を得る必要があり、無断で行うと違法となる可能性が高そうです。

もっとも、ここで注意すべきなのは、①「アイデンティティー情報自体を鑑賞対象とすること」や、②「“独立した”鑑賞対象となること」がそれぞれ要件とされている点です。

例えば、著名人の肖像をパロディーとしてイラスト化する場合、肖像それ自体ではなく、肖像を滑稽化・諷刺化することで生み出されたユーモアや批判こそが中心的な鑑賞対象となるケースが少なくないでしょう。このような場合には、①「肖像それ自体を鑑賞対象とする」といえず、パブリシティ権侵害にはならないとも考えられそうです。

また、出版物やWeb 上のコンテンツの中で著名人の肖像写真などが使用されるケースが多々ありますが、これらの使用が直ちにすべて違法となるわけではなく、それが②「“独立した”鑑賞対象となる」かどうかの検討が必要です。すなわち、肖像写真の大きさや取り扱われ方、本文の内容などを比較検討して、本文と肖像写真とが実質的に関連する場合には、肖像を独立して鑑賞対象とするものといえず、パブリシティ権侵害が否定されることになります。

これに対し、本文と肖像写真との関連性が認められない場合や、実質的には本文は「添え物」で独立した意義が認められないような場合には、肖像を独立した鑑賞対象とするものとして、パブリシティ権侵害になるとされています。


■ 第2類型:キャラクター商品


二つ目のパターンは、他の商品やサービスと「差別化」を図る目的で、著名人の名前や肖像などを無断で商品やサービスに付けて使用する場合です。典型的には、マグカップやストラップなどのグッズに、肖像写真やイラストを付けてキャラクター商品化する場合がこのパターンに当たると考えられています。したがって、グッズのデザインを行う場合、無断で著名人の肖像を付けたり、著名人の名前を商品名に用いると、パブリシティ権侵害となる可能性が高いので注意しましょう。

このほか、著名人の名前および肖像を用いたキャラクターゲームも、その典型例と考えられています。スマホ用のゲームアプリ向けのキャラクターデザインを行う際にも、著名人の名前や肖像を無断で利用すると、やはりパブリシティ権侵害のリスクがあるので、慎重を期す必要があります。 hat なお、野球などのチームスポーツを題材としたゲームなど、登場人物が多いものについては、個々の選手の肖像などで「差別化」しているといえるかが問題となり得ますが、その場合でも第2類型に該当するとの見解も有力です。


■ 第3類型:広告型


そして三つ目のパターンは、商品やサービスの広告において、著名人の名前や肖像を無断で使用する場合です。宣伝ポスターやテレビCM はもちろん、Web 上での各種広告も対象となるので、商品やサービスの宣伝に関連して著名人の名前や肖像を利用する場合には、とりわけ注意が必要です。

関連して、レストランなどで「○○さんもご来店」などの形で著名人の名前や写真を利用するケースも見られます。このうち、著名人来店時の写真を店内に飾る程度であれば、来店の事実を示すにすぎず、パブリシティ権侵害にならないとの見方もあるようです。しかし、それを超えて、名前や写真を無断で利用して、著名人が来店した事実を店外でも広く告知したり、店舗で取り扱う商品に「○○さんもご愛用」などと表示し、著名人が商品や店舗を気に入り、推薦している印象を与えうる形で利用する場合には、パブリシティ権侵害が成立する可能性が高いと思われますので、注意すべきでしょう。



  アートと権利、今月の話題 

  裁判(2013年10月分)

 「国内映像制作会社7社、米国のFC2動画を東京地裁に提訴」

10月2日、アダルト動画の制作会社7社が、動画投稿サイト「FC2動画アダルト」を運営する米国FC2, Incに対し、動画の公衆送信の差止や損害賠償(合計約6,500万円)を求めて東京地裁に提起した訴訟の第1回口頭弁論が開かれた。違法動画投稿サイトに関しては、従来、運営会社もサーバーも海外にある場合、国内での訴訟提起は難しいとの理解も見られたが、昨年施行された改正民事訴訟法により、少なくとも相手が日本で事業を行っていれば、その業務に関する訴えは日本でも提起可能となった。本件でも日本で裁判を行えるか、そして日米どちらの法律が適用されるのか、裁判の行方が注目される。


  判決

 「東京高裁、JASRACの包括契約は参入妨害と判断」

包括契約とは、テレビ放送などで使用した楽曲とその回数に応じて個別に使用料を徴収するのではなく、全管理楽曲を包括的にライセンスし、一定の使用料を徴収する契約のこと。この契約をJASRACと締結する放送局は、他事業者の楽曲の使用を控え、JASRACの管理楽曲だけを使用することで経費削減につながりうる。このため、JASRACが他事業者の参入を妨害していないか議論されていたが、11月1日、東京高裁は他の管理事業者の事業活動や新規参入を排除する効果を認め、昨年6月の公取委の無効審決を取り消した。なお、公取委とJASRACは最高裁に上告済み。

●参考文献:中島基至『最高裁重要判例解説』Law & Technology No.56 P68(2012)
●参考文献:松島恵美=諏訪公一『クリエイターのための法律相談所』(グラフィック社、2012)

※本コラムは、弊社の連載「デザイナーのための著作権と法律講座」(月刊MdN 2014年1月号)の記事を再掲載したものです。



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さて、次回の第7講では「肖像権侵害を防ぐために」をお送ります。「法律には規定のない肖像権」や「肖像権の侵害となる場合」など、 肖像権を侵害しないよう適法に写真を使う際の注意点について解説していきます。


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2014/4/30




【骨董通り法律事務所 Kotto Dori Law Office】

骨董通り法律事務所

“For the Arts”を旗印に2003年に設立され、法律家としての活動を通じてさまざまな芸術活動を支援する法律事務所。出版、映像、演劇、音楽、ゲームなどのアート・エンタテインメント業界のクライアントに対する「契約交渉の代理」「訴訟などの紛争処理」「著作権など知的財産権に関するアドバイスの提供」を中心的な取扱業務としている。また、幅広い業種のクライアントのための企業法務,紛争処理にも力を入れる。


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