第4回 偶像戦域(1) | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-

『エヴァ』のスタジオカラーやアニメクリエイターが語る!
日本アニメ(ーター)見本市の“短編アニメ発想法”


『エヴァ』メカニックデザイナーの山下いくと監督が贈る
ロードムービーのようなSFアニメ!


第4回「偶像戦域」
漫画家/『新世紀エヴァンゲリオン』メカニックデザイナー・山下 いくと

2015年7月10日 Text:秋山由香(株式会社Playce)

 さまざまなクリエイター陣がジャンル不問で短編アニメを制作し、毎週金曜日に1本ずつ公開していく「日本アニメ(ーター)見本市」。今回は、2015年5月8日に公開されたSFアクションアニメ『偶像戦域』についてお話を伺いました。監督を務めたのは、『新世紀エヴァンゲリオン』のメカニックデザインで知られる山下いくとさん。圧倒的な画力、非常なこだわりで、他者には決して真似のできない、とてつもなくカッコイイ造形を生み出し続けています。
 いくとさんが作る超絶クオリティのロボットアニメーション、そのコンセプトやみどころとは……? 制作に参加した古橋一浩さん(『機動戦士ガンダムUC』監督)との“ここだけの秘話”なども交え、たっぷりとその裏話をお届けします!



精緻なメカニックデザインは、“ダンボール工作”によって育まれた

─― いくとさんといえば、メカニックデザインですよね。『エヴァ』の“狂気と神聖さ”が同居したようなデザインには、心底ゾクゾクさせられました。ああいった造形の原点は、いったいどんなところにあるのでしょうか?

山下監督(以下、山下)● 原点かどうかはわかりませんが、子どもの頃は立体物を作るのが大好きでしたね。よくかまぼこ板の先端を切って、船のようなものを作って遊んでいました。次第に複雑なものに手を出すようになり、小学生の頃にはダンボールで、『0テスター』というアニメに出てくる飛行機を作るようになっていました。『0テスター』の飛行機は、3機が合体して1機になるような込み入ったもの。当時、天下を取った気持ちになって(笑)意気揚々と作っていたことを覚えています。ただ、いつも完成させることができなくて……。最初は割と上手に作れるんですが、そのうちに自分の技術力を超えたものを作りたくなってきて、結局、失敗しちゃうんですよね。『0テスター』の飛行機の場合は合体のプロセスまで再現しようとしたせいで、わけがわからなくなっちゃいました(笑)。

─― が、合体まで! 小さい頃から、ものづくりに対する執念のようなものをお持ちだったんですね。

山下● 当時は設定資料集やアニメ誌なんてものはありませんでしたから。ひたすらアニメだけを見て、試行錯誤しながらロボットや飛行機を作る、そのプロセスが“執念”に近いなにかを生んだのかもしれません。常に「あのアニメよりすごいものを作りたい!」「自分で持って、遊んで、面白いものを作りたい!」、ただただ、その一心でしたね。

Eva_op
『新世紀エヴァンゲリオン』に登場する数々のEVAたちは、いくとさんによって生み出された。当時、おもちゃ会社の担当者から「このデザインでは絶対に売れない」と言われたとか
新世紀エヴァンゲリオン Blu-ray BOX8月26日発売 (C)カラー/Project Eva.

スクリーントーンを自作!? 『エヴァ』のきお誠児に出会った学生時代

―― 漫画を描き始めたのは、いつごろでしょう?

山下● 小6ぐらいのときでしょうか。ノートやメモ帳に漫画らしきものを描いたり、社会科の教科書にパラパラ漫画を割りつけたりしていました。当時、よく描いていたのが、アニメでいうところの背景動画。キャラクターではなくて、風景全体が動くようなものばかり描いていました。例えば、飛行機が深い谷を飛び越えて向こう側にたどり着き、スーッと飛び去っていくようなものとかね。実際に描いてみると、これがけっこう大変で。描き始めたはいいけど、なかなか谷間を飛び越えてくれないんですよ(笑)。しかも飛び越えるってことは、“向こう側”まで描かなきゃいけない。それでだんだん嫌になってくるっていう(笑)。それでもなんとか完結させるところまでは持っていくようにしていました。

背景動画っぽいものばかり描いていたのは、単純にすごいものが作りたかったから。ダイナミックな世界で大きく動くもののほうが、作っていても見ていてもテンションが上がりますよね。ストーリーや設定などはあまり意識せず、動きに注目して描きたいシーンを描いていたような気がします。

―― イラストや漫画を“仕事”として意識し始めたのはいつごろでしょうか? なにかきっかけになった出来事などありますか?

山下● パラパラ漫画を描き始めたころからうっすらと「漫画家になりたいなあ」と思い続けていたんですが……。その気持ちが形になり始めたのは大学生のころということになるのかなあ。当時、創作同人誌のサークルというものがかなり流行っていまして。東と西に二大SF同人誌サークルが存在し、そのサークルが、地方のサークルを引っ張っているような構図になっていました。もともとSFが好きだったこともあり、僕も自然と地元でSF系の同人誌に漫画を描くようになって、そこで、のちに『エヴァ』のネルフ発令所などをデザインすることになる、漫画家のきお誠児さんと出会ったんです。

―― 大学時代に地方の同人誌サークルでお知り合いになったおふたりが、ともにプロの漫画家になり、ともに『エヴァ』の制作に参加されることになったわけですね。勝手な想像ですが、なにかおふたりに共通している、すごい描画テクニックがあったのではという気が……。当時のおふたりや作家さんならではの、“プロにつながるノウハウ”があったら教えてください。

山下● いや、特にないです(笑)。ただ、僕ら当時の学生はものすごーく貧乏で。スクリーントーンを買うお金すら捻出できない状態だったんです。そもそも地方では、トーン自体が、なかなか入手できない貴重なものでした。ですから、自力でトーンを描くしかなかったんですよね(笑)。残念ながら僕は、気の利いたカケアミや点描を描く技術を持ち合わせていなかったので、ひたすら細かく細かく背景を描き込むという努力を繰り返すしかありませんでした。「トーンをカバーしてあまりある背景を描く」、これはものすごく地味で大変な作業なんですが、描いているうちにハイになって、いつの間にか楽しくなってきちゃって(笑)。なんだかんだで面白がってやっていたような気がします。

あのときたくさん描いていたことが、その後、大きな力になりました。描けば描くだけ、描けるようになる。描いた“量”は、絶対に自分を裏切らないと思いますよ。



『偶像戦域』で目指したのは、劇場長編アニメの予告編

―― いくとさんが監督を務めた短編アニメーション『偶像戦域』について教えてください。どういったお話なのでしょうか?

山下● 『偶像戦域』は、地球に似たとある星の物語。発展した科学力によって戦争が勃発し、そこに旧時代の“異質なモノ”がやってくることで、徐々に星に隠された秘密が明かされていく……という筋書きになっています。「劇場長編アニメの予告編」というコンセプトで制作しました。 予告編を作る上で意識したのが、本編を見たくなるような謎かけを仕掛けること。最先端の文明社会に旧時代の文明が交わるとどうなるのか、人型のロボットと人型のなにかが対峙したらなにが始まるのか、そんなトリガーをふんだんに盛り込みました。また、多くのキャラクターが入れ替わり立ち代り登場する、ロードムービーのような作品に仕上げています。主人公とヒロインだけじゃなく、その周辺にもいろいろな人がいて、それぞれの人物、一人ひとりにドラマがある。そういう多面性をしっかり描こうと思っていました。声優さんを使わず字幕を使ったのは、とにかくキャラが多かったから。字幕にした結果、よりハリウッドの映画予告っぽい雰囲気になったと感じています。


いくとさんの短編アニメ『偶像戦域』のPV。CGではなくすべてセルで描かれたというから驚きだ。80年代のOVAを思わせる雰囲気、クオリティにも注目!


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山下いくと氏

【プロフィール】
山下 いくと(やました いくと)/1965年生まれ。漫画家、デザイナー。岐阜県出身で、現在も岐阜を拠点に活動を続けている。名古屋芸術大学美術学部を卒業後、漫画家として活躍。『ダークウィスパー』『風の住処 銀河標準時』を執筆する。『新世紀エヴァンゲリオン』『戦闘妖精雪風』といったアニメ作品のメカニックデザイナーとしても著名。その他、『ふしぎの海のナディア』『トップをねらえ!』『青の6号』『機神大戦ギガンティック・フォーミュラ』などのアニメ作品にも参加している。


【告知】
日本アニメ(―ター)見本市のサードシーズンが本日7月31日(金)より開始。

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