筆は使ううちに、その人の手に馴染んでくる?使い手に合わせて変化を遂げる天然毛筆の魅力/第1回 東京鳩居堂 銀座本店 〜筆編〜 (後編) | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-

筆は使ううちに、その人の手に馴染んでくる?使い手に合わせて変化を遂げる天然毛筆の魅力/第1回 東京鳩居堂 銀座本店 〜筆編〜 (後編)

2018.9.21 FRI

似て非なる画材、この差って何?
あべちゃんのサブカル画材屋 紀行


使い手に合わせて変化を遂げる天然毛筆の魅力とは
第一回/東京鳩居堂 銀座本店 〜筆編〜 (後編)

鳩居堂の筆は天然素材を使用したハンドメイド。一つずつ微妙に異なっているため、 光に透かして自分に適した穂先を見つけるのだとか

鳩居堂の筆は天然素材を使用したハンドメイド。一つずつ微妙に異なっているため、 光に透かして自分に適した穂先を見つけるのだとか

都内近郊に点在する画材の専門店をめぐる新連載。大型店ではカバーしきれないマニアックな商品と知識を求め、イラストレーター兼ライターの筆者が専門店に潜入する企画がスタートしました。第一回目に訪れたのは、銀座に古くから店を構える「東京鳩居堂 銀座本店」。2階の書道用品売り場で「書道筆」に注目しました。今回は、その後編です。画材であり文房具でもある筆の世界は、知っているようで知らない魅力が溢れています。それでは、早速、魅惑の世界をレポートして行きます。
(取材・文・イラスト:阿部愛美)

前編はこちら  >>> 第一回 東京鳩居堂 銀座本店 〜筆編〜 (前編)

<<< 第二回目「伊勢半本店」〜紅(べに)編〜
<<< 第三回目「喜屋」〜岩絵具編〜
<<< 第四回目「ならや本舗」〜墨編〜
<<< 第五回目「うぶけや」 〜はさみ編〜

書道用品の4つの命・文房四宝
書道の作品づくりを大きく左右する、筆・墨・硯・紙。これらは「文房四宝(ぶんぼうしほう)」と呼ばれ、書道発祥の地・中国で文人に古くから愛されてきた道具のこと。特に愛好家が多いのは硯で、半永久的に使えることから骨董価値も高いのだとか。

また、興味深いのが墨だ。煤と動物性のにかわ(※)によってつくられるが、経年することでにかわの質が変化した古墨(こぼく)は、色に深みが増すという。墨に色の違いがあることさえ知らなかった筆者は目からウロコ。書を見る機会があったら、文字は読めなくとも色に注目してみたい。

「見た目からでも書道に興味をもってもらって、身近に感じて頂きたいですね。 もちろん墨の色からでもいいですし、文字の繊細さやダイナミックさ、滲みかたも注目すると面白いと思います。鑑賞の際も、文字の意味ばかりを読み解こうとせず、絵画を楽しむように楽しんで欲しい」と、大橋さんは言う。

肩肘をはらず、各々の感性で楽しんでみよう。

※にかわ……動物の皮や骨などを煮込んで抽出した、ゼラチン質の接着剤のようなもの
一点限りの希少な筆も販売されている。気に入ったものがあったらゲットしよう

一点限りの希少な筆も販売されている。気に入ったものがあったらゲットしよう

紙選びは墨との兼ね合いも大きいという。大橋さんは、紙ごとに墨を試したサンプル帳を自作しているとか。墨色のサンプル帳、見たい……!

紙選びは墨との兼ね合いも大きいという。大橋さんは、紙ごとに墨を試したサンプル帳を自作しているとか。墨色のサンプル帳、見たい……!

硯は昔作られたものが珍重されるが、材料となる石が良いものから使われていくからなのだそう

硯は昔作られたものが珍重されるが、材料となる石が良いものから使われていくからなのだそう

書道作品を鑑賞する際は、文字の意味ばかりを読み解こうとせず、字体の勢いや形など、絵画を観るように楽しむべし

書道作品を鑑賞する際は、文字の意味ばかりを読み解こうとせず、字体の勢いや形など、絵画を観るように楽しむべし

[ ディープな逸品 ]

「墨汁を使えば良いのでは?」とその存在意義を今まで疑っていた「墨」。実は天然由来の煤やにかわが使われる墨に対して、墨汁には工業的につくられたカーボン(炭素)を中心に防腐剤などが多く含まれている場合がある。そのため筆にダメージを与えることも。天然の煤で作られた墨は年を経るごとに濃淡が幅広く表現できるようになり、古くて良いものなら1本3万円以上(!)するものまであり、ハマるとかなりディープな世界。質の悪い墨汁であれば筆の傷みも早くなるので、良い筆を手に入れたなら一緒に良い墨も購入してみたい。
基準となる1本を決めるところから始めよう
大橋さんおすすめの大筆「鳳陽(ほうよう)」

大橋さんおすすめの大筆「鳳陽(ほうよう)」

奥深い書道の世界にふつふつと興味が湧いてきた筆者。初心者は何の筆を使うといいだろうか。

「大筆なら『清真(せいしん)』シリーズから『兼毫清真(けんごうせいしん)』をおすすめします。兼毫とは、柔毛と剛毛を混ぜて作ったもの。ほかには『鳳陽(ほうよう)』もオーソドックス。どちらも馬や羊などを混ぜていて、コシに力があって墨含みがよく先がしなやかです」と、大橋さん。

例えば「年賀状の宛名を書きたい」など、使用目的を決めて店を訪れることで、目的にあった筆選びを店員さんがサポートしてくれるはずだ。
小筆で初心者にも扱いやすいという 「有隣(ゆうりん)」

小筆で初心者にも扱いやすいという
「有隣(ゆうりん)」

筆のなかには竹で作った「竹筆(ちくひつ)」も。 がさっとした線が出るという

筆のなかには竹で作った「竹筆(ちくひつ)」も。
がさっとした線が出るという

自分に合った一本にたどり着いても、やはり筆は消耗品。買い替え時はいつなのだろう。

「ひとつのポイントは抜け毛です。下ろしたての筆の場合には、使う人のクセによって不要な毛が抜けているだけなので心配はいりません。ただし、しばらく使っている筆から頻繁に毛が抜けるようなら寿命と考えていいでしょう。でも、お手入れ次第では長く使えるものですよ。特に羊毛筆は一生モノとも言われています」。

筆が使ううちに、その人の手に馴染んでくるとは……! 大橋さん曰く、使い慣れた他人の筆は、借りて使うと書きにくさを感じるほど使い心地が変化しているそう。自分が長年使っている筆が、自分に寄り添ってくれていると思うと、いつも使っていた筆を愛おしく感じた。
気になるからといってはさみで切ったり、抜くのは絶対にNG!! 筆のバランスを壊すことになる

気になるからといってはさみで切ったり、抜くのは絶対にNG!! 筆のバランスを壊すことになる

筆との出合いは一期一会
あまりにも深く、そしてあまりにも広大な書道の世界。筆はもちろん紙や硯、墨などの道具を組み合わせることで表現を追求していくさまは、まさに“総合芸術”。それでいて、文字を書くだけならば誰もが取り組むことができる書道の世界。専門店は、そんな知っているようで知らない世界の入り口で、店員さんの深い専門知識がその扉を開けてくれるような気がした。

書道であれば字の綺麗さ、絵であれば画力や表現力さえあれば「弘法筆を択(えら)ばず」なのかもしれないが、道具が引き出す自分の魅力というものもあるはずだ。鳩居堂で、自分だけの1本を見つけてみたい。
●東京鳩居堂 銀座本店
1663年に京都で創業したお香、書画用品、はがき、便箋、金封、和紙製品の専門店。1880年に東京・銀座に出店し、現在にいたる。今回取材した書道用品はお香と一緒に店舗2階で販売しており、1階は、オリジナルのはがきや和紙のほか和小物を中心に取り揃え、昔からの常連や、外国人観光客でいつも賑わっている。

住所/東京都中央区銀座5-7-4
営業時間/10:00~19:00 (平日・土曜)、11:00~19:00(日曜・祝日)
TEL/03-3571-4429
URL:http://www.kyukyodo.co.jp/
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