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iPhone/iPadではもう表現しきれない! WWDC 2018で明かされたアップルの新技術

2018.06.07 Thu

iPhone/iPadではもう表現しきれない! WWDC 2018で明かされたアップルの新技術

TEXT:大谷和利(テクノロジーライター、AssistOnアドバイザー)

日本時間の6月5日未明に行われたWWDC 2018のキーノートは、ハードウェア関連の発表がなかったことで、ガッカリした人とメディアが多かったようだ。確かに、もし筆者も予想記事を書いていたなら、それなりの新製品の名前を挙げたかもしれないが、アップルとしては、開発の進捗に左右される部分もあり、また、最も良い発表タイミングを見計らうことで、年間を通じた売り上げのバラツキを抑えるようなことも当然行われている。

そして、近年のWWDCに見られてきた、開発者のための情報共有の場としての原点回帰的な傾向が深まったと考えれば、ソフトウェアにフォーカスした今回のようなWWDCも十分価値があったといえるだろう。例によって、発表内容の詳細を網羅するような記事は他に譲るが、今後のアップルの方向性につながるような、気になった話題を挙げてみたい。

「使い過ぎ防止」はライバルが真似しにくい機能

アップルは、次期OSの紹介に際しても、プライバシー保護についての言及を忘れず、特にマシンラーニングがローカルで行われることを強調していた。これは過去に何度も触れてきたように、グーグルやアマゾンとの違いを象徴する部分だが、今回は、別の切り口からもライバルたちが真似しにくい仕様を打ち出した。それは、新開発のScreen Timeや強化されたおやすみモードに代表されるiOS 12のデバイス中毒防止機能だ。

グーグルやアマゾンは、極端にいえば、ユーザーが四六時中デバイスを操作し、そこから情報を得ることを望んでいる。それが、彼らのビジネスの根幹をなす部分でもあるからだ。

しかし、アップルはユーザーの行動/操作/検索/購買データを収集してビジネスにしているわけではないため、正面切ってiPhoneやiPadの適切な利用を呼びかけられるし、実際にそのための機能をOSに組み込むことができる。そして、それは子供にスマートデバイスを買い与える親に対しての大きなアピールポイントにもなる。

アップルは、徹底したプライバシー保護やデバイスの適切な利用という、正論ではあっても自社以外のプラットフォーム企業がなかなか踏み込めない領域を見つけ出して共感者を得るという、地味だが非常に力強いメッセージを発したといえるのだ。

アプリごとに利用時間を管理できる
アプリごとに利用時間を管理できる

 

AIの問題点を巧みに回避した「Siri Shortcuts」

次に注目したいのは、Siri Shortcutsである。これは、任意の文章と、起動するアプリケーションや一連のタスクを結びつけ、Siriに呼びかけるだけで処理が完了するという仕組みだ。このSiri Shortcutsは、現状の一般向けAIアシスタントの制約を上手く回避して、その有効性だけをユーザーに印象付ける機能になっていると感じた。

というのは、ご存知のように、現在のAIアシスタントは万能ではなく、定型的なやり取りをしている限りは対話(的なもの)がそこそこ進行するが、本当のフリートークになるとたちまち破綻する。もちろん、技術の進化によって、たとえばグーグルのDuplexのように高度な会話をこなせるAIサービスも登場しつつあるが、それでも「予約をする」というシチュエーションに限って最適化されているからこそ成り立つといえる。

これに対して、Siri Shortcutsは、目的をOSやインストールされているアプリの機能の実行に限った上で、Siriが反応する言葉をユーザーに定義させている。つまり、突き詰めれば、「ユーザーが自分で決めた日常使いの言葉で、有限の機能を呼び出す仕組み」なのであり、「誰もが自分にとって自然な呼びかけによって、思った通りの処理が行われる」という状況が生まれるわけだ。

いわば、汎用ではないが、ユーザーが望むように機能するAIサービスなのであり、できることが限られているとしても、その範囲内では優れたユーザー体験を与えらえる仕掛けになっている。その意味で、現実的なSiriの拡張方向といってよいだろう。

Siriが反応する言葉をユーザーが決められる
Siriが反応する言葉をユーザーが決められる

 

ちなみに、watchOS 5の新機能として、Siriの呼び出しに「Hey Siri」の起動ワードを省けるようになるというものがあった。過去のコラムでも、この種の起動ワードをなくすことが、AIアシスタント分野における次の課題だと書いてきたが、アップルは、腕を上げて話すという腕時計型のウェアラブルデバイス固有の使い方を巧みに利用して、各社の先陣を切る形となった。

これが、そのまま他のデバイスにも当てはめられるわけではないが、たとえばiPhone Xやその後継機であれば、Face ID用のTrueDepthカメラとモーションセンサーの組み合わせによって、ユーザーが自分の顔の前にデバイスを掲げて呼びかけた場合には、「Hey Siri」の起動ワードなしにSiriの機能を使えるようなことも簡単に実現できそうだ。

共有AR体験とGroup FaceTimeから見えてくる世界

さて、WWDC 2018のハイライトの1つが、ARKit 2であったことは間違いない。これまでと大きく異なるのは、アップルが共有AR体験と呼ぶマルチユーザー機能で、複数のユーザーが同じARシーンを共有できるほか、パーシステント(永続的な)ARという仕掛けによって、時間を置いて同じシーンを見たり、編集したりする場合にも、ARオブジェクトを含む環境がそのまま残っていて作業を続けられるというメリットがある点だ。

確かに、ARKit 2を使ったレゴによるマルチユーザーデモや、アップルの公式サンプルである、仮想的な積み木をパチンコで倒す対戦ゲームは、それだけでもARKit 2のポテンシャルの高さを示すに十分であった。また、同時に32人のビデオチャットを可能とするGroup FaceTimeも、発言者の顔が自動的に大きくなるなど、それだけの人数で討議などを行うための工夫があり、これまでのFaceTimeの制約が取り払われた形だ。

しかし、これらの機能が素晴らしければ素晴らしいほど、筆者には、iPhoneはもちろんiPadでさえ、それらを体験するには画面が小さく感じられ、逆に手に持って実際の操作を行うデバイス自体が邪魔に思えた。いうなれば、これらの新技術は、すでに現行のスマートデバイスの物理的な枠を超えてしまっており、ARグラスのような次世代デバイスでこそ本領を発揮できるものなのである。

そう考えると、TrueDepthカメラを利用してユーザーの3D似顔絵を動かすミー文字も、直近ではVTuber(YouTube動画を配信する際に進行役となる仮想のキャラクター)などに利用されて盛り上がりそうだが、その先には、AR空間におけるユーザーのアバターとして用いる意図もあるものと推測される(実際に、Group FaceTimeのデモの中でも、より静的な状態だったものの、そのような用途が垣間見られた)。 

おそらくアップルは、向こう1年をかけてARKit 2の対応アプリや、Group FaceTimeの応用事例を増やし、来年のWWDCあたりで、満を持して純正のARグラスのプレビューを行うのではないだろうか。

ARKit 2を使ったレゴによるマルチユーザーデモ
ARKit 2を使ったレゴによるマルチユーザーデモ

 

ちなみに、最後に1つ気になったのは、watchOS 5で実現される、ピア・ツー・ピアの トランシーバー機能が、中国、アラブ首長国連邦、パキスタンでは利用できないという点だ。どうやらこうした国々では、1対1の暗号化通信が行われては政府当局が困るということらしい。

先にも、アップルは中国版App StoreにおけるVPNアプリの配布を禁止したり、中国ではiCloudのサーバー管理をローカルホストに移行するなど、市場に迎合する動きが見られた。もちろん、同社は現地の法手続きに従ったまでであり、ティム・クック自身も忸怩たる思いをメディアに吐露している。たぶん、watchOS 5のトランシーバー機能についても同じだろう。

ビッグブラザーからの解放手段だったはずのパーソナルコンピュータの進化系が、このような目に遭うのは、何とも皮肉な話である。



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    大谷 和利(おおたに かずとし)
    テクノロジーライター、AssistOnアドバイザー
    アップル製品を中心とするデジタル製品、デザイン、自転車などの分野で執筆活動を続ける。近著に『iPodをつくった男 スティーブ・ ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』(以上、アスキー新書)、 『Macintosh名機図鑑』(エイ出版社)、『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社現代ビジネス刊)。
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