アップルの明暗を分ける「レアメタル争奪戦」。敵は思わぬ業界に!? | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-

アップルの明暗を分ける「レアメタル争奪戦」。敵は思わぬ業界に!?

2018.10.21 SUN

アップルの今後を左右する「レアメタル争奪戦」。敵は思わぬ業界に!?
2018年08月01日
TEXT:大谷和利(テクノロジーライター、AssistOnアドバイザー)
売れないといわれたApple Watchを軌道に乗せ、売れ行き不調と噂されたiPhone Xもスマートフォン市場でトップクラスの販売成績を上げていたことが判明したアップル。しかし、ベストセラーのモバイルデバイスを擁しているからこそ抱える悩みもある。そして、不可避的に争わざるを得ない伏兵は、意外な業界から現れてきた。それは、テスラなどのEVメーカーだ。しかも、戦場は自動運転車などではない。もっと根源的な部分で、アップルは負けられない競争の真っ只中にいる。

▷ フラッシュメモリ以来の大争奪戦
デジタル音楽プレーヤーの市場が立ち上がり、等比級数的な拡大へと向かおうとしていた2005年のこと。アップルは音楽データのストレージ用のフラッシュメモリを将来に渡って安定的に確保するため、主要なメモリ製造メーカーに合計12億5千万ドルを前払いして、2010年までの供給契約を締結した。

当時のマスコミの論調の中には、そこまでする必要があるのかと疑義を挟むものもあったが、結果的に、アップルの大胆な賭けは実を結ぶことになる。そして、その後の5年間で他社が安価で良質なフラッシュメモリの確保に苦労する中、iPodは一人勝ちの様相を呈した。

スマートデバイスやウェアラブル機器、モバイルIoT製品が隆盛を極める今、フラッシュメモリは引き続き不可欠なコンポーネントであり続けているが、それ以上に注目されているのがリチウムイオン充電池だ。やがては、より優れた価格・性能バランスを持ったバッテリー技術によって置き換えられるとしても、ここしばらくその優位性が失われる気配はない。

さらに、半導体であるフラッシュメモリは地球上に豊富に存在する安価なシリコン(金属ケイ素)が原料だが、リチウムイオン充電池には埋蔵・産出量の限られた希土類元素のリチウムやコバルトが用いられるので、それらを確保するための競争はより熾烈になる。その証拠に、2017年だけでリチウムは8割も値上がりし、コバルトも7割増の価格上昇を記録している。

おりしも、リチウムイオン充電池メーカーとして業界トップのパナソニックが、米国の経済制裁対象国であるキューバで採掘されたコバルトをテスラ向けバッテリーに使用したことで制裁違反の可能性を指摘された。意図して違反したかどうかにかかわらず、そこまで原材料の調達が最優先課題となっていることを示す報道といえよう。
充電ステーション(テスラ)

充電ステーション(テスラ)


▷ ライバルはテスラ、トヨタ、日産……

アップルの歴史を振り返ると、そのライバルは時代ごとにIBM、マイクロソフト、グーグルのようなIT企業だったが、最近ではそこにクラウドサービスやスマートスピーカーの分野でも存在感を示すEC業界の大手アマゾンが加わった。しかし、ことバッテリー技術を支える希土類元素の争奪戦に関しては、1台あたりの使用量がモバイルデバイスとは比べ物にならない自動車メーカーたちがライバルとなる。

また、一方で注目したいのは、世間が思っているよりもはるかに低い、自動車製品の利益率である。2015~2016年のデータだが、日本で利益率トップのスバル(富士重工業)でさえ13.5%に過ぎず、2位のトヨタでは8.1%に下がり、最下位のホンダにいたっては、わずか2.4%となっている。これに対して、近年のアップルの利益率は、常に35%以上をキープし、2015年には40%を超えたことさえあった。


▷ ティム・クックの決断とその理由
自動運転のEVに関して、アップルは自社ブランドの製品開発から軌道修正し、フォルクスワーゲンとの提携によるハードウェアシステムとソフトウェアの開発に専念することになったが、これは単に技術的なハードルから自動車製造に参入することを諦めたのではないと筆者は推測する。

それよりも、サプライチェーンのエキスパートであり、利益率の維持にも並々ならぬ才能を示すティム・クックにとって、確保できたリチウムとコバルトを、どの事業に回すことが、最もアップルにとってメリットになるかを考えたであろうことは想像に難くない。

実際に、アップルの自動運転車部門を辞めた社員の証言では、同プロジェクトは着地点が不明確で、そのことがスタッフの士気を削いだ面もあったようだが、クック自身も完成車自体を商品化するか否かに関して、かなり悩んだのではないだろうか。

現在では、自動運転技術自体の開発は、テスト車両の数も含めて強化されているようであり、完成した技術を特定メーカーに対して供給するというやり方は、(これまでのアップルの流儀とは異なるものの)現実的といえる。その決定には、希土類元素の争奪戦も大きな影を落としていたのではないかと思うのである。
[筆者プロフィール]
大谷 和利(おおたに かずとし) ●テクノロジーライター、AssistOnアドバイザー
アップル製品を中心とするデジタル製品、デザイン、自転車などの分野で執筆活動を続ける。近著に『iPodをつくった男 スティーブ・ ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』(以上、アスキー新書)、 『Macintosh名機図鑑』(エイ出版社)、『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社現代ビジネス刊)。
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