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コントローラが存在しない「スマホゲーム」設計。モンスト“ひっぱりUI”に見る最適解とは?

2018.08.22 Wed

【UIUX Lab研究結果】コントローラが存在しない「スマホゲーム」設計。モンスト“ひっぱりUI”に見る最適解とは?

TEXT:UIUX Lab代表 鷲山優作

皆様はじめまして。UIUX Lab代表の鷲山です。サイバーエージェントでは、スマートフォン向けゲームに最適なUI/UX研究をする専門組織「UIUX Lab」を立ち上げ、ユーザーにとって使いやすく夢中になれるゲームについて日々研究を重ねています。本記事では「UIUX Lab研究結果」と銘打って、いくつかのスマホゲームに使われているUI・UXをレビュー・考察してみたいと思います。
 

コントローラーを内包?スマホゲームのUI/UXとは

家庭用ゲームの多くは、ゲームを効率的にプレイするための専用コントローラが存在し、これを操作して遊ぶスタイルだ。しかし、スマホゲームを“操作するもの”というのは何だろうか。見てわかる通り、スマホゲームには物理的なコントローラが存在しない。そのため、開発者はコントローラーに相当する機能をゲーム画面上に内包し、ゲーム自体と一緒に開発しなければならないのである。ここに家庭用ゲームとは異なる大きなハードルが存在する。

世界観に合わせた装飾や華美な演出に目が行きがちなスマホゲームだが、いかにして最適なUI/UXが設計されているのかを、ヒット作品を例に考察していきたい。

ただのスワイプが生み出す疑似体験

スマートフォンの操作といえば「タップ」や「スワイプ」、「フリック」、「長押し」など数種類の操作を容易に想像することができると思う。スマホゲームの操作でも例に漏れず先に挙げた数種類の操作でゲームを進行させるのだが、難しいのはスマホにはこのたった数種類の操作方法しかないということだ。

物理コントローラーには複雑なゲームも楽しめるように十字キーやいくつもの操作用ボタンをつけることができるが、画面しかないスマホでは、限られた操作パターンのみを利用して、ユーザーに優れたゲーム体験を提供することが求められる。

■ 物理的な疑似体験に結びつけたひっぱりハンティング 

まずは、育てたモンスターを敵モンスターに当てて倒すアクションゲーム「モンスターストライク(モンスト)」を例に挙げてみたい。スマホゲームをやったことがない人でも一度は耳にしたことがあるであろう大ヒットゲームだが、このゲームの人気を支えている大きな要素のひとつが「ひっぱりUI」だ。

ひっぱると言っても実際にはただスワイプをしているだけなのだが、グラフィックとインタラクションを工夫することで、「ひっぱる」という疑似体験を生み出すことに成功している。スワイプをし始めると同時に矢印がスワイプとは逆方向に伸び始め、操作キャラがプルプルと震え始める。スワイプの距離に応じて伸びる矢印とプルプルと震えるキャラが緊張感を演出し、物理的にひっぱる行為をうまく連想させているのだ。

■ では、もし入力がスワイプでなかったら?

単純にゲーム進行だけで考えたらスワイプ以外の選択肢もあったと思う。キャラが進む方向を「スワイプ」で決定後、「タップ」で発射もありえるし、長押し中に方向と強さを決めて発射することもできたかもしれない。いずれも同じ結果を出すだけなら可能に思えるが、よく考えてみると、前者のほうは入力回数が多く、発射の瞬間が「タップ」なので引っ張っていたモンスターを離す感覚とは結び付けにくい。

また後者のほうは、入力回数はスワイプのみと同じで一見問題なさそうだが、“途中でやっぱりやめたい”などのキャンセル行動が難しくなり、一度入力し始めたら発射させるまで終えられない状況を作ってしまう恐れがある。キャンセルができる仕組みを考えたところで、誤操作が起きるリスクへの対応も大変になりそうだ。こうして考察してみても、やはりスワイプという選択が最適解なのである。

■ ツムツムにおける、もう一つの「スワイプ」

一方、同じく大人気ゲーム「LINE:ディズニー ツムツム(ツムツム)」の場合。今度は「ただのスワイプ」を、「なぞる」や「つなげる」といった疑似体験へと変換している例だ。ツムツムの場合は選択をし始める「ツム」を1つタップするとそこから続けて選択可能なツムが発光し、画面内に大量にあるツムの中から光の道ができるようなインタラクションが入る。このおかげでユーザーは続けて選択すべきツムの方向や数を認識することとなり、自然とスワイプ(=なぞる)という行動へ誘導されるのだ。

そして、スワイプでツムを選択し続けることでツムとツムが線でつながるグラフィックを表示し「つながる」という疑似体験を完成させている。このようにして、ユーザーはスワイプのみで「なぞる」と「つながる」という操作を何の違和感もなく直感的に行い、プレイに没頭していくのである。

また、ツムツムの場合は制限時間のあるリアルタイムアクションパズルなので、いかに早く効率よく入力できるかが重要な要素となる。「タップ」でも「フリック」でもなく、一気に「スワイプ」するという動作が、ゲームにスピード感を与え、アクションパズルとしてのゲーム体験をより深いものにしていることは間違いない。

モンストの「ひっぱりUI」が生み出しているのは、どちらかというと正確に敵を狙える“精密さ”や、じっくり考え、時にはやり直すこともできる“自由度”だ。同じスワイプ動作を使いながら、ツムツムがその対極ともいうべき“スピード感”を増幅させているのは、この両ゲームが「ただのスワイプ」をそれぞれのゲーム性に合わせて上手く疑似体験に結びつけているからにほかならない。

ヒットの鍵は、ゲーム性とインプットの親和性

長々と書いてしまったが、コントローラーを画面内に内包するスマホゲームにおいて、ユーザーに楽しくプレイしてもらうための最低条件は「ゲーム性とインプットの親和性を高いレベルで成立させる」ということだ。

モンストは「ひっぱりUI」を成立させたことで集中して敵を狙うことができるようになり、自分の番が来たらじっくり考えて決断を下すというターン性ゲームとの高い親和性を生み出した。一方ツムツムは、リアルタイムアクションパズルの性質と、スワイプ操作での素早くなぞる体験がとても親和性が高い。

スマホゲーム開発では、何気なく触っているスマホ操作の延長と、グラフィックやインタラクションを巧みに使って、プレイヤーが迷わず直感的にプレイできる環境の構築をまず目指すべきであるし、これをあらゆる方向から検討・検証することが大事なのである。

『UIUX Lab』
https://creator.game.cyberagent.co.jp/uiuxlab/
サイバーエージェントのスマートフォン向けゲームに最適なUI/UXを研究をする専門組織。アドバイザーとして「ゲームニクス」提唱者のサイトウアキヒロ氏を招聘し、「スマートフォンで”夢中”を体感させるゲーム作り」をモットーに、ユーザーにとって使いやすく、楽しめるゲーム開発の強化とクリエイティブ力の向上に取り組んでいる。
 

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    鷲山 優作(わしやま ゆうさく)
    紙媒体のデザイン、webデザイナーを経て2011年にサイバーエージェント子会社の株式会社グレンジに入社。コミュニケーションアプリから始まりブラウザーゲーム、ネイティブゲームアプリなどのアプリ開発に従事。現在グレンジ取締役CCOを務めるとともに、2016年にサイバーエージェントが設立した、スマートフォン向けゲームに最適なUI/UX研究をする専門組織「UIUX Lab」の代表も務める。
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