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Appleが目指す未来ビジョンについての考察/Appleのビジネスは「ライセンス」と「ウェアラブル」に向かうのか?

2019.9.20 FRI


Appleが目指す未来ビジョンについての考察
Appleのビジネスはライセンスとウェアラブルに向かうのか?

2019年2月15日
TEXT:大谷和利(テクノロジーライター、AssistOnアドバイザー)
iPhoneの販売不調ばかりが報じられるアップルだが、今、ティム・クックCEOは何を考え、どのような方向へ舵を切ろうとしているのだろうか。ジョブズから経営を引き継いで7年あまり、ティム・クックがこれまで実行してきた事業戦略をヒントに、アップルが目指す未来ビジョンについて考察してみたい。
▷ そろそろ「次」が期待される革新のインターバル
最近のアップル関連報道でよく目にするのは、iPhoneの販売不振の話題である。その中で最も厳しい見通しを立てているTFインターナショナル・セキュリティーズのアナリスト、ミンチー・クオ氏の予測によれば、2019年度のiPhoneの出荷台数は2018年度に比べて約10%減少するという。しかし、それでも実際の年間出荷予想台数は1億8800万台から1億9400万台程度になる。

これが意味するのは、確かに買い替えや新規の購入者は少なくなっても、最新のiOSの利用者は着実に増える計算になるということだ。そして、新規の出荷台数にiOSのアップデート対象となる既存機種のユーザーを加えれば、最新iOSのインストールベースは盤石ともいえる規模に達する。このインストールベースは、アプリストア内の有償アプリはもちろん、iTunesストアやApple Music、iCloudの容量アップまで、アップルが提供する有料サービスのターゲットとなる。

一方でAndroidデバイスは、確かに低価格機まで含めて普及台数の点ではiPhoneを上回っているが、そのインストールベースが、そのままグーグルの有料サービスのユーザーに結びつくわけではない。もちろん、グーグルの最大の利益は、ネット接続された機器から様々なデータを収集し、広告ビジネス他に活かすことで得られているので、デバイスやサービスそのものから利益を上げることは、それほど重要度が高くないともいえる。

iPhoneは高すぎるという論調も目にするが、もしもグーグルが広告ビジネスをやめたと仮定して、開発費をまかない、現在と同水準の利益を確保するためにAndroidを有償ライセンスに切り替えたとしたら、ユーザーへの転嫁分がどの程度になるか、考えてみても面白いだろう。

一口にGAFAといっても、特にアップルはビジネスモデルもプライバシーへの取り組みも他の3社とは大きく異なるので、直接の比較は意味をなさない。また、「革新なきアップルに未来はない」といった見方も、基本的にはその通りだが、今年はiPhone、iPad、Apple Watchの誕生から、それぞれ12年目、9年目、5年目にあたる。これを、初代iMacから初代iPhoneまでが9年、同じく初代iPodから初代iPhoneまでが6年だったことと比べても、特に次の革新までの間隔が空き過ぎているとはいえないだろう。

ただし、世の中の流れが加速していることを考慮すれば、相対的にそろそろ次の革新的製品が披露されても良い時期に差し掛かっているのも事実ではある。
▷ シェアリングエコノミー時代のアップルの選択肢

ホリデーシーズンの四半期のiPhoneの売上が目標に届いていないことに関しては、CEOのティム・クックも社内向けメールで失望感を示しているが、同時に、サービス事業とウェアラブルデバイス、およびMacについては記録的な利益を上げたことにも言及した。

元々、アップルが携帯電話市場への参入を決めたのは、コンピュータよりも単価が低くて買い替えサイクルが速く、利益率も高められる可能性があったためであり、事実、iPhoneの躍進が、現在までのアップルの躍進を決定付けた。しかし、その成長が永久に右肩上がりで続かないことなどティム・クックは十分に承知しており、そうでなくては1兆ドル企業のトップは務まらない。したがって、膨大なインストールベースを利用して利益を上げられる有料サービス事業も育ててきたわけだ。

そして、自動運転車ではフォルクスワーゲンと協力関係を築き、サムスンを皮切りにiTunesやAirPlay 2を主要テレビメーカーにライセンスしていく動きは、過去にスティーブ・ジョブズが封じてきたライセンスビジネスを積極的に展開していこうとするクックの意思を示している。

それと並行してアップルは、利益率が高く、コンシューマーと直接のつながりを持てるハードウェア事業も諦めることはないと考えられるが、製品群は、よりパーソナルでウェアラブルな傾向を強めていくことになるだろう。

というのは、世の中がシェアリングエコノミー的な傾向を強めるにつれて、パーソナルでウェアラブルな製品以外は、こだわりを持って選択されなくなる可能性が高まるからだ。アップルは、これまで「アップル製品でなければ」という強いこだわりを持つユーザーに支えられてきた。ところが、HTML5のように高度なWebアプリを作れる環境が整い、データ中心のコンピューティングが普及すれば、ハードウェアを問わずそれを利用できるようになり、プライバシーなどの問題は残るとしても、「その場にある安価で手近なデバイスを利用すれば十分」という考え方が一般化しても不思議ではない。

このような消費者意識の変化の中で、ライセンスとウェアラブルという2つのキーワードは、今後のアップルの方向性を象徴するものだ。つまり、必要なデータ(コンシューマー市場では主にエンターテイメント系のコンテンツ)にアクセスできればデバイスは問わないという人々に対しては、自社以外の製品からも利益を上げられるサービス系のライセンスビジネスが有効に働く。

一方で、シェアリングエコノミーの中でも、共有ではなく所有したくなるウォッチ、グラス、イヤフォンなどをインテリジェント化した、パーソナルでウェアラブルなハードウェアに注力していくことは、従来通り、「アップル製品でなければ」と考えるユーザーを増やす流れにつながる。数年後、この2つの要素はアップルを支える両輪となっているだろう。

サムスンやファーウェイなどのAndroidスマートフォンとの比較で語られることの多いiPhoneだが、以前から、この分野におけるアップルの目標はシェアそのものではなく、そこから得られる利益に移っている。そして、その利益を有効に使ってアップルが行うべきは、シェアリングエコノミー時代におけるパーソナルなデバイス革新を成し遂げることにある。それが成功すれば、すべての人々が何らかのウェアラブルデバイスを身につけ、日常的に活用する時代を切り開くことになるはずだ。

[筆者プロフィール]
大谷 和利(おおたに かずとし) ●テクノロジーライター、AssistOnアドバイザー
アップル製品を中心とするデジタル製品、デザイン、自転車などの分野で執筆活動を続ける。近著に『iPodをつくった男 スティーブ・ ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』(以上、アスキー新書)、 『Macintosh名機図鑑』(エイ出版社)、『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社現代ビジネス刊)、『インテル中興の祖 アンディ・グローブの世界』(共著、同文館出版)。
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