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大谷和利のテクノロジーコラム

2019.04.17 Wed

2019年「iMac」コスパがいいのはどれ? そして来年はついにMacもAチップ化か?

TEXT:大谷和利(テクノロジーライター、AssistOnアドバイザー)

アップルは、春のスペシャルイベントで新サービスのアピールを重視し、iPadやiMacのアップデートは、その前にプレスリリースのみで済ませるという方法を採った。しかし、実際のスタートが秋となる新サービスは、現時点では絵に描いた餅であり、一般消費者の興味が、すぐにでも買える新製品のほうに向くのは致し方ない。中でも買い得感が増したiMacの2019年モデルは、Macの将来を占う上でも重要な存在といえる。

遠くのサービスより目の前のハードウェア

米国時間の3月25日に開催された春のアップルのスペシャルイベントでは、ビデオとゲーム系のサブスクリプションサービスが発表された。それぞれ、Apple TV+、Apple Arcadeと銘打たれ、特に後者は「世界初のゲームサブスクリプションサービス」であるとされている。

しかし、この話題は、日本ではさほど盛り上がらなかったようだ。それもそのはずで、実際のサービス開始が秋であることや、特に5月からリニューアルされるApple TVアプリケーションで日本のテレビ番組系のコンテンツがアメリカ並みに充実できるかのどうかが見えていないことで、今ひとつ興味が持てない人が多かったものと考えられる。実際のサービス開始時に何か大きなサプライズが用意されていれば、また違った反応が出てくるかもしれない。

それとは対照的に、デザイナーやクリエーター系の方が多いMdN Design Interactiveの読者の皆さんの間では、イベントに先立って発表されたiMacのアップデートのほうが、圧倒的に身近で、気になるニュースだろう。2017年12月にシリーズ最上位モデルのiMac Proが発表されたときには最小構成でも「iMacの2倍以上の性能を発揮する8コア」がセールスポイントの1つだった。それが、今回のアップデートでは「iMacのパフォーマンスが2倍に増大」と謳われている。額面通りに受け取れば、iMacの性能がiMac Pro並みになったかのような印象だ。

もちろん、細かい説明をよく見ると、「21.5インチiMacは第8世代クアッドコアプロセッサを搭載し、初めて6コアプロセッサも選択可能となり、従来比で最大60パーセントも高速な性能を発揮」であり、「27インチiMacでは初めて第9世代の6コアおよび8コアプロセッサまで搭載可能になり、従来比のパフォーマンスは最大2.4倍」とある。つまり、CPU単体でいえば全モデルの性能が軒並み2倍になったわけではなく、27インチのハイエンドBTOモデルの基本性能がiMac Proの標準構成モデル並みに引き上げられたというべきだろう。ただし、21.5インチiMacでも、上位機種のグラフィックカードは併売される旧モデルの2倍以上のベンチマーク結果が出ている。

一方で、27インチiMacを8コアにして、メモリやストレージ、グラフィックカードなどのオプションをiMac Proの標準構成に準じたもの(同じ8コアでもiMacはCore i9でiMac ProはサーバークラスのXeonという違いがあり、グラフィックカードの型番も異なる)で構成した場合、両者の価格差は9万円程度にまで近づく。つまり、ピーク性能を重視すれば、それなりの対価にはなるということだ。

その意味で、コストパフォーマンスという点では、21.5インチiMacの上位機種か27インチiMacの下位機種が、最もリーズナブルに感じられるが、こうしたアップデートやモデルごとの性能の振り分けを行う上で、アップルはかなりのフラストレーションを抱えているものと推測される。というのは、アップルがMacintoshシリーズに採用しているインテル製CPUの開発が、本来のロードマップ通りに進んでいないためだ。

この道はいつか来た道

たとえば、インテルは10nmプロセスのCannon Lake(開発コードネーム)マイクロアーキテクチャに基づくプロセッサを2016年末にリリース予定だったが、実際には2018年までずれ込み、しかも、小規模な出荷に留まった。そのため、Cannon Lakeの後継として2017年末に予定されていたIce Lakeマイクロアーキテクチャのリリースも大幅に遅れ、現時点では2019年末とされている。

過去にもアップルは、このようなCPUロードマップの迷走を2度経験したことがあった。1度目は、初期のMacで採用されていたモトローラのMC68000系プロセッサ、2度目はそこから乗り換えたPowerPCのRISCプロセッサだ。どちらも、新チップの開発が4世代目くらいからロードマップ通りに進まなくなり、特にPowerPCではG5チップの消費電力の多さとそれに付随する冷却の問題にも悩まされた結果、Macのメジャーアップデートのインターバルが長くなるなどの大きな影響を受けた。

そのため最終的には、Windowsマシン向けのプロセッサ供給における長年の実績と、量産効果によるコストダウンの恩恵が受けられるインテル系チップへと鞍替えしたわけだが、そのインテルでさえも、ロードマップ通りの開発が難しくなってきた面がある。

アップルにしてみれば、iPhoneの登場以前に行われたインテル系チップの採用は、Macが生き残るために避けられない決断ではあったものの、性能がWindowsマシンと横並びになり、セキュリティ面での独自の機能性を効率よく盛り込むことなどが難しくなるといったマイナス面も存在する。たとえば、セキュリティ機能もカバーするT1、T2といった独自開発のカスタムチップをMac向けに開発したのも、インテル系チップでは不足する機能を補い、自社の製品哲学に基づく差別化を図るためだったといえる(ただし、Tチップはハードディスクモデルをサポートしておらず、新iMacを含めて非搭載機種は存在する)。

これに対して、iOSデバイスの普及と、iPhone 4から搭載されてきた独自のAチップの進化は、量産効果によるコスト面や、自社の都合のみで決められる仕様・性能面において、大きなメリットをもたらしてきた。そして、iPad Proに搭載された8コアのA12X Bionicプロセッサは、すでに7nmプロセスを採用してインテルのCore i7並みの性能を叩き出しながら省電力化も実現し、グラフィック性能も2016年の家庭用ゲーム機Xbox Pne Sに匹敵するうえ、Tチップ的な機能も内包している。

さらに、インテル製チップでは詳細情報の事前公開を自身でコントロールできず、この点も秘密主義のアップルにとっては不満だったはずだが、Aチップであれば完全な情報管理が行える。

乗り越えるべき壁は案外低い?

インテルのCPU開発遅延とAチップの成熟具合を考えると、今回の新型が最後のインテルiMacとなって、2020年には初のAチップiMacがお披露目される可能性もある。

とはいえ、初代からARM系CPUを採用し、同じARM系のAチップへと移行したiOSデバイスとは異なり、MacのAチップ化にはいくつかの壁がある。たとえば、macOSの対応、アプリの互換性確保、Mac ProやiMac Proのようなハイエンド機むけのAチップの開発といった点だ。

このうち、macOSの対応とアプリの互換性確保に関してアップルは、Mac OS Xの時代にPowerPCからインテル系チップへと乗り換えたときの経験を持つことから、完全移行に多少の時間がかかるとしても、大きな問題は発生しないものと考えられる。Mac OS Xが最初のバージョンからPowerPC版と並行してインテル版も開発され、社内でテストされていたように、macOSのAチップ版の試用も以前から進められていることは想像に難くない。サードパーティのソフトハウスにとっても、対応アプリは多少のコードの手直しと再コンパイル程度で済むだろう。もし、来年にAチップMacが登場するなら、今年のWWDCで公式発表と開発者向けの手順の説明が行われるはずだ。

残るは、Aチップのカバー範囲とバリエーション展開だが、A12X Bionicが現時点でもシングルコア性能、マルチコア性能ともにインテルのCore i7を超えていることや、世代を重ねるごとに着実に性能を向上させてきたこと、そしてデスクトップ機用であれば、多少消費電力が大きくなってもパフォーマンスを高められることを勘案すれば、少なくともiMacでは問題は生じない。Aチップベースの基板は、よりシンプルな構成で小型化することができ、それが利益率の向上やコストパフォーマンスの改善にも貢献することになる。

そして、一気にXeonクラスのモデルまでAチップ化できなくとも、そこだけインテルMacを併売すれば良いだけの話であり、この点は時間が解決してくれる。MacintoshシリーズのAチップ化は、より高性能でセキュアな製品をタイムリーに発売する力をアップルに与えていく。iMacは、その恩恵に与る最初のMacとなるだろう。

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