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大谷和利のテクノロジーコラム

2020.03.16 Mon

新型iPad Proはクリエイティビティの強化で勝負する

TEXT:大谷和利(テクノロジーライター、AssistOnアドバイザー)

本来であれば春はアップルのスペシャルイベントの時期だが、今年はついに新型コロナウィルスの影響で開催されなくなった。いずれにしてもAppleは、iMacやMac miniのアップデートや、AirPodsおよびiPad Proの新型、そして廉価版iPhoneを準備中であり、ここ数週間の間に順次リリースされていくものと考えられる。今回は、その中から、最も革新度が高くなると思われる新iPad Proについて考察してみよう。

クリエイティビティが差別化のポイント

タブレットカテゴリーで一人勝ちを続けるiPadシリーズは、「Everyone Can Create」のスローガンを打ち出した2018年から、特にクリエイティビティを重視した仕様設定と販売戦略を採ってきた。新iPad Proも、その方向性をさらに追求した仕様で登場することは間違いない。

それは、Appleが伝統的にクリエイティブ分野に強いこともあるが、低価格を武器に教育市場の攻略を進めるChromeBookに対抗する上で、最も効果的な攻め所だからといえる。

ChromeBookの売れ筋製品は、低価格ゆえにスペックが非常に抑えられており、ウェブ閲覧やメールチェック、SNS、その他の基本的な文書作成と表計算は問題ないとしても、高負荷なグラフィックツールや動画編集には向いていない。Appleは、その点を突き、STEM/STEAM教育などを行う上で、そんなスペックで良いのか? と問うているわけだ。

もちろん、アメリカでも日本でも学校の予算が潤沢にあるわけではないので、おいそれとiPad Proの購入には踏み切れないが、エントリークラスのiPadでも、十分クリエイティブなことはできる。また、23,460台のiPadを導入した熊本県をはじめ、いくつかの日本の小学校がそうしているように、iPadならばWi-Fiではなくセルラー回線で、屋外利用を含めたフレキシブルな運用が可能という側面もある(ChromeBookでもAcer Chromebook 11のSIMフリーモデルの例はあるが、アウトカメラもないノート型なので、屋外での自然観察などの用途には向かない)。

また、高いグラフィック能力を武器に、MacBook Air/Pro系ユーザーの取り込みや移行を促す場合にも、iPad Proのセールスポイントをクリエイティビティの強化に置くことは理に叶っている。

既定路線のデザインキープとCPUグレードアップ

これまでにも何回か触れてきたことだが、AppleはiPadシリーズに限らず、目玉となるような機能や仕様を小出しにしつつも魅力的にまとめることで、モデルチェンジごとの需要喚起を巧みにコントロールしてきた面がある。

iPad Proの前回のフルモデルチェンジでは、基本性能のアップはもちろんだが、筐体デザインテーマを完全に新たなものへと移行し、ナローベゼル化を図ったことのインパクトが大きく、それに加えてFace IDのサポート、およびオプションで新型Apple Pencilが用意された点が販売を後押しした。

したがって、今回は、筐体の基本デザインと2モデル構成の画面サイズ(11/12.9インチ)は、ほぼ踏襲する形となり、CPUをiPhone 11シリーズのA13 Bionicを性能アップしたA13X Bionicとすることが既定路線として考えられる。

一部では、12.9インチモデルのみ、iPhone 11シリーズと同様の背面ガラスパネルを採用するのではともいわれているが、この点については疑問がある。

確かに、背面パネルをガラス化する理由としては、Qi規格のワイヤレス充電に対応させることや、5G化に伴う追加アンテナの感度確保が挙げられるかもしれない。しかし、前者はタブレットではあまり意味をなさず、後者はiPhoneを差し置いてiPad Proが先行するとは考えにくい上、各国の5Gインフラの整備状況を見ても、まだ先送りできる状況にあると思えるのだ。

単純にプレミアム感演出などのためだとしても、12.9インチモデルだけに限る理由が見つからないので、背面パネルをガラス化するなら両モデル共に行うか、どちらもしないかの二者択一ではないだろうか。

唯一、もし本当に12.9インチモデルのみが背面ガラスパネルを採用するとすれば、可能性は低いものの、iPad ProでiPhoneのワイヤレス充電が行える機能を組み込み、それを(少なくとも今回は)ハイエンドモデルに限定するような差別化はなきにしもあらずだが、さて、どうだろうか?

目玉はトリプルカメラと3Dスキャン?

一方で、iPhone 11シリーズのカメラが複眼化された以上、iPad Proもそうなることは想像に難くない。

実際にもすでに販売されているサードパーティ製のiPad Pro 2020モデル(!)向けのカバー製品では、すでにカメラ位置に四角い窓が設けられており、Proモデルということからもトリプルカメラの搭載は間違いないところである。

そして、期待したいのが、ToF(飛行時間型)センサーと呼ばれる3Dセンサーの搭載だ。これは、変調をかけて外光と区別できるようにした光を物体に照射し、反射して戻ってくるまでの時間を計測することにより、距離や奥行きを測定できるものである。

iPhoneのカメラのイメージセンサーを供給しているソニーが、ToFセンサーについてもトップクラスの技術を持っていることや、装置構成が単純な割に、2眼カメラ式の3Dセンサーよりも精度が高く、暗い環境でも利用できることから、搭載にあたっての障壁はほとんどない。

Sonyのニュースリリースより URL: https://www.sony.co.jp/SonyInfo/News/Press/201712/17-114/
Sonyのニュースリリースより
URL:https://www.sony.co.jp/SonyInfo/News/Press/201712/17-114/

さらに、人物の検出や人数のカウント、物体の追尾なども行えるため、ARテクノロジーを推進するAppleの方針にも適合する。

ToFセンサーを次期iPhoneまで待たずにiPod Proでサポートする理由として考えられるのは、先行搭載してサードパーティによる対応アプリの開発を促す意図が考えられる。そのようにして、秋にToFセンサー搭載の新型iPhoneを発売するときに十分な数のToF対応アプリが揃っていれば、購入のモチベーションを一層高められるからだ。

もっといえば、この種のToFセンサーは、Appleが開発中とされるARグラスでも必要とされる要素技術である。したがって、そのための助走として十分なリードタイムを確保した上でアプリ開発や実証実験的なことができる環境を整える上でも、このタイミングで実装したデバイスを世に送り出すことを重視した結果なのかもしれない。

いずれにしても新型iPad Proは、アップグレードを考えるiPadユーザーはもちろん、既存のiPad ProユーザーとノートMacユーザーにとっても、魅力的な製品に仕上がり、その先端的なタブレットとしての地位をさらに固めることになりそうだ。

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