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大谷和利のテクノロジーコラム

2020.04.28 Tue

「シン・iPhone SE」と呼びたい2020年モデルの訴求ポイント

TEXT:大谷和利(テクノロジーライター、AssistOnアドバイザー)

 

最終的にiPhone SEと呼ばれることになった廉価版のiPhoneは、販売好調が伝えられ、早くもAppleが増産を視野に入れ始めたとの観測もある。外観、スペックなどは大方の事前の予想そのままだったが、実際に登場してみると、その名称をはじめとして、色々なAppleらしさが見えてきた。

発表を心待ちにしていたなら、すでに初期の購入者になっていても不思議ではない。しかし、果たして廉価版という位置付けのモデルを選ぶべきか、まだ迷っている人たちも少なからずいるだろう。

今回は、初代iPhone SEのイメージを踏襲せずに、新たな時代のベーシックなiPhone像を作り上げたという意味で「シン・iPhone SE」と呼びたい、この製品の価値を考えてみる。

今後のアプリやサービス展開を踏まえた仕様

iPhone SEの購入を検討する人たちにとって最も気になる点、それは、手の届く価格もさることながら、その製品寿命ではないだろうか。つまり、Appleが提供する、そして、今後提供を予定している技術やサービスに、どれだけ対応し続けることができるか、ということだ。

たとえば、初代iPhone SEは、iOS 9.x時代の2016年に発売されたが、現時点で最も新しいiOS 13.xにも対応している。もちろん、ハード的に最新iOSのすべての機能がサポートされるわけではないにせよ、実に5世代に渡ってセキュリティ面などの不安なく基本機能を使い続けることが可能だった。

初代iPhone SE
初代iPhone SE

このことは、Appleが種々のサブスクリプションサービスに注力していく上でも、重要なポイントである。同社のビジネスにとってハードウェアの買い替え需要も不可欠な収益源だが、その一方で、売り上げ予想を立てやすいサブスクリプションサービスの拡大には、現役で使われるハードウェアのインストールベースを可能な限り多くしておくことが大きな意味を持つからだ。

それゆえに新型iPhone SEも、少なくとも向こう5年間は、iOSのアップデートを受けられると考えてよいだろう。

今回のiPhone SEにあえて古いCPUを搭載せず、iPhone 11/11 Proシリーズと同等のA 13 Bionicチップを採用した理由も、1つには、半導体の製造ラインを統合でき、最新チップの量産効果を高めてハイエンド製品のコストダウンに貢献できることが挙げられる。

その上で、iPhone SEの基本性能を高めておけば、当然ながら、新たなアプリやサービスにも余裕を持って対応できるわけだ。この点も、Appleが新型iPhone SEをロングセラー化することを念頭においている証といえる。

4.7インチスクリーンは時代の要請

新型のiPhone SEについては、旧型のような4インチスクリーンの小型筐体ではなく、4.7インチスクリーンが採用されたことを残念がる声もあるが、現在のスマートフォン事情や、AppleがウェアラブルデバイスとしてApple Watchも提供していることを思えば、これは必然的な選択だった。

もちろん、Apple WatchがiPhoneの完全な代用になるわけではないが、より多くの情報を表示する必要のあるスマートフォンではそれなりのスクリーンサイズを確保し、限定的な情報提示はApple Watchで行い、将来的に後者をARグラスで補完するというのが、目下のAppleの戦略だと思われる。

これまでにも何度か書いてきたが、Appleのブランディング、および、これまでiPhoneに憧れながらも手の届かなかった世界的な潜在ユーザー層の心情を考えれば、廉価版iPhoneといえども、レギュラーモデルとの比較で極端な差が感じられないことが望ましい。コンパクトな筐体を求める消費者が存在することも事実だが、かつてのサブノートPCと同じく、世界的に見れば少数派なのだ。

ちなみに、iPhone SEの日本向けのCM(https://youtu.be/bKFsc1Vr99U)には「コンパクトな4.7インチのデザイン」というコピーが含まれるが、元になった英語版(https://youtu.be/SQIbeAk-bFA)では「Small 4.7" design」となっている。SEが何の略かは、かつての"Special Edition"をそのまま踏襲していると考えるのが普通だが、このCMからは、ひょっとするとAppleは"Small Edition"の意味も込めているのではと思えた。

実際にも、iPhone 11が縦 150.99mm x 横 75.7mm x 厚さ 8.3mmであるのに対して、iPhone SEは縦 138.4 mm x 横 67.3 mm x 厚さ 7.3 mmであり、Appleとしては、これでも現在の基準では十分に小さいと考えていても不思議ではない。

と同時に、一部で噂となっているより大型のiPhone SE Plus(仮称)も、AppleがiPhone SE自体を「小さな iPhone」と位置付けている以上、少なくとも年内に登場させるようなことはないだろう。そのようなモデルの開発も容易であり、実際にプロトタイプが存在していてもおかしくないが、iPhone SEの販売が好調なうちは、慌てて出す必要のない製品だからだ。

買い得感の高い価格設定

すでにおわかりのように、新型iPhone SEは、現実問題として価格を抑える上で、完全な新規開発を行うよりも、すでに開発費などが回収された技術や製品を応用するほうが有利であり、生産の立ち上げに伴う諸問題も最小限に留めることができる、という考えに基づいて企画されている。

旧iPhone SEのときも、コンパクトなiPhoneの需要に応えたというよりも、直近のモデルから再生産と仕様改善に適したものを選択した結果、iPhone 5をベースにすることが決定されたと考えるのが自然だ。

新型iPhone SEでも、同様の観点からiPhone 8の基本設計や製造システムを流用して作られたわけだが、筆者の経験(メイン機はiPhone 11 Proだが、リビング用にiPhone 7をWi-Fiで温存)からも、そこに最新のA13 BionicチップやWi-Fi 6が加わることで、実用上十分な性能と機能を備え、向こう数年に渡って使い続けられる製品となっていることは想像に難くない。

Touch IDは、確かにFace IDと比べてセキュアではないかもしれないが、こういうご時世ではマスクを外さずに認証できるメリットもある。シングルカメラにしてもポートレート機能は使えるので、画角に不満がなくナイト(夜景)モードの利用機会が少ないなら、普段使いは問題なくこなすことができよう。

Appleが今後の戦略として重視しているAR関連のアプリについても、Face ID機能のない新型iPhone SEでは、TrueDepthカメラを用いるような高度な処理には対応できないが、一般的な応用範囲において痛痒を感じることはないはずだ。

第2世代のiPhone SE
第2世代のiPhone SE

Android製品を含めてエントリーモデルの上限~ミドルレンジに収まる新型iPhone SEの価格設定は、企画当初からある程度固まっていただろうが、新型コロナウイルスの影響で世界経済が停滞傾向にある中、このひと月程度の間に、予定されていた数字よりも引き下げた可能性はある。1台あたりの利益率が多少下がっても、台数を確保することで量産体制を維持するほうが、業績やサプライチェーンの維持には有利と判断しても不思議ではないからだ。

いずれにしてもiPhone SEは、秋のiPhone 12の発表までの間、Appleのビジネスを下支えするだけの魅力と話題性を持って登場したといえる。以前から噂されてはいたが、新型コロナウイルス騒動の渦中で、消費マインドが落ち込みつつも正しく迅速な情報収集が重要となる時期に市場投入されるApple製品として、これほど時流に即したものはなかっただろう。

ネーミングに込めたロングセラー化への思い

最後に、発表前の噂段階で論議を呼んだ、ネーミングについて触れておこう。

以前のコラムでも書いたように、筆者は廉価版のiPhoneがiPhone 9と呼ばれる可能性は低いと考えていた。それでは、最新のiPhone 11に対して明らかに古いというイメージを与えてしまうし、以前のiPhone SEのように通常のモデルサイクルよりも長く販売を継続する上でも、数字のネーミングは雑誌のバックナンバーのように感じられるからだ。

一方で、Appleは、iPhone SE2というネーミングも採らず、以前と同じ製品名のiPhone SEを採用した。それを知ったときに、筆者は、Appleにとってこれは「シン・iPhone SE」なのだと理解した。

この「シン・」とはむろん、2016年のヒット映画「シン・ゴジラ」の「シン・」である。映画の製作者は、その意味に正解はなく、「新」でもあり、「真」でもあり、「神」でもあるとし、観る者に色々な想像をして欲しいという趣旨の発言をしている。

歴代のゴジラ映画は、それぞれ世界観をリセットしても第一作のゴジラ日本上陸の設定は維持され、劇中の登場人物たちはゴジラが何かを知っていた。しかし、シン・ゴジラはその初期設定すらも白紙に戻し、ゴジラを初めて遭遇する巨大不明生物として扱った。

同様に、いうなれば新型のiPhone SEは、かつてのSEの進化系としてのSE2ではなく、2020年に廉価版製品を市場投入するなら、どのような仕様が相応しいのかを改めて考え直したモデルなのであり、その意味で、まさに「シン・iPhone SE」として生を受けたモデルといえるのだ。

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