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大谷和利のテクノロジーコラム

2020.06.29 Mon

Apple Silicon搭載Macが年内発売に。クリエイターが意識しておくべき、これからのMacの買い時

TEXT:大谷和利(テクノロジーライター、AssistOnアドバイザー)

史上初のリモート、かつ録画済み映像のストリーミングで開催された、今年のWWDCのキーノート。読者の皆さんも、ご覧になっただろうか?

事前の噂とは異なり、新たなハードウェア製品の発表は一切行われずに、各OSのアップデート情報とMacの心臓部のApple Siliconへの移行の話に終始したが、これは単純に、新ハードウェアをデビューさせてもその場でのハンズオンができないことや、実際に、それ以外の話題のみで十分なボリュームがあったためと考えられる。そして、次世代macOSのBig SurでUIデザインの大幅な見直しが行われた点はサプライズだったが、最終的にクリエイター目線で振り返ると、「次のMacはいつ買えば良いのか?」という点が、やはり1番の関心事になったのではないかと思う。

そこで、今回は、過去のCPU転換の際のAppleの動きも参考にしつつ、クリエイターにとってのMacの今後について考えてみる。

当初はMacBook系とコンシューマー向け デスクトップMacから転換開始か

まず、公式のアナウンスとして、今年末までにApple Silicon搭載のMacを市場投入することが発表されたが、同時に、しばらくは新たなIntel Macのリリースも続けられる。これは、Macのモデルの性格や方向性によって、Apple Silicon化の優先順位が異なることを意味している。

具体的には、求められる性能や機能、筐体の熱設計が、先にApple Siliconを採用しているiPhoneやiPadに近いMacBook系モデル、そして、デベロッパー向けの開発ユニットとして限定供給されるA12Z搭載のDTK(Developer Transition Kit)のベースとなったMac miniは、比較的容易に移行を完了できるはずだ。同様に、iMacに関しても、AppleにとってはApple Silicon化しやすい機種といえる。

一方で、Mac ProやiMac ProのようなハイエンドのデスクトップMacに関しては熱設計に余裕があり、チップ自体の発熱に対して必要以上に神経質にならずに性能面を追求することができる。加えて、Intel系チップから離れて独自路線でいくことを発表した以上、逆説的だが、これまで以上にハイエンド市場においてIntel / AMD製の最新シリコンと性能面で比較されることは避けられないため、Appleは全力で高性能を極めた半導体開発を行うはずだ。

もちろん、ハイエンドチップにおいてもライバル製品と同等以上の性能を実現することへの自信がAppleにあるからこそ、今回の発表に踏み切ったわけだが、プロユーザーほど、利用しているアプリケーションや周辺機器に対する互換性に関してシビアであり、メインの仕事環境の変更には慎重になる。

そのため、Appleとしても、このクラスの製品のApple Siliconへの移行は、自社ハードウェアのみならずサードパーティ製品を含めた全体的なApple Siliconネイティブの世界の構築がある程度進んでから行わざるをえない面があり、移行期間の後半で行われる可能性が高い。

特に、Thunderbolt 3ポートに関しては、現状のMacではIntel製コントローラーを利用して実現しており、先のDTKでも実装されていない。ただし、Intelとライバル関係にあるAMDのマザーボードでもThunderbolt 3ポートが実装されている例はある。したがって、Apple SiliconベースのMacでも技術的に不可能ではないはずだが、より現実的な選択肢としては、Thunderbolt 3も統合した業界標準規格、USB4ポートの実装が考えられる。

その場合、Thunderbolt 3ではサポートされているPCLe(外部GPUやSSDの接続に使われる拡張性に優れたインターフェース)が、USB4ではオプション扱いとなっているため、Appleが採用する場合には、PCLeにも対応する拡張版となるだろう。こうしたI/Oポート関連の整備期間を含めて、ハイエンドモデルのApple Silicon移行には、時間的な余裕を持たせているはずだ。

また、Windowsをデュアルブート環境で走らせるBoot Campは、Apple SiliconのMacでサポートされないことが公式に明らかとなっている。しかし、Apple純正の仮想化フレームワーク"Hypervisor"をベースとしたサードパーティ製の仮想化環境であるParallels Desktopを使って、ARMアーキテクチャ向けLinuxディストリビューションのDebian GNU/Linuxを走らせるデモは、キーノート内でも行われた。

同様に、ゲストOSとしてARM版のWindows 10が利用できれば、Windowsアプリも動かせるが、現時点ではOEM供給のみのライセンス提供なので、実現するためには、Microsoftがそのあたりのポリシーを変更する必要がある。

自社設計のSoCならではの自由度の高さ

先に、Appleはハイエンドモデル向けに「全力で高性能を極めた半導体開発を行う」と書いたが、クリエイターが気になるのは、それが実際にどの程度のものとなるかという点だろう。

iPad ProやDTKで採用されているA12Zは、現状でも最新の13インチMacBook Proに搭載された第10世代のIntel Corei5プロセッサよりもトータル性能で上回っているが、プロクリエイター向けのハイエンドMacに搭載されるApple Siliconは、単純にその延長線上の性能を実現するものではない。

なぜなら、Apple Siliconは、単なるCPUではなく、マイクロプロセッサを核として各種のコントローラ回路やメモリなどを統合したSoC(System on Chip)であり、目的に応じて各要素の組み合わせを自由に変更できるため、モバイル用途には消費電力削減を重視した構成としたり、据え置き型のハイエンド製品向けには消費電力と発熱が大きくなってもパフォーマンス重視の構成とするようなことが自在に行えるからだ。

その設計の自由度の高さはマルチコアの組み合わせ方にも適用され、同じマルチコア構成でも、Intel系チップではすべてのコアが対等の処理能力を持つが、Apple Siliconでは、省エネコアとパフォーマンスコアをバランスよく配し、負荷に応じて使い分けることが可能となっている。

たとえば、前述のA12Zは、高性能コアx4+高効率(省エネ)コアx4の8コア構成であり、Corei5は、性能と省エネ性をバランスさせたクアッド(4)コア構成だ。つまり、前者は4つの高性能コアのみの稼働時でも、後者のクアッドコアの性能を上回っていることになる。既存のApple Siliconは、すべてモバイル製品向けだったために高効率コアも重視していたが、もしデスクトップ製品向けに高性能コア中心のApple Siliconを設計した場合、CPU性能でライバルを凌駕することは容易に想像できるだろう。

3DCG系アプリの強化はMetal対応次第

一方で、クリエイターにとっては、GPU性能も大切な要素といえる。たとえば、最新のmacOSではNVIDIA系の外部GPUのドライバがサポートされず、サポート対象のmacOSでもパフォーマンスの低下が問題化した。

これは、主にAppleがOpenGL/CLをレガシーAPIであると捉えて、高効率な純正グラフィックAPIのMetalを推奨する一方で、NVIDIA側がドライバに関するAppleのコントロールを嫌っていることに起因しているが、双方が互いの主張を譲らない限り、この状況が変わる見込みはない。

しかし、Appleの動きを見る限り、今後は益々SoC内蔵の自社製GPUへの依存を高め、メインメモリとグラフィック/ビデオメモリを共有するUnified Memoryアーキテクチャが持つデータ転送効率の高さを活用することで、この分野における主導権をGPUメーカーから奪おうとしているように感じられる。

それは、もちろん容易なことではないが、Appleの強みはコンピュータ単体での勝負ではなく、OSやアプリ、さらには今後登場が予想されるARグラスなどのエコシステムを含めて、デベロッパーに選択を迫ることができる点にある。

たとえば、iPhoneやiPad、Apple Watchがそうであったように、AppleがARグラスを次世代プラットフォームとして広く普及させ、Macのみがそのためのアプリ開発環境となれば、これまでMac未対応の3DCG系アプリのデベロッパーもその方針を再考するかもしれない。これも、いうほど簡単ではないとしても、Appleがそれほどの信念を持って今回のApple Siliconへの移行を決定したであろうことは、十分想像できる。

このように、一般から支持されるハードウェアによって自らがルールを設定できる土俵を作り出し、そこにデベロッパーやライバルメーカーでさえも引き入れてしまうことが、Appleの最大の勝ちパターンであり、Apple Siliconへの移行も、そこを睨んですべての要素を揃えていく戦略の一環と考えるべきだ。

現在のMac環境では手薄なサードパーティ製3DCG系アプリの充実は、それらがMetal対応を容認するかどうかにかかっているが、もしもAppleがハイエンドのApple Siliconによって、自作PCのパフォーマンスをも上回るようなグラフィック性能を叩き出すPro製品をリリースできるならば、これまでの業界内バランスが変わる可能性も少なからずあるだろう。

転換完了は2年を切る可能性も?

Appleは、IntelネイティブのアプリをApple Silicon向けに変換するRosetta 2や、IntelコードとApple Siliconコードを複合的に提供できるUniversal 2 Binaryのファイル形式を用意して、アプリ面でのApple Silicon環境の整備を進めている。しかし、一般的に考えて、プロ向けデスクトップMacのApple Silicon化は、クリエイター向けの主要ツールと周辺機器ドライバのApple Siliconネイティブ化完了の目処が立ってからとなりそうだ。

そして、Appleは、全体的な移行期間を2年と見積もり、公式にもそのように発表しているが、過去を振り返ってみると、これまで2度に渡って行われたCPUの移行時には、どちらも予定された期間よりも短く、前倒しで移行が完了した。これは、移行作業が思いのほかスムーズに進んだということではなく、元々、短い期間で完了可能だったものを、あえて余裕を持たせて発表したものと考えられる。その理由は、万が一、開発に遅れが生じてもズレを吸収できるためと、製品の買い控えを発生させないためだ。 

特に後者はコンスタントな売り上げを継続するために重要で、おそらく今回も実際には1年半程度で移行を完了し、そのことを誇らしげにPRする流れになるものと筆者は予想している。

そこでクリエイターにとっての買い時だが、MacBook Proに関しては、早ければこの秋のApple Silicon化の製品リストに入ってくると思われるため、少なくともそれまでは待つべきだ。その時点で移行した製品が発表されれば、購入しても良いだろう。

もちろん、仕事上、Thunderbolt 3対応の周辺機器を利用する必要がある場合には、発売される製品のポート仕様をよく確認することが必要だ。同じく、Apple Silicon Macでは、プリンタドライバなどもネイティブで機能するものに置き換えなくてはならず、利用中の周辺機器メーカーの対応状況を把握しておくことも重要となる。

ハイエンドのデスクトップMacについては、まだ1、2回程度はIntelチップによるアップデートが考えられる。そのため、すでに利用中のマシン構成が古くなって仕事の効率が下がっているようであれば、途中で1度、Intel Macによるアップデートを挟み、その次の段階でApple SiliconのMacを導入することが現実的だ。もちろん、現行機で特に不満がなければ、Apple Silicon搭載のハイエンドモデルの登場まで待つという選択肢で問題ないだろう。

いずれにしても、そのときにならなければ分からない部分もあるが、特にプロユーザーによる実際の購入は、利用中アプリのネイティブ化とポート/周辺機器の対応を確認してから行うことになることに注意されたい。

One More Thing

さて、今回の原稿の最後に、どうしても書いておきたいことがある。それは、実際のキーノートでの発表の中には"One More Thing"はなかったが、自分の中では、それに相当するものだ。

筆者が知る限り、なぜか他のWWDC関連の記事では触れられていない(あるいは、このご時世なので、特に触れる必要もないと思われたか?)のだが、キーノート映像の最後のAppleロゴの後でスクロール表示された、一連の注意書きが、それにあたる。

おそらく、その前に動画を閉じてしまった方が大半を占め、目にした人は少なかったかもしれないが、実は、今回の録画によるキーノート映像を制作するにあたって感染予防のためにいかに細心の注意が払われたかを説明する、"Production Health and Safety"という情報が流れた。

それによれば、映像制作にあたっては「関係者全員の毎日の健康状態と体温チェック」、「適切なソーシャルディスタンスの確保と積極的な確認」、「プレゼンター以外のスタッフ全員に対するマスクの配布と着用」、「撮影現場へのプレゼンターとスタッフ以外の立ち入り禁止」、「複数のプレゼンターが登場する際の適切な分離」、「撮影現場の完全な、そして定期的な除菌清掃」が行われたことが明記されており、関係者全員の安全確保のために徹底した対策がなされたという。

こうした表示は、少なくともウィルス禍が落ち着くまでは、クリエイターたちの映像制作において作り手の姿勢を示す、1つの約束事になるかもしれない。Appleは、それを率先して採り入れてアピールすることで、withコロナ時代の企業のあり方を提示したといって良いだろう。

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