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大谷和利のテクノロジーコラム

2020.09.23 Wed

新型iPad AirはクリエイターにとってのiPad Pro SE? さらなる拡大戦略を打ち出した秋のスペシャルイベント第一弾

TEXT:大谷和利(テクノロジーライター、AssistOnアドバイザー)

WWDC 2020に続いてオンライン開催となったAppleの秋のスペシャルイベントは、Apple WatchとiPadにフォーカスし、Apple Fitness+やApple Oneという新たなサブスクリプションサービス/契約スタイルも発表された。世界的なパンデミックの中でも業績を伸ばし、ティム・クックCEOの手腕の確かさを再確認させたAppleが、今回の発表に込めた狙いを考える。

iPad Proの核となる仕様を落とし込んだiPad Air

まず、MdN Design Interactiveのメイン読者であるクリエイターにとって見逃せないのは、iPad Airの大進化だ。今、大進化と表現したが、それはiPad Air側から見た場合の話で、iPadライン全体を俯瞰すれば、iPad Airには新たにiPad Proの普及版的なポジションが与えられたといえる。この観点から見ると、その仕様はProのサブセット以外の何物でもない。

大まかにいって、新型iPad Airは、現行のiPad Proの11インチモデルから超広角カメラ、LiDARスキャナ、TrueDepthカメラとFace ID機能を取り除き、スクリーンをほんの少しだけ小さい10.86インチLCDに置き換えたものといえる。それに伴い、画面の画素数は、前者の2,388×1,668ピクセルに対して2,360×1,640ピクセルとわずかに少なく、最大輝度が600ニトに対して500ニト、リフレッシュレートも最大120HzのProMotion仕様ではなく一般的な60Hzとなっている。

一方で、DCI-P3準拠の色域やTrueTone仕様、低反射コーティングなどはProモデルと同様に備え、Apple Pencil 2もサポートしていることから、クリエイティブ作業における実用上の差はほぼないと思ってよいだろう。逆に、Proモデルにはない5色のカラーバリエーション(定番的なシルバーとスペースグレイ+ローズゴールド、グリーン、スカイブルー)は、華やかでオーナーの個性を反映しやすい。

いうなれば、今回のiPad Airは、iPad Pro SE。そう呼ばないのは、Proモデルの場合に廉価版的なイメージを持たせることがマーケティング的に好ましくないこと。そして、すでにiPad Airという、この役割を担わせるのに適した中堅モデルが存在していたためと考えられる。また、SEという呼称を、将来的なiPadシリーズのラインアップ拡張のためにとっておく意図もあるかもしれない。

クリエイターのメイン/サブマシンとして価値を高めるモデルチェンジ

新機軸としては、Face IDの代わりにTouch IDを採用しながらもナローベゼルのオールスクリーンデザインを実現するために、Appleとしては初のトップボタン(電源/スリープボタン)内蔵型の指紋センサーを導入した点が挙げられる。マスク装着時にもセキュアで素早いロック解除が可能なため、新しい生活下ではiPad Proよりも利便性が高くなる。

さらに、AirではCPUに最新のA14 Bionicが採用された。(数字上は2世代前の)A12Z Bionicを用いるiPad Proとの性能差が気になるところだが、A14が6コアなのに対してA12Zは8コアのため、チップの世代だけでは決まらない要素がある。実用性能という意味では、どちらも遜色ないと捉えてよいだろう。

純正のSidecar機能によってMacの拡張ディスプレイとして使えることや、単体での液晶ペンタブレット的な利用も可能なことから、iPad Proに魅力を感じつつも、その価格(84,800円~)からサブマシンとしての購入を躊躇していたクリエイターに、新型iPad Air(62,800円~)は強くアピールするはずだ。

また、すでにiPadのみで作業するイラストレーターが存在することや、先にベテラン漫画家の萩尾望都さんがiPad Proで新作漫画を描き下ろしたことからもわかるように、分野によってiPadはメインマシンとして活躍できる実力を備えている。そのジャンルのクリエイターにとっても、新型iPad Airは身近な選択肢としての存在感を強めたのである。

2極化戦略の拡大とApple Watchファミリー共有設定の意義

もう1つ、今回のスペシャルイベントで際立ったのは、Apple Watch SEや素のiPadのような、コストパフォーマンスの高い製品によるAppleユーザーの裾野拡大に向けた取り組みだ。

もちろんAppleは、価格競争の真っ只中に自らを置くようなことはしない。しかし、ここ数年で、高付加価値・高マージンの製品によって築き上げたブランドイメージを背景に、市場セグメントごとに吟味された仕様のモデルを、魅力的な価格で提供するノウハウを身につけたといえる。

そのノウハウを活かして、スマートウォッチ市場で独走するApple Watchのポジションをさらに強固なものとするのが、Apple Watch SEおよび、Series 4以降のセルラーモデルに対応するファミリー共有設定の新設だ。

ファミリー共有設定は、1台のiPhoneで複数のApple Watchの登録や設定を行ったうえで、それぞれのApple Watchを単体で利用できるようにする仕組みである。これによって、iPhoneを持っていない子どもや高齢者でもApple Watchを利用でき、GPSの位置確認機能などを使うことで保護者が遠隔で見守りやすくなる。

こうした動きが、Apple Watchの販売を後押しすることは間違いないが、筆者は、別の隠された意図もあると感じている。うがった見方だが、ティム・クックCEOは人々がスマートフォンに過剰に依存することへの懸念を持っていることから、子どもがiPhoneではなくApple Watchのようなデバイスに慣れる環境を整備し、情報とのバランスの良い付き合い方を身につけさせようとしているとも思えるのである。

家族旅行でもスマートフォンやタブレットの画面ばかりを見つめる子どもや、ベビーカーを押しながらでもSNSのチェックに余念のない親の姿を見るにつけ、このファミリー共有設定には、見た目以上に社会的な意味がありそうだ。

楽しみが増えたスペシャルイベント第二弾への期待

今回のイベントでiPhone 12が発表されなかったことは、この秋に少なくともあと1回はスペシャルイベントが予定されていることを暗示している。

また、iPad Airにトップボタン内蔵型のTouch IDが採用されたことで、今後、普及型のApple製品には、このタイプの生体認証技術が使われる公算が強まった。特に、新型コロナウイルス禍の中ではFace IDよりもTouch IDのほうが有利なため、今後はiPhoneでもエントリーモデルではこの方式が採用されることは確実で、上位機種では両方式を併用するような展開もありえないとはいえない。

開発・生産スケジュールとの兼ね合いで、それがiPhone 12で実現されるかどうかはわからないが、その点も楽しみの1つとして、次のスペシャルイベントを待ちたいと思う。

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