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大谷和利のテクノロジーコラム

2020.10.20 Tue

クリエイターならばiPhone 12 Pro Maxの一択! 映像クリエイションの新次元を開く「新型iPhone」

TEXT:大谷和利(テクノロジーライター、AssistOnアドバイザー)

この秋、2度目のスペシャルイベントで、AppleはHome Pod miniとiPhone 12シリーズを発表した。どちらも、大筋では予想されていた製品だが、意外な隠し球もあり、総じて見応えのあるオンライン発表会だったと感じた。中でも、今、スマートフォンに考えられる機能や仕様をすべて搭載したiPhone 12 Pro Maxは、スマートフォンの形をした映像スタジオとでも呼びたい製品だ。

5G以外の魅力もしっかり押さえてきたiPhone 12シリーズ

筆者の周囲では、今回のスペシャルイベントはおとなしめで、イベント後の盛り上がりにも欠けるとの声もあった。しかし、実際のところ個人的には、iPhone 12シリーズが全モデルで5Gをサポートしながらも、その話題性に依存することなく、他の現実的かつ実質的な仕様をしっかりと強化してきた、好ましいフルモデルチェンジだと感じた。

iPhone X以降の進化には、やや手詰まり感もあったが、Appleとしては大きな飛躍をiPhone 12のために取っておきたかったはずだ。というのは、ご存知のように5Gは、インフラが完全に整えば本来の通信速度や低レイテンシーの恩恵を受けることができ、それだけでも大きな魅力となりうる。しかし、現状では利用できる場所も限られており、5Gだけではセールスポイントとして役不足なのは、他社のスマートフォンを見てもわかる。

同様に、アメリカ以外では5Gの高速性を生かせるミリ波に対応させなかったことは、各国のインフラが不完全であることを考えればさほど問題とならず、改めて次期iPhoneのために温存したというのが本音だろう。

もちろん、各キャリアはiPhoneの5G対応待ち状態ともいえたので、この先のインフラ整備には各社とも拍車がかかるに違いない。しかし、今回のiPhone 12シリーズ発表のタイミングでは、5G以外に(あるいは今の5G以上の)魅力を付加する必要があった。

A14 Bionicによる処理能力の大幅な向上はもちろんだが、Ceramic Shieldの超硬ガラスと新たなフレーム構造による落下時の破損軽減、防沫・防塵・耐水の等級上はIP68ながら過去最高となる最大水深6メートルで最大30分間の防水機能の実現など、地味ながら安心して使えるようにするための仕様を押さえてきた点もAppleらしいところだ。

スクリーンは、iPhone 11シリーズではProモデルのみに使われたOLEDのSuper Retina XDRディスプレイが全モデルで採用され、その解像度もiPhone 12 miniの2,340 x 1,080ピクセルからiPhone 12 Pro Maxの2,778 x 1,284ピクセルまで、軒並み向上させるなど、特に非Proモデルの底上げが図られている(たとえば、iPhone 11は1,792 x 828ピクセルで、iPhone 11 Pro Maxは2688 x 1242ピクセルだった)。これは、価格帯のフルラインアップ形成のために継続販売される、iPhone 11、XR、SEとの差別化を明確にするためだろう。

このほかにも、後述するカメラ機能の充実やMagSafe対応など、かなりの仕様を詰め込みつつも、前モデルよりも薄く、軽く仕上がっているのは驚異的である。重量に関しては、5nmプロセス採用のA14 Bionicチップをはじめ、様々なパーツの小型軽量化の集積結果だと考えられるが、ガラスの重さも意外と無視できないため、新たに採用されたCeramic Shieldの超硬ガラスの貢献もありそうだ。

加えてデザインのマジックも健在で、iPhone 12シリーズではiPhone 5/SE的な直角断面の筐体となったため、丸みを帯びたiPhone 11シリーズよりもエッジ部分まで内部空間を有効活用できる。それも薄型化に一役買っているはずだ。

少し残念だったのは、Face IDと新型iPad Airで採用された電源/スリープボタン内蔵型のTouch IDの併用が行われなかったことだ。日常的にマスクを着用するようになった今の世界ではTouch IDのほうが利便性が高いため、そのような仕様もありかと思ったのだが、当然ながらコスト的には不利となる。Apple自身、この状況がいつまでも続くとは思っていない可能性もあり、Face IDのセキュアさを揺るがせないためにも、併用は避けたものと考えられる。

クリエイターならば、iPhone 12 Pro Maxの一択!

いずれにしても、iPhone 12シリーズの4モデルから、どれを選ぶべきか迷う人が少なからず居そうだが、クリエイターであれば、iPhone 12 Pro Maxの一択となろう。

その理由は、最大2.5倍の望遠カメラ、47%拡大したイメージセンサーとセンサーシフト方式の手振れ補正機能を備え、7枚レンズ構成で27%多い光をとらえるようになった広角カメラ機能、そしてLiDARスキャナの搭載だ。

特に望遠カメラは、52mmから65mmへの焦点距離の変更で、ポートレート撮影により適した画角を得ることができる。このあたりは、おそらく現場のプロの意見をヒアリングした結果と思われる。

極限的なセンサーの画素数やRAWの画質、そしてレンズ交換などは、依然として物理量に勝る一眼レフカメラに軍配が上がる。しかし、iPhone 12 Pro Maxは、上記のハードウェアの向上とコンピューテーショナル・フォトグラフィー(コンピュータの力を借りて写真の質を向上させたり、従来にない表現を可能にする技術の総称)によって、用途によってはプロのメインあるいはサブカメラとして利用できるほどの実力を備えることとなった。

ビデオ機能に関しても、10ビットのHDRレコーディングをサポートし、優れた輝度、コントラスト、色彩の記録と再現を行えるDolby Vision HDR対応の4K&60fps撮影を業界で初めて可能とした。その結果、これまでで最もリアルな奥行きや情景を感じられる映像表現が実現されている。

しかも、その圧倒的な機動性の高さや、撮影から編集、配信までを1台でこなせるワークフローまで考えれば、クリエイターのモバイル映像スタジオとして常時携帯し、活用しない手はない。

また、LiDARスキャナ搭載によって、対象物までの正確な距離を瞬時に測定したり、空間を短時間で連続的に3Dスキャンできるようになったことの恩恵も大きい。写真やビデオの撮影においても、低照度下のオートフォーカス精度が6倍向上し、A14 Bionicのニューラルエンジンとの組み合わせで、ナイトモードのポートレート撮影も実現した。

スペシャルイベント内でも事例紹介があったが、今後の対応アプリの充実によって、空間スキャンによるインテリアデザインへの応用や新たなARアプリへの応用など、クリエイターが活用できるシーンは増えていくはずだ。

これらすべての仕様を、2,000,000:1という驚異的なコントラスト比で最大輝度1,200ニトの、6.7インチSuper Retina XDRディスプレイを持つ筐体に収めたiPhone 12 Pro Maxは、文字通り、ProでMaxなiPhoneと呼ぶに相応しい。

ちなみに、Appleが今回の発表で強調した、コンピューテーショナル・フォトグラフィーについて、Googleが「Pixel 4」の発表時に唱えたとする記事も見かける。しかし、元々、どのようなデジタルフォトにも多かれ少なかれそう呼べる部分があり、研究自体は古くから行われていた。

筆者が記憶する限り、IT企業でこの言葉を初めて表舞台で使ったのは、2010年に、その名も"Computational Rephotography"というリサーチペーパーを公開したAdobeである。同社は、当時、複数のレンズを持つカメラシステムを開発し、撮影後に自由にフォーカスを変えるデモなどを行って、コンピューテーショナル・フォトグラフィーが当たり前となる未来を示唆した。その意味で、GoogleやAppleの現在の動きは、そのときに示された写真の将来が現実のものとなり、今も進化を続けていることの証なのだ(なお、2014年からGoogleにおけるコンピューテーショナル・フォトグラフィーの中心的役割を果たしてきたマーク・レボイは、今年の7月にAdobeに移籍している)。

iPhone 12 Proシリーズは、LiDARセンサーによる正確なデプスマップを暗所でも利用でき、Deep FusionやSmart HDRといったデジタル処理のパイプラインごと保存できるApple ProRawフォーマットまで用意したことで、コンピューテーショナル・フォトグラフィーの最前線に位置している。LiDARセンサーやDolby Vision HDRを含めて、様々な技術をニューラルエンジン、OS、アプリと高いレベルで連携させ、あくまでも自然な映像の美しさを引き出し、表現力を高めるためにAIを利用している点が、Apple流のスタンスといえよう。

Dolby Vision HDR
Dolby Vision HDR

MagSafe、HomePod mini、iPhone 12 miniの意義

このように、性能・機能向上も著しいが、iPhone 12シリーズで、最もわかりやすく目に見える魅力は、Qi充電パッド&アクセサリの磁力吸着システムとして名称が復活したMagSafeかもしれない。考えてみれば、Apple Watchでは最初から実現されていた磁力吸着の無線充電だが、それをiPhoneにも拡大し、さらにケースやウォレットなどのアクセサリのアタッチメントにも対応させた。この部分は、単純な性能向上による差別化ではなく、スマートフォンのデザインを別の角度から実用的に進化させたものであり、実にAppleならではの発想だ。おそらく、他メーカーにとっては、眼からウロコが落ちる思いだったと思う。

あくまでも日常使い用の磁力吸着なので、ハードな利用法向けではないかもしれないが、ケースの装着に使えるということは、それなりの保持力を有しているはずだ。したがって、たとえば動きを伴わない撮影機材に対するiPhone 12 Pro Maxの固定をMagSafeで行えるようなアクセサリがあれば、クリエイターのフォトシューティングの作業効率の改善にもつなげられる可能性もある。

MagSafeアクセサリ
MagSafeアクセサリ

最後に、HomePod miniとiPhone 12 miniは、ここしばらくAppleが続けてきたユーザー層の拡大戦略上、重要な意味合いを持っている。

HomePod miniについては、99ドル(日本では1万800円)という、Appleにしては思い切った価格設定に、このデバイスをセキュアでプライバシーに配慮したスマートホームの核として成長させていこうとする意思が感じられる。おそらく、何らかの関連製品・サービスの発表が今後も続いていくことだろう。

もし、デザイン事務所などで、まだスマートスピーカーを利用していないならば、HomePod miniを導入し、BGMを再生したり、スタッフの声を覚えさせて、個別のスケジュールの読み上げなどを行わせるような使い方も考えられる。

また、筆者はAppleがiPhoneの標準モデルよりも小さなモデルをもう出さないものと考えて、過去にそのような記事を書いたこともあった。しかし、最近になってその考えを改めた。それは、今後登場するはずのApple製ARグラスを踏まえてのことだ。

というのは、少なくとも初期のARグラスは、それ自体ですべての処理を行うのではなく、iPhoneと無線あるいは有線で接続して利用することが想定される。その場合、ARグラスは、iPhoneの機能の置き換えとはならないとしても、特定の情報表示に関しては、iPhoneやApple Watchよりもはるかに確認しやすいものとなるだろう。そして、ティム・クックも懸念するスマートフォンへの依存から脱却が図れれば、その画面を見る頻度は減ることになる。

そうなったとき、(クリエイターのツールとしては別だが、一般ユーザーにとっての)iPhoneは極力存在感をなくすのも1つの方向性だ。Apple Watchがこうした役割を担う可能性はあるとしても、まだ少し先の話だろう。その意味で、iPhone 12 miniは、高い性能をコンパクトなパッケージに収めるという1つの試金石なのかもしれない。

このように将来のiPhoneは、高機能な映像ツール系、スタンダード系、SE系のエントリーモデル(もちろん、すべてARグラスにも対応)に加えて、必要十分な機能性を実現しつつ、よりARグラスの母艦に適したコンパクトモデルに分化していくのかもしれない。iPhone 12シリーズは、そこへの助走の始まりとも考えられるのだ。

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