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大谷和利のテクノロジーコラム

2021.02.15 Mon

5G普及と次期iPhone SEの微妙な関係

TEXT:大谷和利(テクノロジーライター、AssistOnアドバイザー)

iPhone 12シリーズが予想を大きく超えた人気を博する中、その高い性能を通信速度面から支えるはずだった5Gインフラの整備は、(実際の進捗状況はともかく)あまり進んでいないように感じられる。一方で、早くも噂に上ったiPhone SEの後継(もしくは上位)モデルは、満を待して5G対応になるともいわれている。果たして5Gの今後と新型iPhone SEの行方はどうなるのか? ここで改めて考えてみた。

2020年、オリンピックとコロナ禍の功罪

2020年は、本来、日本にとって華々しい年になる予定だった。1つには東京オリンピック開催による経済効果が期待され、加えて、国を挙げての一大イベントを起点に、5G関連技術のショーケース的な事例を国内の消費者や海外の投資家に向けてアピールする様々な計画が立てられていたわけだ。

ところが、新型コロナウイルス禍によってオリンピックは延期され、5G関連の先行技術デモ的な見せ場もなくなってしまった。予定通りに開催されていれば、(実際の対応エリアの拡充には時間がかかるとしても)5Gがもたらす未来の一端を垣間見せることで夢を与えられたかもしれない。だが、現時点では、せいぜい多少速い4G的な印象しか与えられずにいる。

さらに各キャリアの5G対応製品の発表会もオンラインで行うことを余儀なくされて盛り上がりに欠け、かつ、ハイエンドモデルからのローンチとなったため、iPhone 12シリーズが登場するまでは、対応端末自体の普及も思うように進まなかった。

結果として、対応エリアが狭く端末が高いというのが、5Gに対して多くの消費者が抱いているイメージではないだろうか。しかも、政府が5G普及よりも、キャリアの設備投資計画にも影響を及ぼしかねない携帯料金の引き下げ政策を優先させたため、今や社会全体の関心事は、5Gの可能性から価格プランへとシフトしたかに見える。

それでも、通信インフラの整備と対応端末の普及が常にニワトリとタマゴの関係にある業界全体にとって、iPhone 12シリーズの販売好調は朗報であり、5Gエリアの拡充施策も順調に進む見込みなのが救いだ。

5G実用化に向けての課題 ~ 理論と現実の間で

コロナ禍は、確かに5Gのデモンストレーションや期待感を後退させる要因となったが、株式市場では逆の効果ももたらした。世界各地で「新しい生活様式」に対応するために通信環境の重要性が高まり、5G技術関連企業の業績にとっては、ある種の追い風となっているのだ。

とはいえ、現時点では実証実験段階にある5Gによる自動運転や遠隔医療、製造業におけるロボットのリモート制御などの応用は、単に通信速度だけでなくネットワークエリアの広さや強固さなども求められる。そのため、実用レベルに達するのは2025年以降というのが大方の予想だ。

また、先日、5G関連事業を手がける専門家の方の話をお聞きする機会があったのだが、もし5Gネットワーク自体が整備されても、大きな特徴とされている1ms(G4 LTEの10分の1)という低遅延性の理論値の達成は、ローカルな5G利用に留まる可能性が高そうだ。

そのため、5Gが普及しても、ほとんどの処理をサーバー側で行って処理結果だけを端末で受け取るようなクラウドコンピューティングによる完全なリアルタイム処理は難しく、エッジ、つまり端末側のデバイスにもそれなりの能力が求められることには変わりがないと考えられる。

もちろん、4Gと比較した場合には低遅延で、高速性や多数同時接続性の点でも大きなメリットが得られるため、5Gに移行すること自体は社会にとって有益だが、理想にどこまで近づけるかは、今後の技術開発に依存しているところもあるのだ。

インフラ充実が鍵となるiPhone SEの5G対応

このような状況の中で浮上してきた5G対応の次期iPhone SE(または、上位のiPhone SE Plus)の噂だが、Appleの立場になって考えれば、開発を進めること自体は当然の流れであり、驚きはない。

また、初代iPhone SEがiPhone 5ベース、現行iPhone SEがiPhone 8ベースであるように、伝統的にこのシリーズは、完全な新規開発ではなく、償却を終えた既存モデルのリブランディング+α的な成り立ちを持つ。その流れでいけば、次期iPhone SEのベースモデルの候補はiPhone Xあたりが妥当であり、そこに、より新しいA14 Bionicチップを組み合わせることが考えられる。

ただし、コスト面でFace IDは見送られ、iPad Proの廉価版的位置付けで登場した昨秋のiPad AirのようにTouch ID内蔵電源ボタンを採用する可能性が高い。メインカメラはiPhone Xを踏襲して1眼のままだとしても、コンピューテーショナル・フォトグラフィーによって画質の向上が期待できるはずだ。

2020年に発売されたiPhone SE(第2世代)
2020年に発売されたiPhone SE(第2世代)

しかし、問題は投入のタイミングである。初代iPhone SEの製造期間が2年半だったことや、現行iPhohe SEのリリースからまだ1年未満であることを思えば、ここ数ヶ月から半年の間にリリースされるとは考えにくい。もちろん、4Gモデルを残したまま上位のiPhone SE Plusのような名称のモデルを追加する可能性もある。だとしても、iPhone 12シリーズの予想以上の人気が続く限りは、あえてリリースを急ぐ必要はなく、パーツの確保という観点からも12シリーズが優先されそうだ。

加えてAppleは、現在Qualcommから供給を受けている5Gモデムチップも自前で開発中だ。自社チップのほうがコストダウンにつながり、低価格モデルを作りやすくなるため、iPhone SEに搭載するなら、その完成を待つほうが得策といえる。

いずれにしても、iPhone SEのような廉価モデルのターゲット層は、使えない5G機能に差額を払うとは思えず、5G対応モデルの投入は世界的なインフラがある程度充実してからと考えるべきだろう。その意味でも、5GをサポートするiPhone SEは少し先の話で、iPhoneのレギュラーモデルのモデルチェンジが1回ないしは2回行われた後のリリースになるものと筆者は見ている。

大谷 和利(おおたに かずとし)
テクノロジーライター、AssistOnアドバイザー
アップル製品を中心とするデジタル製品、デザイン、自転車などの分野で執筆活動を続ける。近著に『iPodをつくった男 スティーブ・ ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』(以上、アスキー新書)、 『Macintosh名機図鑑』(エイ出版社)、『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社現代ビジネス刊)。
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