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大谷和利のテクノロジーコラム

2021.04.19 Mon

10億台超のiPhoneで探し物を見つける「探す」機能に新展開か?

TEXT:大谷和利(テクノロジーライター、AssistOnアドバイザー)

 

当記事の執筆中に、日本時間の4月21日午前2時からAppleの春のスペシャルイベントが行われるという公式の告知があった。また、それに先立って同社が専用アプリやiCloudサービスの1つとして提供している「探す」機能が、サードパーティ製品でも使えるようになることが発表された。両者の微妙なタイミングのズレにはAppleならではの深い思惑があると感じられ、スペシャルイベントでの目玉の1つが、噂される純正の忘れ物・紛失防止スマートタグ「AirTag」になる公算が高まった。そこで、本記事では「探す」機能とAirTag、そしてAR機能の連携について考察してみることにした。

「探す」機能の強み

Appleの「探す」機能は何ともストレートな名称だが、英語でも"Find My"という一見奇妙なネーミングとなっている。より正確にいうならば、これまでこの機能は、事実上の"Find My Apple Product"、つまり自分が所有するApple製品(のうち対応する通信機能を持つもの)を見つけるためのものだった。

かつて、iOS 5とOS X Lion以降のiCloudで実現されていた「iPhoneを探す」(Find My iPhone)、「iPodを探す」(Find My iPod)「iPadを探す」(Find My iPad)、「Macを探す」(Find My Mac)に端を発するこの探索機能は、iOS 13とmacOS Catalinaに対応した「探す」(Find My)機能へと進化する際にセキュリティが大幅に強化された。

iPhone、iPod touch、iPad、Macintosh、Apple Watch、AirPodsをサポートした「探す」機能は、スリープ時に発するBluetoothシグナルを捉えた周辺のAppleデバイスによって、その位置情報がiCloudにアップされる。その際に位置情報データには、定期的に切り替わる公開鍵によってエンドツーエンドの暗号化が施され、紛失したデバイスに紐付けされて秘密鍵を持つ特定のデバイス以外は、Appleでさえも複合できない。すなわち、第三者にはそのデバイスの位置情報や移動履歴を特定することが不可能なのだ。

ポイントは、そのBluetoothシグナルを捕捉するAppleデバイスのネットワークにある。累計販売台数が20億台を超えているiPhoneの中で「探す」機能に対応したモデルと、同じく「探す」機能をサポートする世代のMacなどのAppleデバイスを合わせると、全世界に10億台もの探索ネットワークが張り巡らされていることになる。もちろん国や地域ごとの偏りは存在するものの、この巨大な探索ネットワークの存在が「探す」機能を支え、かつ、高度なセキュリティ対策によってプライバシーが完全に保たれるという仕組みだ。

Appleの「探す」機能
Appleの「探す」機能

AirTagと独禁法

Appleは、これまで「探す」機能の対象を純正デバイスに限定していたが、先日、サードパーティの忘れ物・紛失防止タグや、それに準じた機能を内蔵する自転車その他の製品にも開放することを発表した。

これは、自社のコンピュータ関連製品のみが対象であれば独自機能の範囲内という扱いで済むとしても、他社製品と直接競合するAirTagのようなアクセサリを出すとなると、競合他社排除のための不当な囲い込みと受け取られ、独占禁止法に触れる可能性が出てくるためと考えられる。逆にいえば、競合製品を計画しているからこそ「探す」機能を開放する必要があり、そのこと自体がAirTagの発表が近いというヒントにもなっているわけだ。

「探す」機能の開放をAirTagの発表と同時に行うという判断もありそうだが、Appleにとって、それではメディアの報道内容が分散してしまい、AirTagの存在を際立たせる上での障害になる。そのため、あらかじめ「探す」機能を開放しておき、満を待してAirTagをデビューさせるという手順を選択したのだろう。

だが、両者の間隔があまり空いてしまうと、サードパーティ製品が普及しすぎて純正品のシェアに影響してくる可能性もある。そう考えると、4月21日のスペシャルイベントは、AirTagのお披露目の場として最適と思えてくる。

AirTagはARの実用的利用を日常化する

では、Appleのビジネス戦略上、AirTagはどのような役割を果たすのだろうか? 巷では、AirTagは、予想価格が低めなこともあってAppleの売り上げに対する貢献度が低く、さほど重要な製品ではないと見る向きもある。しかし、筆者は、逆に近い将来のビジネス展開のための準備として、非常に大きな意味合いと使命を持つと考える。

これまでティム・クックは、機会があるごとに、ARの重要性やAppleがARに力を入れていくことに触れてきた。だが、過去のWWDCでのデモやアプリストアのサードパーティアプリなどもゲームなどのエンターテイメント分野や実験的なものが大半で、わずかに距離の計測や、購入前の家具のレイアウトができるアプリが実用的な応用例といえた。しかも、そのように実用を目指したアプリでも、多くのユーザーが日常的に使う状況からは程遠く、一般消費者がAR本来のポテンシャルを感じるところまでは到達していない。

また、すでにGoogle Mapsでは、徒歩ナビモード時に「ライブビュー」と呼ばれるAR表示(現実の風景にナビのための矢印などが合成表示される)が実現されていたり、サードパーティ製の地図アプリでも同様のARナビ機能を備えたものもある。ところが、Appleマップでは(あれほどリアルな3D表示や、スムーズなLook Around機能を組み込みながらも)今のところAR機能を採用する動きがない。

Appleの「探す」機能
Appleの「探す」機能

しかし、現状のスマートフォンのまま徒歩ナビ機能をAR化することは、いわゆる「ながら歩き」を助長してしまうため、たとえばGoogle Mapsでは「ライブビュー」を移動中には使えないようになっている。Appleも同様の制約付きでARナビ機能をAppleマップに追加することは可能だが、移動中に使えなければ意味がないと考えるだろう。つまり、少なくともARグラスを出すまでは、マップにそのような機能を付けても最良のユーザー体験を与えられないということだ。

これに対してAirTagでは、Appleも「探す」アプリの機能を拡張して、積極的にARモードのある探索画面をアピールしてくるものと思われる。大まかな位置は俯瞰地図で示し、探しているアイテムに近づくとAR表示も選べるようになるインターフェースであれば、基本的には立ち止まっての利用か、周囲を見て回る程度の使い方となる上、その場で探すことが目的なので「ながら歩き」とも無縁といえる。

実際に、こうした探し物の頻度は、個人でもそれなりにあり、世界的な規模で見れば常時発生しているはずだ。したがって、AR機能を実用的に使い、かつ、その有用さを実感する入口としてAirTagはベストな製品と考えられる。

すでにSamsungは、4月16日発売の自社のスマートトラッカーSmartTag+に対応するGalaxyデバイスの"SmartThings Find"アプリに、UWB利用のAR探索モードを実装したが、これは、AirTagの存在が公然の秘密となったことから、それより先だったという実績づくりのために駆け込みでリリースした印象が強い。いずれにしてもAppleには、"SmartThings Find"を超えるARのインターフェースアイデアを期待したいところであり、早ければ春のスペシャルイベントの席上で、その全貌が明らかとなるだろう。

SmartTag+
SmartTag+

大谷 和利(おおたに かずとし)
テクノロジーライター、AssistOnアドバイザー
アップル製品を中心とするデジタル製品、デザイン、自転車などの分野で執筆活動を続ける。近著に『iPodをつくった男 スティーブ・ ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』(以上、アスキー新書)、 『Macintosh名機図鑑』(エイ出版社)、『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社現代ビジネス刊)。
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