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あべちゃんのサブカル画材屋 紀行/知っているようで知らない和紙の世界 第六回 山形屋紙店 〜和紙編〜③

2018.10.23 TUE

似て非なる画材、この差って何?
あべちゃんのサブカル画材屋 紀行


知っているようで知らない和紙の世界
第六回/山形屋紙店 〜和紙編〜 ③

1000年先に残るもの。時を超える和紙の時間
和紙の特徴として、「耐久性の高さ」をあげる人も多いだろう。奈良県の東大寺・正倉院には、八世紀から十一世紀頃に使われた楮の和紙に書かれた文書などが、現在でも残されているという。約1000年前の紙は、どんな触り心地をしているんだろうか……。

そんな想像をしていると、田記さんが一冊の和帳を出してくれた。山形屋紙店が創業135年を迎えた平成26年に限定生産したものだという。

「『悠久(ゆうきゅう)手帖 八千代』という、オリジナルの商品です。中に使われている紙は、今では栽培が難しくとても貴重な天然の雁皮紙が使われています。高知県・土佐を訪問した時に、この紙が保存されていることが分かり、使わせて頂きました。正倉院に残されている和紙と同じように昔ながらの材料と方法で作られていますから、長期間保存が可能です。家系図や過去帳(※6)などに使って頂くと良いかもしれませんね」(田記さん)

※6)過去帳……檀家や信徒の死者の俗名や法名、死亡年月日などを記しておく帳簿
昔ながらの製法で作られた紙は、とても丈夫で長持ちするといわれている。そのため、山形屋紙店では、悠久手帖を親しみを込めて「1000年手帖」と呼んでいた

昔ながらの製法で作られた紙は、とても丈夫で長持ちするといわれている。そのため、山形屋紙店では、悠久手帖を親しみを込めて「1000年手帖」と呼んでいた

表紙は柿渋染め。麻の紐で綴じてある

表紙は柿渋染め。麻の紐で綴じてある

雁皮の紙は、つるりとした手触りで光沢がなんともいえず美しい。紙の薄さは約40ミクロン!! 天然の雁皮は貴重なため、今ではもう漉けないという

雁皮の紙は、つるりとした手触りで光沢がなんともいえず美しい。紙の薄さは約40ミクロン!!
天然の雁皮は貴重なため、今ではもう漉けないという

つるりとした紙肌、めくると空気を含むように軽い紙、愛着が湧く柿渋の表紙。これが1000年先に残るかと思うと、「きちんとしたものを書かなければ!」と、背筋が伸びる想いがする。

1000年保存ができることも驚くべきことだが、年数を経るごとに紙の書き味は変化するというからさらに面白い。

「同じ産地で同じ銘柄のものでも、作られたばかりの紙と20、30年寝た紙とでは書き心地が違う。“紙が締まる” という表現をしますが、滲みにくく、するするっとした書き心地に変化するんです」と吉澤さん。

墨と同じく、紙も枯れることで状態が良くなるという。人の人生は1000年というわけにはいかないが、年をとって書き味の違いが楽しめる。それは和紙ならではの楽しみ方といえそうだ。
こちらの写真は、山形屋紙店の裏手にある、見事なレンガづくりの蔵。東京大空襲にも耐えたという、建築的にもとても貴重な建物。昔ながらの製法で余計なものを入れず丁寧に作られたものが、適切な環境で寝ることで“枯れて”いくのは墨と同じ。湿度が高くなく乾燥しすぎず、温度変化の少ない蔵のなかは、紙が寝るのにちょうどいいようだ。
レンガづくりの蔵の中。貴重な和紙が眠っている

レンガづくりの蔵の中。貴重な和紙が眠っている

|ディープな逸品|
神保町という土地柄、古本の修理をするために来店する人も多いとか。
「古本の修理には、原本を痛めない紙選びが必要です。当店では、"灰煮(はいに)” で漂白された紙をご用意しております。草木を燃やしてできた灰をお湯に溶かして、材料を煮ることで漂白する昔ながらの製法です」
と吉澤さん。
とはいえ、作り立ての白い紙では古本には調和しないように思うが……。
「うちでは『トマト染め』の紙をご用意しています。トマトの木の枝で薄く色をつけた紙で、経年変化したように見えるんですよ。顔料でつけた色とは全然違いますね」
ちょっと美味しそう(?)なトマト染め。ぜひお試しあれ!

漉き手と作家、お客さんをつなぐ窓口の役割
実は和紙にもシーズンがある。和紙に使われる楮は、木の水分が少なくなる11月末〜1月に刈り取り時期を迎える。真冬の冷たい空気と水の中で漉かれた和紙は、ぴしっとしたよい紙になるそうだ。

「寒い空気と冷たい水の中で作業するので、漉き手は大変。とても地道な行程を経て作られますから、漉き手はどんどん減ってきているのが現状です。それでも全国各地で細々と漉いている所もありますし、一度途絶えた技術を復興させた人もいる。生産地巡りをして、貴重な和紙に出合うこともあります。これからも、全国にある素敵な和紙を発掘して、皆さんにお届けしていきたいですね」

これからますます全国の和紙が網羅されていくであろう山形屋紙店が楽しみだ。さらに田記さんは、オリジナルの和紙製品の製作にも積極的だ。

「作家やデザイナーの方たちが、来店されることもよくあります。彼らのなかには、『和紙を使ってみたいけれどどんな紙が良いか分からない』、『和紙で作品を作ったけれど、どこで販売していいか分からない』といった声も多く聞きます。うちでは、そうした声に応えたい。最近では、作家の方たちにお願いして、和紙製品の開発にも力を入れています。最近では、一点もののご祝儀袋や、石州半紙を使った最高級の便箋のセットを作りました」

最高の紙と、現代の作家のコラボレーション。「漉き手と作家、お客様を繋ぐ窓口でありたい」と語る田記さんは、”和紙の販売店”というだけに留まらない、意欲的な姿が印象的だ。
山形屋紙店オリジナルの便箋と封筒のセット。木版で一枚ずつ手刷りによって富士山のモチーフが刷られている。石州半紙(島根県浜田市)を使用した作家とのコラボレーション商品

山形屋紙店オリジナルの便箋と封筒のセット。木版で一枚ずつ手刷りによって富士山のモチーフが刷られている。石州半紙(島根県浜田市)を使用した作家とのコラボレーション商品

作家とコラボした、木版で印刷された和紙のカード

作家とコラボした、木版で印刷された和紙のカード

字を書いたり、絵を描くだけでなく、和紙で何かを作ってみたいと思ったなら、山形屋紙店に足を運んでみよう。

ここにはを表現を叶える豊富な紙と、知識豊富な店員さんが、あなたの創作意欲を形にしてくれる後押しをしてくれるはずだ。

さて、どんな紙を買おう。画材を迷う時間は、いつも悩ましく、楽しい。
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●山形屋紙店
明治12年(1879年)創業の、和紙専門店。初代・田記 俵次郎(たき・ひょうじろう)が日本橋の「松本紙店」につとめ、その後のれんわけする形で独立。東京・神保町に「山形屋」の店舗を構えた。以後130年、同じ場所で紙店を営んでいる。店の裏手には、大正2年の神田の大火、関東大震災、東京大空襲にも耐え抜いた貴重な蔵があり、外からでも3階建てのレンガ造りの蔵を見ることができる。店内には楮紙、奉書紙、書道用半紙、障子紙、千代紙、手芸用和紙をはじめ、オリジナルの便箋、封筒、カード類、ポチ袋などの取り扱いがある。

住所/東京都千代田区神田神保町2-17
アクセス/都営新宿線・半蔵門線・都営三田線 「神保町駅」A6出口より徒歩1分
営業時間/10:00〜18:00
休業日/土・日曜日、祝日
TEL/03-3263-0801
URL http://www.yamagataya-kamiten.co.jp/
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