人気のインクスタンドで、オリジナルインク作りに挑戦! 第七回 インクスタンド 〜カラーインク編〜(前編) | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-

人気のインクスタンドで、オリジナルインク作りに挑戦! 第七回 インクスタンド 〜カラーインク編〜(前編)

2018.11.18 SUN

似て非なる画材、この差って何?
あべちゃんのサブカル画材屋 紀行


人気のインクスタンドで、オリジナルインク作りに挑戦!
第七回/インクスタンド 〜カラーインク編〜(前編)

都内近郊に点在する画材や文具の専門店をめぐる連載企画。大型店ではカバーしきれないマニアックな商品と知識を求め、イラストレーター兼ライターの筆者が専門店に潜入します。今回訪れた専門店は、東京・蔵前にあるインク専門店・インクスタンド。このお店ですることは「色を混ぜること」。ただ、それだけ。そのシンプルな行為には、純粋な楽しさと、色を組み合わせる無限の面白さがあったのでした。さあ、色とりどりの世界へ、ようこそ。

(取材・文・イラスト:阿部愛美)


<<< 第一回目「鳩居堂本店」〜筆編〜
<<< 第二回目「伊勢半本店」〜紅(べに)編〜
<<< 第三回目「喜屋」〜岩絵具編〜
<<< 第四回目「ならや本舗」〜墨編〜
<<< 第五回目「うぶけや」 〜はさみ編〜
<<< 第六回目「山形屋紙店舗」 〜和紙編〜

十人十色。人によって異なる色のふしぎ
人はそれぞれ、認識している色が異なるという。

日本人ならきっと誰しも、アメリカで売られている真っ青なケーキに衝撃を受けるはずだ。なぜ彼らが、カラフルな食べ物や蛍光色の食べ物を好むのかについて確かな根拠がないものの、確実に分かることは「目」そのものに違いがあるということ。例えば、黒い虹彩の日本人と、多様な色素の虹彩をもつアメリカやヨーロッパ人とでは、光の感じ方や色彩感覚が異なるという。目の虹彩の色が異なることで、メラニン色素の数に違いが生じるからだそうだ。

色の認識の違いは、文化の違いによっても違う。空にかかる“虹”を思い浮かべてみよう。虹は、赤から紫における無数の色のグラデーションだが、一般的に日本では、赤、橙、黄色、緑、青、藍、紫の7色だと考えられている。しかし、アメリカやドイツでは6色だし、西アフリカ・リベリア共和国の一部では、2色だという。虹の色は、全世界共通ではないのだ。
国によって、虹の捉え方はさまざま

国によって、虹の捉え方はさまざま

では、人種も目の色も、生まれた環境も一緒ならどうか。いやいや、男女間にさえ違いがある。化粧品売り場に並ぶ何十もの赤い口紅を前にして、女性なら「どの色が私に似合うかしら」と悩むもの。男性は「どれも一緒だ」と呆れるだろうが、実際に色の差異を認識できていない可能性さえある。

男性の目は、遠くにある細かい動きに敏感だ。それは、私たちの祖先のうち男性が、動物を狩る“狩猟者”だったことに関係していると考えられている。一方、微妙な色の変化を見分けることが得意な女性は、色とりどりの果物や木の実などを拾って集める“収拾者”であったといわれている。

「十人十色」とは、まさに言葉通り。どんな色に見えていても、どんな色が好きでも、そんなことは当たり前だ。自分だけに納得できる色があればいい。

ということで今回は、色の楽しみを教えてくれる、インクスタンドへ。
オリジナルの色を作ることができる、インク専門店へ
訪れたのは、全国的にも珍しいインク専門店の「インクスタンド」。ここでは、万年筆用インクを自分で調合して、自分だけの色をつくることができる。予約制で、一日の定員は25名まで。土日は、毎週予約でいっぱいになるほど人気のお店だ。

「いらっしゃるお客様は、約8割が女性です。1〜2名で来られる方が多いですね」

とは、インクスタンドの広報を担当している杉田千尋(すぎた・ちひろ)さん。

万年筆といえば圧倒的に男性の領域だと思っていたが、最近は、女性の利用者が急増しているという。その背景には、インクの存在があるようだ。今や、定番で実用性の高いブラックやブルーブラックだけでなく、ピンクやエメラルドグリーンなど、文具メーカー各社では幅広いカラーバリエーションを揃えている。さまざまなインクを集めて楽しむ人たちのことは、「インク沼の住人(※)」と呼ばれるそうだ。

インクスタンドの店内に入ると、壁は黒を基調としており、中央には白いカウンター。画材店や文房具店というよりも、しっとり落ち着いたバーのよう。
※インク沼の住人……もともとネット用語で、何かの趣味にどっぷりと浸ってしまうことを「沼」と呼ぶことから。たくさんのインクを集めて、メーカーや色の違いなどを楽しむ人たちのこと
「外から覗いているお客さまから『(お店に)入りづらい』とお声を頂くことがありますが、集中してインクの調合をして頂けるような空間を心がけているんです」(杉田さん) 調合には予約が必要だが、見学は受け付けて居るとのこと。勇気を出して入店してみたい

「外から覗いているお客さまから『(お店に)入りづらい』とお声を頂くことがありますが、集中してインクの調合をして頂けるような空間を心がけているんです」(杉田さん) 調合には予約が必要だが、見学は受け付けて居るとのこと。勇気を出して入店してみたい

カウンターには5席(回によっては4席)用意されている

カウンターには5席(回によっては4席)用意されている

インクスタンドオリジナルインクや、オリジナル文具なども販売

インクスタンドオリジナルインクや、オリジナル文具なども販売

机の上には、ひとりずつインクの調合セットが用意されている

机の上には、ひとりずつインクの調合セットが用意されている

さっそく、カウンター前の椅子に腰掛ける。目の前には、17色のインクが入れられた瓶、その前には調合用のミニカップが置かれている。右側にはメモ用のボールペンとインクを撹拌するガラス棒、そして試し書き用のガラスペン。

中央に置かれたまっさらな紙はさながら、運ばれて来る料理を待つ皿のよう。これから、どんな色が生まれるだろう……と思うと、ドキドキする。

色を選び、そして混ぜる!
さあ、さっそく色を混ぜてみよう。杉田さんに、やり方を説明してもらう。

「まず、17色のインクから色を選んで、ミニカップの中で混ぜ合わせて頂きます。4色以上入れると色がくすみやすいので、2か3色でお選びください。色の比率は自由ですので、例えば3色ならば1:1:1でも、1:2:3でも構いません」

色の配合にはチャート表が参考になる。色の名前が交わるマスで調合した色を確認しよう。すでにイメージしている色がある場合は、類似色を見つけることで理想の色に近づけることができそうだ。
色のチャート表。それぞれ1滴ずつ調合した色が確認できる

色のチャート表。それぞれ1滴ずつ調合した色が確認できる

机に並ぶ色の瓶を見渡すと、まず、水色「Puddle(パドル)」が目についた。スポイト式のキャップを外し、インクをぽたりと1滴カップに入れる。そうして今度は、黄色「Twinkle Yellow(トゥインクル・イエロー)」を、ぽたり。ガラス棒を使ってぐるぐると混ぜ合わせると、きれいな緑色に変化する。

イラストレーターという仕事柄、画材用のカラーインクを頻繁に使用するのだが、思い通りの色にならずにやきもきすることも多い。だが今は 、ただただ、色の変化を楽しんでいる自分がいる。あぁ〜……、すっごい楽しい……。
水色の「Paddle(パドル)」を3滴入れたものをベースに、黄色の「Twinkle Yellow(トゥウィンクル・イエロー)」を3滴混ぜた黄緑色のものが2段目。さらにディープカラーの「Deep Red(ディープ・レッド)」を1滴混ぜたものが一番下のもの

水色の「Paddle(パドル)」を3滴入れたものをベースに、黄色の「Twinkle Yellow(トゥウィンクル・イエロー)」を3滴混ぜた黄緑色のものが2段目。さらにディープカラーの「Deep Red(ディープ・レッド)」を1滴混ぜたものが一番下のもの

「一番人気の組み合わせは、水色の『Paddle(パドル)』と黄緑の『Lime shock(ライムショック)』、そして青紫の『Foggy violet(フォギー・バイオレット)』です。緑とも青ともグレーともつかない絶妙な色は、既製品のインクにはあまりない色だと思います」と、杉田さん。

17色の中には、今年の6月より登場した3色の「ディープカラー」が含まれている。ほか14色のベースカラーよりも濃度が高く粘度もある。

「ディープカラーは、色を濃くするためのインクです。例えば、万年筆にインクを入れて使う場合、太字のペン先に比べて細字のペン先の方が、一度に出てくるインク量は少ない。そのため、同じインクでも太字に比べて色が淡く見えてしまいます。ディープカラーは、『太字の色を細字でも出したい』という、多くのお客さまのお声をもとに、開発した商品です」

一方、色を薄くしたいならうすめ液を。14色のベースカラーで色を組み合わせるだけでなく、ディープカラーとうすめ液を駆使して濃淡の変化まで楽しむことができる。17色とはいえ、作り出せる色は、無限だ。
3色のディープカラー。ディーブカラーにうすめ液を使えば、ベースカラーにはない色を楽しむことも

3色のディープカラー。ディーブカラーにうすめ液を使えば、ベースカラーにはない色を楽しむことも

「同じインクを使っても、例えば太字で茶色っぽいインクは、細字だと黄色っぽくなったりします」(杉田さん)。細字でも淡くせず書きたいならディープカラーをいれてみよう

「同じインクを使っても、例えば太字で茶色っぽいインクは、細字だと黄色っぽくなったりします」(杉田さん)。細字でも淡くせず書きたいならディープカラーをいれてみよう

●インクスタンド バイ カキモリ(inkstand by kakimori)
2010年に総合文具店・カキモリがオープンし、2014年に姉妹店としてオープンしたインク専門店。14色のベースカラー、3色のディープカラーの17色とうすめ液を調合して、自分の好きなカラーのインクをつくることができる。開店当時は「プライベートリザーブ社」(アメリカ)の水性染料インクを使用していた。途中で供給が困難になったことをきっかけに2016年にリニューアルし、「ターナー色彩株式会社」との共同開発により現在の形に。今冬(2018年)には新スペースがオープン予定。1回90分(調色時間45分まで+スタッフ製作時間約40分から)、一日の定員は最大25名(各回4〜5名ずつ)の予約制。1瓶(約33ml)2700円。受付は2ヶ月前から。

住所/台東区蔵前4-20-12クラマエビル1F
アクセス/都営浅草線「蔵前駅」より徒歩3分、都営大江戸線「蔵前駅」より徒歩5分
営業時間/11:00〜19:00
休業日/月曜日(祝祭日の場合は営業)
TEL/050-1744-8547
URL http://inkstand.jp/(予約もこちらから)
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