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ビジュアル・音・動きをフル活用して伝える、対戦型スマホゲームの表現テクニック

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【UIUX Labに学ぶゲーム設計術】
ビジュアル・音・動きをフル活用して伝える、対戦型スマホゲームの表現テクニック

皆様こんにちは。UIUX Lab代表の鷲山です。ゲームUI/UXの魅力をお伝えする連載第三回目は、スマホで本格的なFPS(一人称視点のシューティングゲーム)ができると近年話題のゲームアプリ「荒野行動」を例に、対戦型アクションゲームのUIについて見ていきたいと思います。

以前のコラム内でもお話ししましたが、ゲームは画面上で表現しなくてはいけない情報量が圧倒的に多いです。3D対戦ゲームともなれば空間的にも時間的にも大量のデータが錯綜しますので、これをテキストやアイコンで表現していくと、説明だけで画面が埋め尽くされてしまいます。

そこで今回は、「音」や「動き」を使って、プレイするために必要な情報を、自然にさりげなく伝えていく方法について考えてみたいと思います。

2019年6月28日
解説:UIUX Lab代表 鷲山優作 TEXT:編集部

リアルタイムゲームならではの「音」による情報伝達


「荒野行動」は、100人のプレイヤーが無人島に降り立ち、最後の一人になるまで戦闘を繰り広げるバトルロイヤルゲームです。通常のスマホゲームと比べてリアルタイムでの情報伝達が重要となるこのゲームでは、様々な方法を使ってプレイヤーに刻一刻と変わるゲーム状況を伝えています。

●「音」による情報伝達で視覚情報を補う

「荒野行動」に限らず、PUBGやフォートナイトなど現行のFPSゲームに共通する傾向ですが、このゲームでは「音」が情報伝達の重要なカギを握っています。例えば敵が近くに来た時、ミドルエンド、ローエンドマシンを意識したこれまでのスマホゲームであれば、「敵が接近しています」というテキストやアイコン、または敵自身が姿を現すという表現が使われてきました。もちろん、「荒野行動」でも何かが近づいているという情報をアイコンなどで表現しているのですが、それだけでなく、3Dサウンドで敵の接近を含むいくつかの情報をプレイヤーに伝えています。

敵が遠くにいる時は、足音が小さく、近づいてくるにつれて大きくなります。3Dサウンドなので大体の方向も認識できます。敵が動く速さや、敵が建物の中にいるのか外にいるのかといった情報も足音の調子を変えることで表現されています。

さらに、最も遠くから聞こえる「銃声」、次に聞こえてくる「車やバイクの音」、至近距離で聞こえる「足音」という3段構えで、「音」によってかなり広い空間を感じ取れる設計になっており、一人称視点の限られた視界に情報を補う役割を果たしてくれています。

この「音」という伝達手段は、よりたくさんの情報を自然な形でプレイヤーに伝えられるとともに、初心者にも直感的に分かる表現方法なので、FPSゲームにおいては非常に効果的に機能しています。
「荒野行動」プレイ画面

「荒野行動」プレイ画面

しかし、「音」という伝達手段がすべてのケースにおいて、必ずしも優れているわけではありません。敵が静止すれば音はしなくなりますし、敵を見つけ出そうと動けば、こちらの足音が反対に情報を与えてしまいます。プレイヤーの習熟度にもよりますが、視覚ほど正確な情報を得ることも難しいでしょう。例えば、じっくりと時間をかけて解くパズルゲームの情報源が、このような曖昧なものであったら、プレイヤーは反って混乱に陥ってしまうのではないでしょうか。

これはゲーム性にも係わることですが、バトルロイヤルゲームにおいて、相手の位置を先に把握するということが大きなアドバンテージにつながります。反対に先に見つけられてしまえば不利な状況に陥りますので、見つかるか、先に見つけられるかの探り合い。「音」という断続的な情報がドキドキ感を演出し、ゲーム体験をより重層的なものにしています。

今回取り上げた「荒野行動」では、どの音もリアリティを重視したものが使われているため、このような演出になっていますが、「音」は、より明快にアイコン的な使い方をすることも可能です。敵が接近してくることを、ドクンドクンと心臓の音が鳴り出すことで表現したり、焦燥感をあおるような音楽が響いてきたり、周囲で音がすると自動的にキャラクターが振り向くというモーションを入れているゲームもあります。

「モーション」が担う複数の役割


ちょうどモーションの話が出ましたので、今度は「荒野行動」で使われているモーションと、その役割について見てみましょう。さりげないモーションばかりなので、プレイヤーが意識することはまずありませんが、このゲームの中でも色々な所にモーションが使われています。

● 「予備動作」としてのモーションの役割

一瞬の遅れが勝敗を分けるバトルロイヤルゲームですから、操作に対するレスポンスは少しでも早い方がよいと思うかもしれません。しかし、歩きだす瞬間、銃を撃つ時など、「荒野行動」では多くの動きの前に2~3ステップのモーションが入れられています。これは、キャラクターにリアルな動きをさせるという目的ももちろんありますが、プレイヤーにレスポンスの遅さを感じさせないためでもあります。

ゲームの世界観の中でキャラクターの動きを設計する以上、一歩目からトップスピードで動かすわけにはいきません。しかし、アクションゲームの場合は特に、この“助走”部分の反応の悪さがプレイヤーにストレスを与えることがあります。ここへ「予備動作」を入れることで、レスポンスの悪さを感じさせず、プレイヤーにとっても納得感のある動きを作り出しています。

「不自然さ」に関しても、等身が高いキャラクター、リアルテイストになればなるほど顕著に現れますので、走り出す瞬間には最初の数歩に慣性を持たせて、助走のモーションを重ねてあげることで、自然でレスポンスの良い表現を生み出しています。
● 初心者にもやさしい、モーションによる学習効果

銃を「打つ」という動作にも、もちろん、プレイヤーが射撃ボタンを押してから銃を構えて、先端から弾が出て……、という一連のモーションが入ります。このゲームには何十という種類のライフルやマシンガン、ショットガン(散弾銃)が出てくるのですが、モーションはこれらの性能を学習させる効果も担っています。

ここで重要な役割を果たしているのは、先ほどの「予備動作」とは反対で射撃“後”のモーションです。武器性能のパラメータの一つとして「連射できるスピード」というのがそれぞれ設定されていて、この性能がモーションで表現されています。

次々と連射できるものもありますし、射撃後に武器の構え直しのようなモーションが入って、最初の射撃姿勢に戻るまでに時間がかかるものもあります。このモーションがないと、プレイヤーは射撃ボタンを押しても弾が出ないという体験をすることになり、それが自分の操作のせいなのか、端末や通信状態の不具合なのか、ゲームの仕様なのか判断することができません。

キャラクターが銃を操作するモーションを見せることで、まずは操作が成功していることを示し、次に「この銃は撃つのにこれだけの時間がかかるんだ」といったことを学習させることができるのです。

もちろん、数十種の武器の性能を一度使っただけで記憶できる人などいません。しかし、武器によって連射スピードが異なるというゲーム性を、プレイヤーが腹落ちする形で一発で伝えることができます。そもそも、射撃時に射程や連射スピードをデータで示しても、その数値が高いのか低いのか初心者にはわかりませんので、ゲームを始めたばかりのプレイヤーにとって貴重な情報がモーションだけで得られるというのは、非常に学習効率の高いUIだと言えます。
連射速度が速い銃:射撃後のモーションが短く、薬莢が消えないうちに次々連射ができる

連射速度が速い銃:射撃後のモーションが短く、薬莢が消えないうちに次々連射ができる

連射速度が遅い銃:射撃後に武器を構える姿勢に戻るモーションが入り、次の射撃までに時間がかかる

連射速度が遅い銃:射撃後に武器を構える姿勢に戻るモーションが入り、次の射撃までに時間がかかる

これらのUIは、過去のPC向けFPSでも使われてきた手法であり、スマホで実現したということを除けば目新しいものではありません。むしろ、コンシューマーゲームの世界をスマホ上で再現したかのようなこのゲームは、まだまだ、スティック型コントローラを思わせる十字キーなど、進化の余地が十分にあると言えるでしょう。

家庭用ゲームの世界では、ゲーム機の系統によってコンセプトの違いがあり、操作感の特製というのもあります。例えば飛行機で空を飛ぶようなゲームだと、これまでの経験上、前に倒したら上昇すると思っている人と、後ろに倒したら上昇すると思っている人が両方いるといった問題です。これらがスマホゲームに本格的に入ってきたとき、コンセプトの差をどう吸収するのかというのも課題になってくると思います。

ゲーム開発者が目指すべきUIとは


今回ご紹介できたのはゲームUIのごく一部ですが、1つの動作の中に計算された工夫がいくつも入っているゲーム設計の面白さをほんの少しだけ感じていただけたでしょうか。私は仕事柄多くのゲームを目にしますが、自社のゲームを見ても他社のゲームを見ても、より良くするための“伸びしろ”があると思っています。

ゲーム表現の幅というのはとても広いです。改善の方向性にしてもモーションだけ良ければよいわけでもないですし、UIだけブラッシュアップすれば良いわけでもありません。音も動きもGUIの演出もパッケージで評価されるものなので、ゲームの世界観に合ったさりげないUIを作り上げていくのが、ゲーム作りではとても重要になります。
[筆者プロフィール]
鷲山 優作(わしやま ゆうさく)
紙媒体のデザイン、webデザイナーを経て2011年にサイバーエージェント子会社の株式会社グレンジに入社。コミュニケーションアプリから始まりブラウザーゲーム、ネイティブゲームアプリなどのアプリ開発に従事。現在グレンジ取締役CCOを務めるとともに、2016年にサイバーエージェントが設立した、スマートフォン向けゲームに最適なUI/UX研究をする専門組織「UIUX Lab」の代表も務める。
『UIUX Lab』
https://creator.game.cyberagent.co.jp/uiuxlab/

サイバーエージェントのスマートフォン向けゲームに最適なUI/UXを研究をする専門組織。アドバイザーとして「ゲームニクス」提唱者のサイトウアキヒロ氏を招聘し、「スマートフォンで”夢中”を体感させるゲーム作り」をモットーに、ユーザーにとって使いやすく、楽しめるゲーム開発の強化とクリエイティブ力の向上に取り組んでいる。
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