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豪華絢爛なだけじゃない! 無限の可能性を秘めた金箔の魅力 第九回 箔座日本橋 〜金箔編〜(前編)

2019.8.21 WED

似て非なる画材、この差って何?
あべちゃんのサブカル画材屋 紀行


豪華絢爛なだけじゃない! 無限の可能性を秘めた金箔の魅力
第九回/箔座日本橋 〜金箔編〜(前編)

都内近郊に点在する画材や文具の専門店をめぐる連載企画。大型店ではカバーしきれないマニアックな商品と知識を求め、イラストレーター兼ライターの筆者が専門店に潜入します。今回訪れたのは、東京・日本橋にある金箔専門店・箔座日本橋。薄さ極まる1/10,000ミリの世界には、画材として無限の可能性が秘められていたのでした。ものづくりに携わる人ならば一度は使ってほしい、卓越した技術と金沢の土地が支えた金箔の世界へご案内します。

(取材・文・イラスト:阿部愛美)


<<< 第一回目「鳩居堂本店」〜筆編〜
<<< 第二回目「伊勢半本店」〜紅(べに)編〜
<<< 第三回目「喜屋」〜岩絵具編〜
<<< 第四回目「ならや本舗」〜墨編〜
<<< 第五回目「うぶけや」 〜はさみ編〜
<<< 第六回目「山形屋紙店舗」 〜和紙編〜
<<< 第七回目「インクスタンド」 〜カラーインク編〜
<<< 第八回目 「ラピアーツ」 〜額縁編〜
>>> 番外編 「菊屋」 〜左利き用品編〜
>>> 第十回目 「宝研堂」 〜硯編〜
>>> 最終回  「岩井つづら店」 〜つづら編〜

金箔の正体を求めて、箔座日本橋へ

この連載を通してさまざまな画材について知るほど、分からなくなるものがある。それは「金(きん)」 だ。画材としての金は、主に金箔のことを指す。日本画や油絵で使われているところを見て、顕色材(※1)なのだろうかと考えた。ところが、工芸品やアクセサリー、食器の装飾としても使われるし、美容目的にも使われている。それどころか、私たちは金箔を食べることもある。こんな素材が一体ほかにあるだろうか。

金箔の正体を知りたくて、今回は東京・日本橋に向かった。訪れたのはショッピングビル「COREDO室町1」に店舗を構える金箔専門店「箔座日本橋」。店内には金箔を使ったさまざまな商品が並んでいる。

「当店の人気は金箔を使った食品です。アクセサリーやコスメも、女性に人気がありますね。金箔は縁起が良いとされていますので、贈り物にも喜ばれます」とは、箔座日本橋店長の北嶋章子(きたじま・あきこ)さんだ。

※1)顕色材……色のもとになるもの。詳しくは、『第三回/喜屋 〜自家製岩絵具編〜 』の「そもそも、絵具って何から作られているんだろう」をご参照ください。
箔座日本橋の店内

箔座日本橋の店内

榮太樓總本鋪とのコラボ商品「金箔蜜飴」

榮太樓總本鋪とのコラボ商品「金箔蜜飴」

金箔があしらわれたアクリル製のアクセサリー(バングル)

金箔があしらわれたアクリル製のアクセサリー(バングル)

人気のテーブルウェアはMoMAのミュージアムショップでも取り扱っている

人気のテーブルウェアはMoMAのミュージアムショップでも取り扱っている

日本橋にある「COREDO室町1」

日本橋にある「COREDO室町1」

箔座日本橋店内で圧倒的な存在を放っているのは、レジの横にある円筒の部屋「黄金の天空」。1万6000枚もの金箔が使われているそうだ。入り口から中に入ると、高さ約4メートルの壁全面に金箔が施されており、視界は金一色。とはいえ、ぎらぎらと眩しいものではなく、金は光をじんわりと反射して不思議と落ち着いた。

幻想的な金の世界で、ますますこの画材について知りたくなった。
国宝や重要文化財の修復に携わる職人によって箔が施された「黄金の天空」

国宝や重要文化財の修復に携わる職人によって箔が施された「黄金の天空」

「黄金の天空」内部から上を見上げた様子

「黄金の天空」内部から上を見上げた様子

0.1マイクロメートルの世界。金箔の扱い方と特徴

金箔とは、金を薄く伸ばしたもの。箔座日本橋では、食品やアクセサリーだけでなく、各種箔素材を店頭で販売している。画家や工芸家をはじめ、クラフトを趣味とする人が購入するそうだ。北嶋さんに金箔を見せて頂く。

「金箔は、金に微量の銀や銅を合金したものが主流です(※2)。厚さは1〜2/10,000ミリ(=0.1〜0.2マイクロメートル)と非常に薄く、手で直接触ると破けてしまうほどです」。

※2……金のみで作られる24Kの金箔もある。

扱う時には静電気が起きないよう、竹の道具を使用する

扱う時には静電気が起きないよう、竹の道具を使用する

箔座日本橋店長の北嶋さん

箔座日本橋店長の北嶋さん

金箔が挟んである紙をめくる時に起きたわずかな空気の流れで、金箔がふわりと動いた。「金箔を扱う時に注意しなければならないのは風と静電気です。平らなところでそっと作業してください」と北嶋さん。息をするのも躊躇ってしまうほど、薄くて繊細な素材なのだ。

金は金属のなかで最も展性(てんせい/薄くなる性質)と延性(えんせい/細く伸びる性質)が高いといわれている。たった1グラムの金をのばすと約1平方メートル、細くのばすと約3キロメートルもの長さに伸びるといわれている。0.1マイクロメートルという薄さは、金箔だからこそ実現できる薄さなのだ。薄さを利用して、さまざまなものに使用される。

「日本では古くから神社仏閣、仏像・仏具などに使用されてきました。金箔はとても薄いので、土台となる材料の形や表面のテクスチャを活かすことができます。使用する接着剤や仕上げのコーティング材によっても金箔の表情は変わります」。

店内の商品には、木やアクリル、布、革など、様々な素材に金箔が使われており、素材がもつ無限の可能性が感じられた。

細かな筋が入った山中漆器の「欅千筋小物入」。凹凸の表情を活かすことができるのも金箔の魅力

細かな筋が入った山中漆器の「欅千筋小物入」。凹凸の表情を活かすことができるのも金箔の魅力

金箔は、革や布などにも施すことができる

金箔は、革や布などにも施すことができる

三つの行程を経て、金が箔になるまで

では、金箔はどのようにつくられるのだろうか。

「金箔ができるまでは大きく三つの行程があり、それぞれの職人が担当します」と北嶋さん。

まず、金合金(金に、微量の銀や胴を合わせたもの)を作り、ある程度まで薄くする「澄(ずみ)行程」を担う澄職人。それを叩いてさらに薄くのばす「箔行程」は箔打職人が行なう。最後に、金箔を断裁して仕上げる「箔移し」の行程は箔移し職人の仕事だ。
まず、澄職人が金合金の塊をローラーでのばし、1/100ミリの厚さまで薄くする。帯状にのばされたものは「延金(のべがね)」と呼ばれ、カットされた後に1/1,000ミリ(=1マイクロメートル)の厚さになるまでハンマー状の機械で叩かれる。約20センチの大きさにのばされた金は「上澄(うわずみ)」と呼ばれる。金箔に比べてまだ厚みがあるが、この上澄を作品などに使用する人もいるそうだ。

「制作行程で熱を持つ作業では、『上澄』が使われることもあります。例えば吹きガラスのように、熱いガラスの中に入れる場合には、金箔ほど薄いものは適さないようです」。
澄職人は、金に銀と銅を合わせて1/1,000ミリの薄さにする。左上(延金)→右上、左下→右下(上澄)の順で行程を経る

澄職人は、金に銀と銅を合わせて1/1,000ミリの薄さにする。左上(延金)→右上、左下→右下(上澄)の順で行程を経る

延金(左)と上澄(右)を並べたところ。厚みの違いとテクスチャの違いが分かるだろうか

延金(左)と上澄(右)を並べたところ。厚みの違いとテクスチャの違いが分かるだろうか

マイクロメートルの世界は想像しにくいので、1ミリを100メートルの建物に置き換えてみよう。30階建てのタワーマンションを約100メートルとした時(※3)、上澄は10センチ。官製はがきの短辺(横幅)とほぼ同じだ。対して金箔の薄さは約1センチとなる。10円玉を7枚重ねた厚さと等しく、大きな違いを実感できる。

この上澄を、箔打職人が1〜2/1,0000ミリ(=0.1〜0.2マイクロメートル)まで薄くのばして金箔の薄さに仕立てる。最後に、箔移し職人が一枚一枚規定の大きさに切りそろえ、金箔はやっと完成する。
※3……1〜2階の階層を4メートル、3階以上を3メートルとして計算
箔打職人が、左(上澄みを小さく切り分けたもの)を更に薄く加工し、右から2番目の状態に仕上げる。一番右は、箔移し職人によって切りそろえられた金箔

箔打職人が、左(上澄みを小さく切り分けたもの)を更に薄く加工し、右から2番目の状態に仕上げる。一番右は、箔移し職人によって切りそろえられた金箔

箔移し職人によって裁断された金箔の切れ端は「切廻(きりまわし)」と呼ばれる

箔移し職人によって裁断された金箔の切れ端は「切廻(きりまわし)」と呼ばれる

伝統技法「縁付」と現代の「断切」
金箔には大きくふたつの種類がある。上記で説明した行程は、伝統的な製法で作られる「縁付(えんつけ)」。そして、昭和に入って新しく開発された技術「断切(たちきり)」がある。その違いについて伺うと、澄行程までは、どちらも同じように作られるという……

「箔は、紙の間にはさみ入れて打ち延ばされて作られます。打ち上がった金箔を、紙の間から一枚ずつ取り出して切り揃えられたものが『縁付』。紙と一緒に裁断されたものが『断切』で、制作行程を大幅に短縮できます。箔を1/10,000ミリにする過程で使われる紙が、縁付と断切では異なります」。
縁付は金箔よりも紙の方が大きく、縁があることから「縁付」と呼ばれる

縁付は金箔よりも紙の方が大きく、縁があることから「縁付」と呼ばれる

断切は、紙と一緒に裁断しているため、金箔と紙のサイズが同じ

断切は、紙と一緒に裁断しているため、金箔と紙のサイズが同じ

どちらも金の配合率は同じだというが、縁付は手間と時間がかかる分、値段は高くなる。画材としてはどのように使いわけたら良いだろう。

「お客様が画材としてお求めになる物のほとんどは断切です。一方で、国宝や神社仏閣であれば、伝統的な技法で作られた縁付が圧倒的に多いですね。その差を実感するのは難しいですが、国宝を修復する職人さんの中には『縁付の金箔には、断切にはないやわらかさや風合いがある』とおっしゃる方もいます」。

使われる紙によって違いがでるふたつの金箔。その紙は「箔打紙(はくうちがみ)」という。その正体とは……?
●箔座日本橋
昭和初期に初代社長の高岡源治が、金箔の製造と販売を目的に「高岡金箔店」としてスタートさせた金箔の専門店。本社のある石川県金沢市では、金箔約4万枚で仕上げた黄金の茶室を構える「箔座本店」のほか、さまざまな金箔の魅力が楽しめる店舗を複数展開。取材で訪れた「箔座日本橋」は、石川県外唯一の店舗として2010年にオープン。箔座のフラッグシップショップだ。各種箔素材や道具などを店頭で購入可能。一部取り寄せ商品もあり。

住所/東京都中央区日本橋室町2-2-1 COREDO室町1・1F
アクセス/半蔵門線・銀座線「三越前」またはJR「新日本橋」駅 直結、銀座線・東西線・都営浅草線「日本橋」駅 徒歩5分
営業時間/10:00~20:00
休業日/1月1日、その他不定休(COREDO室町1に準じる)
TEL/03-3273-8941
https://www.hakuza.co.jp/
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