似て非なる画材、この差って何?
あべちゃんのサブカル画材屋 紀行
豪華絢爛なだけじゃない! 無限の可能性を秘めた金箔の魅力
第九回/箔座日本橋 〜金箔編〜(前編)
都内近郊に点在する画材や文具の専門店をめぐる連載企画。大型店ではカバーしきれないマニアックな商品と知識を求め、イラストレーター兼ライターの筆者が専門店に潜入します。今回訪れたのは、東京・日本橋にある金箔専門店・箔座日本橋。薄さ極まる1/10,000ミリの世界には、画材として無限の可能性が秘められていたのでした。ものづくりに携わる人ならば一度は使ってほしい、卓越した技術と金沢の土地が支えた金箔の世界へご案内します。
(取材・文・イラスト:阿部愛美)
<<< 第一回目「鳩居堂本店」〜筆編〜
<<< 第二回目「伊勢半本店」〜紅(べに)編〜
<<< 第三回目「喜屋」〜岩絵具編〜
<<< 第四回目「ならや本舗」〜墨編〜
<<< 第五回目「うぶけや」 〜はさみ編〜
<<< 第六回目「山形屋紙店舗」 〜和紙編〜
<<< 第七回目「インクスタンド」 〜カラーインク編〜
<<< 第八回目 「ラピアーツ」 〜額縁編〜
>>> 番外編 「菊屋」 〜左利き用品編〜
>>> 第十回目 「宝研堂」 〜硯編〜
>>> 最終回 「岩井つづら店」 〜つづら編〜
この連載を通してさまざまな画材について知るほど、分からなくなるものがある。それは「金(きん)」 だ。画材としての金は、主に金箔のことを指す。日本画や油絵で使われているところを見て、顕色材(※1)なのだろうかと考えた。ところが、工芸品やアクセサリー、食器の装飾としても使われるし、美容目的にも使われている。それどころか、私たちは金箔を食べることもある。こんな素材が一体ほかにあるだろうか。
金箔の正体を知りたくて、今回は東京・日本橋に向かった。訪れたのはショッピングビル「COREDO室町1」に店舗を構える金箔専門店「箔座日本橋」。店内には金箔を使ったさまざまな商品が並んでいる。
「当店の人気は金箔を使った食品です。アクセサリーやコスメも、女性に人気がありますね。金箔は縁起が良いとされていますので、贈り物にも喜ばれます」とは、箔座日本橋店長の北嶋章子(きたじま・あきこ)さんだ。
幻想的な金の世界で、ますますこの画材について知りたくなった。
0.1マイクロメートルの世界。金箔の扱い方と特徴
「金箔は、金に微量の銀や銅を合金したものが主流です(※2)。厚さは1〜2/10,000ミリ(=0.1〜0.2マイクロメートル)と非常に薄く、手で直接触ると破けてしまうほどです」。
※2……金のみで作られる24Kの金箔もある。
金箔が挟んである紙をめくる時に起きたわずかな空気の流れで、金箔がふわりと動いた。「金箔を扱う時に注意しなければならないのは風と静電気です。平らなところでそっと作業してください」と北嶋さん。息をするのも躊躇ってしまうほど、薄くて繊細な素材なのだ。
金は金属のなかで最も展性(てんせい/薄くなる性質)と延性(えんせい/細く伸びる性質)が高いといわれている。たった1グラムの金をのばすと約1平方メートル、細くのばすと約3キロメートルもの長さに伸びるといわれている。0.1マイクロメートルという薄さは、金箔だからこそ実現できる薄さなのだ。薄さを利用して、さまざまなものに使用される。
「日本では古くから神社仏閣、仏像・仏具などに使用されてきました。金箔はとても薄いので、土台となる材料の形や表面のテクスチャを活かすことができます。使用する接着剤や仕上げのコーティング材によっても金箔の表情は変わります」。
店内の商品には、木やアクリル、布、革など、様々な素材に金箔が使われており、素材がもつ無限の可能性が感じられた。
三つの行程を経て、金が箔になるまで
「金箔ができるまでは大きく三つの行程があり、それぞれの職人が担当します」と北嶋さん。
まず、金合金(金に、微量の銀や胴を合わせたもの)を作り、ある程度まで薄くする「澄(ずみ)行程」を担う澄職人。それを叩いてさらに薄くのばす「箔行程」は箔打職人が行なう。最後に、金箔を断裁して仕上げる「箔移し」の行程は箔移し職人の仕事だ。
「制作行程で熱を持つ作業では、『上澄』が使われることもあります。例えば吹きガラスのように、熱いガラスの中に入れる場合には、金箔ほど薄いものは適さないようです」。
この上澄を、箔打職人が1〜2/1,0000ミリ(=0.1〜0.2マイクロメートル)まで薄くのばして金箔の薄さに仕立てる。最後に、箔移し職人が一枚一枚規定の大きさに切りそろえ、金箔はやっと完成する。
「箔は、紙の間にはさみ入れて打ち延ばされて作られます。打ち上がった金箔を、紙の間から一枚ずつ取り出して切り揃えられたものが『縁付』。紙と一緒に裁断されたものが『断切』で、制作行程を大幅に短縮できます。箔を1/10,000ミリにする過程で使われる紙が、縁付と断切では異なります」。
「お客様が画材としてお求めになる物のほとんどは断切です。一方で、国宝や神社仏閣であれば、伝統的な技法で作られた縁付が圧倒的に多いですね。その差を実感するのは難しいですが、国宝を修復する職人さんの中には『縁付の金箔には、断切にはないやわらかさや風合いがある』とおっしゃる方もいます」。
使われる紙によって違いがでるふたつの金箔。その紙は「箔打紙(はくうちがみ)」という。その正体とは……?
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>>> 第十回目 「宝研堂」 〜硯編〜
>>> 最終回 「岩井つづら店」 〜つづら編〜
昭和初期に初代社長の高岡源治が、金箔の製造と販売を目的に「高岡金箔店」としてスタートさせた金箔の専門店。本社のある石川県金沢市では、金箔約4万枚で仕上げた黄金の茶室を構える「箔座本店」のほか、さまざまな金箔の魅力が楽しめる店舗を複数展開。取材で訪れた「箔座日本橋」は、石川県外唯一の店舗として2010年にオープン。箔座のフラッグシップショップだ。各種箔素材や道具などを店頭で購入可能。一部取り寄せ商品もあり。
住所/東京都中央区日本橋室町2-2-1 COREDO室町1・1F
アクセス/半蔵門線・銀座線「三越前」またはJR「新日本橋」駅 直結、銀座線・東西線・都営浅草線「日本橋」駅 徒歩5分
営業時間/10:00~20:00
休業日/1月1日、その他不定休(COREDO室町1に準じる)
TEL/03-3273-8941
https://www.hakuza.co.jp/