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ピカソ、ブラックらキュビスム画家たちとの関係に見るル・コルビュジエの原点「ル・コルビュジエ 絵画から建築へ―ピュリスムの時代」

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ピカソ、ブラックらキュビスム画家たちとの関係に見るル・コルビュジエの原点「ル・コルビュジエ 絵画から建築へ―ピュリスムの時代」
近代建築の巨匠ル・コルビュジエが設計した国立西洋美術館本館において、ル・コルビュジエ自身の原点に迫る「ル・コルビュジエ 絵画から建築へ―ピュリスムの時代」がスタートした。

開館60周年を記念して開催される本展では、若き日のシャルル=エドゥアール・ジャンヌレ(ル・コルビュジエの本名)が芸術の中心地パリで「ピュリスム(純粋主義)」の運動を推進した時代に焦点をあて、絵画、建築、都市計画、出版、インテリア・デザインなど多方面にわたった約十年の活動を振り返る。

2019年2月27日
(取材・文/編集部)
ピカソ、ブラックらキュビスム画家たちとの邂逅
近代建築の三大巨匠といわれる、フランク・ロイド・ライト、ミース・ファン・デル・ローエ、ル・コルビュジエの3人の中でも、建築においては小住宅から国際ビルの原案まで、さらに絵画、彫刻、家具、インテリア・デザイン、思想や雑誌の刊行にまで手を広げたのは稀有な例である。

ル・コルビュジエが画家として絵画を発表したのは、1918年末~1923年初頭までのおよそ5年間のこと。当時パリでは、パブロ・ピカソ、ジョルジュ・ブラックらによるキュビスム絵画が最も革新的な芸術として隆盛を極めており、ル・コルビュジエも彼らの絵画や彫刻と深くかかわった。

本展では、ピュリスムを先導したル・コルビュジエことシャルル=エドゥアール・ジャンヌレとアメデ・オザンファン。キュビスムの画家であるパブロ・ピカソ、ジョルジュ・ブラック、フアン・グリス、フェルナン・レジェらの美術作品約100点を見ることができる。
 キュビスム画家たちの絵画  右から、パブロ・ピカソ「帽子の男」、パブロ・ピカソ「葡萄の帽子の女」、フアン・グリス「円卓」、フアン・グリス「開いた本」

キュビスム画家たちの絵画
右から、パブロ・ピカソ「帽子の男」、パブロ・ピカソ「葡萄の帽子の女」、フアン・グリス「円卓」、フアン・グリス「開いた本」

共にピュリスムを提唱したアメデ・オザンファン(左)と、シャルル・エドゥアール・ジャンヌレ(ル・コルビュジエ)(右)の作品

共にピュリスムを提唱したアメデ・オザンファン(左)と、シャルル・エドゥアール・ジャンヌレ(ル・コルビュジエ)(右)の作品

キュビスムは、複数の視点による対象の把握と画面上の再構成を主とした絵画である。当初はキュビスムを「(大戦前の)混乱した時代の混乱した芸術」と批判したル・コルビュジエとオザンファンだったが、ピカソ、ブラック、レジェらの作品に触れる機会を得るにつれ、ピュリスムが目指していた「構築と総合」の精神がすでにそこに実現されていることを悟り、彼らの多義的な空間表現に対しての理解と交流を深めていくこととなる。

ル・コルビュジエは1923年、建築に専念するため絵画の発表を封印することになるが、これらの出会いと経験の数々に、ル・コルビュジエの合理的で機能的な建築の原点があることは間違いない。
絵画を飾るために建てられた「ラ・ロシュ=ジャンヌレ邸」
会場には、ル・コルビュジエが設計したいくつかの住宅模型も展示されている。中でも「ラ・ロシュ=ジャンヌレ邸」は同展の舞台・国立西洋美術館本館と同じ絵画を飾るために建てられ、共に世界遺産に登録された建造物でもある。

ここで出てくるジャンヌレとは、ル・コルビュジエのことではなく、彼の兄で音楽家であったアルベール・ジャンヌレのこと。キュビスムとピュリスム絵画のコレクターであったスイス人銀行家ラ・ロシュと、ル・コルビュジエの兄およびその家族のために設計された邸宅である。
ラ・ロシュ=ジャンヌレ邸(1923-25年)の1/30模型

ラ・ロシュ=ジャンヌレ邸(1923-25年)の1/30模型

ラ・ロシュのコレクションは、ピカソ12点、ブラック51点、レジェ21点(うち4点は工房作)、グリス29点、ル・コルビュジエ14点、オザンファン27点、アンドレ・ボーシャン2点、リプシッツの彫刻4点の総数160点にのぼる。中には、ル・コルビュジエ自身がロシェの代理人として競売に参加し、コレクション収集を手伝った品もあった。

1925年に邸宅が完成すると、ル・コルビュジエ自らが絵画の配置を行ったという。絵画ギャラリーの要となる建物の中心の3層吹き抜けエントランスホールには、ピカソの《闘牛狂》とブラックの《ギター、グラス、果物皿のある食卓》を、食堂には構築性よりも感覚性に重きを置いたブラックの静物画2点を上下に並べる。そしてプライベートな安息の場である寝室にはオザンファンとジャンヌレ(ル・コルビュジエ)のピュリスム絵画3点が飾られていた。

後に、オザンファンが無断で配置を変えたことがあったようで、それを知ったル・コルビュジエが抗議の手紙を送っていることからも、彼が建築と絵画が生み出す相乗効果に並々ならぬこだわりを持っていたことがわかる。
画家オザンファンのアトリエ・住宅(1922-24年)の1/30模型

画家オザンファンのアトリエ・住宅(1922-24年)の1/30模型

スタイン=ド・モンヅィ邸(1926-28年)の1/30模型

スタイン=ド・モンヅィ邸(1926-28年)の1/30模型

他にも、最初期に建てられた「画家オザンファンのアトリエ・住宅(1922-24年)」、パリ西郊外に建てられた「スタイン=ド・モンヅィ邸(1926-28年)」といった個人宅から、都市デザインを構成する住居の一類型として考案された「イムーブル=ヴィラ(1922年)」(後のパリ国際装飾芸術博覧会において一住戸が「エスプリ・ヌーヴォー館」として実現)など大小さまざまな模型が展示されている。

模型では伝わりづらいが、展示映像などでこれらの建物の内部を覗いてみると、近代建築の幾何学的な直線や曲線は思いのほか伸びやかで、変化に富んでいるように感じられる。「詩的感動」を呼び起こす造形に達してこそ、建物は「建築」の名に値すると言ったル・コルビュジエの理念がここに体現されているのである。
「国立西洋美術館本館」で建築と絵画の融合を楽しむ
さて、同展が開催されているのは2016年にユネスコ世界文化遺産に登録された、ル・コルビュジエ自身が本館を設計した国立西洋美術館である。この建物はフランス政府から寄贈返還された印象派絵画を中心とする「松方コレクション」を収蔵する新しい美術館として設計された建造物で、ル・コルビュジエが提案した“所蔵品が増えるにつれて建物が中心から外へ螺旋状に拡張する”という「無限成長美術館」のコンセプトに基づいて設計されている。

展覧会のスタート地点は「19世紀ホール」と名づけられた大ホールだ。本館の中心となるこのスペースは吹き抜けの高い天井と中央を貫く堂々たるコンクリートの柱が特徴的で、十字の梁が印象的な天窓からはやわらかい自然光が差し込んでいる。
「19世紀ホール」

「19世紀ホール」

左手のスロープから二階へあがると、中央の吹き抜け部分を回遊するように展示スペースが設けられており、絵画、彫刻、住宅模型、家具といった展示物が並ぶ。美術館というと、壁面を多く確保すべく配置されたコの字型の壁や、高めの天井からの均一な照明をイメージするが、二階の展示室を照らすのは、高窓からの自然光を模したやわらかい照明だ。館内も美術館としてはかなり明るい印象である。

照明、空間構成も一律ではなく、高い天井を持つ明るい空間と、手が届きそうな低い天井に覆われた薄暗い空間が交互に続く。小部屋らしき開口部を覗くと、そこは一階の吹き抜けを見下ろすバルコニーである。回廊状の展示室の途中に点在するオブジェのような細い階段を見ながら、手すりが片方なくて怖そうだな…、などと思っていると、音声ガイドが「ル・コルビュジエは手すり自体不要なものと考えており、彼の住居には両側とも手すりがなかった」と教えてくれた。
二階展示室

二階展示室

二階展示室(低い天井の薄暗いエリア)

二階展示室(低い天井の薄暗いエリア)

二階展示室(3カ所に点在するオブジェのような階段)

二階展示室(3カ所に点在するオブジェのような階段)

照明や展示壁面だけでなく、美術館にお馴染みの「順路」という概念もきわめて希薄な建物だ。国立西洋美術館本館は、美術品を鑑賞するためだけに作られているのではなく、建築と美術品が融合した心地よい空間を楽しむという、なんとも贅沢な趣向の美術館なのである。 

これらのスペースは、展示される芸術作品が、19世紀の印象派から20世紀の美術へ、さらに未来へと発展することを想定して考案されているという。明暗の変化と自由な経路、突然現れるインパクトは、世界中の芸術家たちが新たな境地を切り開いていく、時代の流れを象徴しているようにも感じられた。
読者プレゼント情報
「ル・コルビュジエ 絵画から建築へ―ピュリスムの時代」の展覧チケットを、抽選で5組10名様にプレゼントいたします。応募期間は3月17日(日)まで。応募方法は専用ページよりご確認ください。
「ル・コルビュジエ 絵画から建築へ―ピュリスムの時代」
期間:2019年2月19日(火)~5月19日(日)
休館日:毎週月曜日(ただし3月25日、4月29日、5月6日は開館)、5月7日(火)
場所:国立西洋美術館 本館(東京・上野)
問い合せ先:03-5777-8600(ハローダイヤル)
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