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仏像で立体曼荼羅を作り出す、密教美術の世界「国宝 東寺―空海と仏像曼荼羅」

2024.4.25 THU

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仏像で立体曼荼羅を作り出す、密教美術の世界「国宝 東寺―空海と仏像曼荼羅」
東京国立博物館[平成館]において、彫刻、絵画、書跡、工芸など密教美術の最高峰が一堂に会した「国宝 東寺―空海と仏像曼荼羅」が開催されている。東寺が所蔵する貴重な曼荼羅や仏教絵画、法具といった名宝の数々。東寺講堂に空海が作り上げた21体の立体曼荼羅(仏像群)からは、史上最多となる国宝11体、重要文化財4体の計15体の仏像が出品される圧巻の展覧会だ。

今回は、同展の見どころを紹介するとともに、空海の伝えた密教美術の意味を、その一端なりともお伝えしていきたい。

2019年4月11日
(取材・文/編集部)
空海の伝えた密教美術
「密教は奥深く、文章で表わし尽くすことは難しいので、絵をつかって悟らないものに開き示す。種々の仏の姿や印契は、仏の慈悲から出たもので、一目見ただけで成仏できるが、経典や注釈書では密かに略されていて、それが図像では示されている。密教の要はここにあり、伝法も受法もこれを捨ててはありえない」

唐の名僧・恵果のもとで密教を修めた空海が「御請来目録」に記した言葉である。密教美術にすぐれた作品が多く残るのは、このような思想に基づいて造形物を重視してきたためだ。唐で最新の仏教である「密教」を学んだ空海は優れた造形物を日本にもたらした。これらは美術品としても極めて高い質を誇り、その多彩さや豊かさはわが国の仏教美術の中でも群を抜いている。

“曼荼羅のお寺”と言われる東寺の至宝を中心に構成された本展では、現存最古の彩色両界曼荼羅図である国宝「西院曼荼羅(伝真言員曼荼羅)」や仏像をはじめとする名宝の数々を展示し、東寺に伝わる文化財の全貌を伝えている。
重要文化財 両界曼荼羅図(甲本)胎蔵界 東寺所蔵 平安時代・建久二年(1191年) 展示期間:3月26日(火)~4月7日(日)

重要文化財 両界曼荼羅図(甲本)胎蔵界 東寺所蔵 平安時代・建久二年(1191年) 展示期間:3月26日(火)~4月7日(日)

重要文化財 八部衆面 東寺所蔵 鎌倉時代・13世紀 右から「乾闥婆 (けんだつば)」「天」「阿修羅」「緊那羅 (きんなら) 」「夜叉」「摩羅伽 (まごらか) 」「迦楼羅 (かるら) 」

重要文化財 八部衆面 東寺所蔵 鎌倉時代・13世紀
右から「乾闥婆 (けんだつば)」「天」「阿修羅」「緊那羅 (きんなら) 」「夜叉」「摩羅伽 (まごらか) 」「迦楼羅 (かるら) 」

多種多様な曼荼羅の世界
さて、密教を語る上で欠かすことのできない「曼荼羅」について、少し学んでおきたい。曼荼羅というと幾何学的な模様の中にたくさんの仏が描かれた布状のものを想像する人が多いと思うが、空海が伝えた「曼荼羅」はこれだけにはとどまらない。

例えば、仏の持つ道具や、印を結んだ手指の形などで表したものを「三昧耶曼荼羅」という。文字(梵字)を使って表現したものもあり、こちらは「法曼荼羅」「種子曼荼羅」などと呼ばれている。
両界曼荼羅図(種子曼荼羅) 東寺所蔵 室町時代・十六世紀

両界曼荼羅図(種子曼荼羅) 東寺所蔵 室町時代・十六世紀

空海が唐から持ち帰った曼荼羅は、「胎蔵界曼荼羅」「金剛界曼荼羅」の2種と言われているが、こちらは神仏の表現方法ではなく、その配置に特徴がみられる。前者は大日如来を中央に配し、周囲にいくに従って小さくなる神仏が書き表されたものだ。後者も大日如来を中心とする点は同じだが、全体が3×3の9つの区画に区切られ、「成身会」と言われる中央の区画の反復または省略形が並べられている。

こういった知識を踏まえてみると。「これは胎蔵界の種子曼荼羅だな」などと、一味違った美術鑑賞が楽しめるのではないだろうか。
「金剛界曼荼羅」 (後七日御修法の道場の再現展示より)

「金剛界曼荼羅」
(後七日御修法の道場の再現展示より)

「胎蔵界曼荼羅」 (後七日御修法の道場の再現展示より)

「胎蔵界曼荼羅」
(後七日御修法の道場の再現展示より)

同展には「敷曼荼羅」と呼ばれるものも展示されているが、これはその名のとおり絨毯のように下に敷いて使う曼荼羅である。密教僧になるための儀式などで用いられるもので、僧は目隠しをして壇上に敷かれた曼荼羅に花を投げ、花が落ちたところの仏と縁を結ぶこととなる。弘法大師空海が縁を結んだ仏は、中央の大日如来だ。

そして、本展のクライマックスでもある、15体の諸像からなる「仏像曼荼羅」も曼荼羅の一種。曼荼羅とは密教経典に伝わる仏の世界を目に見える形で表したもので、形式も、表現も、使用方法もこのように多種多様なものが存在するのである。
東寺講堂の立体曼荼羅 ~仁王とは何か~
「国宝 東寺―空海と仏像曼荼羅」の最終章を飾るのは、東寺講堂の21体の仏像からなる立体曼荼羅のうち、15体が集結した「仏像曼荼羅」の展示だ。普段安置されている東寺の講堂内では、横長の須弥壇の上に「五仏(如来)」「五菩薩」「五大明王」がそれぞれグループを形成し、その周囲を「四天王」を含む6体の「天」が守護する形で置かれている。
講堂諸像配置図  ※赤字は「国宝 東寺―空海と仏像曼荼羅」に出品されていないもの

講堂諸像配置図
※赤字は「国宝 東寺―空海と仏像曼荼羅」に出品されていないもの

展覧会では、このうち「如来」4体、「菩薩」4体、「明王」4体、「帝釈天」、四天王から「持国天」と「増長天」が出品され、講堂内より間を置いて配置されている。全ての仏像はガラスケースもなく360度から自由に鑑賞できるようになっており、その造形の緻密さ、力強さは圧巻の一言だ。中でも目を引くのが、凄まじい形相と異形を持つ明王たちだが、人々の信仰の対象でありながら、憤怒の形相で表わされる明王とは何なのだろうか。
「仏像曼荼羅」展示風景 左手前:国宝 降三世明王立像 東寺所蔵 平安時代・承和6年(839年)

「仏像曼荼羅」展示風景
左手前:国宝 降三世明王立像 東寺所蔵 平安時代・承和6年(839年)

密教における仏像は、「如来」「菩薩」「明王」「天」などに分類されるが、中でも一番多様な表現がなされているのが「明王」といってよいだろう。明王とはヒンドゥー教などの影響をうけてうまれた密教独自の仏で、教えに従わない人々を怒りの表情で帰依させる役割を担っている。また、人々を救うために如来が自ら姿を変えた「化身」という側面も持つ。頭や腕がいくつもある異様な姿をしているのは、インドの神々を取り入れているためだ。

そして明王の怒りの先にいるのは、救いを求める衆生だけではない。例えば、「降三世明王」は、異教の神を調伏し、仏教に帰依させると考えられており、足下にヒンドゥー教の神であるシヴァ神とその妻である烏摩妃を踏みつけている。手には五鈷杵、三叉戟、剣、弓と矢、さらには蛇を掴み、四つの顔が四方を睨みつける。
国宝 降三世明王立像 東寺所蔵 平安時代・承和6年(839年) 国宝11体は、360度眺められるように展示されているので裏の顔もしっかり見える

国宝 降三世明王立像 東寺所蔵 平安時代・承和6年(839年)
国宝11体は、360度眺められるように展示されているので裏の顔もしっかり見える

他の明王たちも、それぞれ八臂、六足、五眼などの異形で表され、呪術的表現がなされているものも多い。これらの明王像はいずれも、頭と体を一材から掘り出し、漆と麻の繊維を混ぜた木屎漆で成形されており、1200年前の像とは思えない美しい状態が保たれている。
国宝 軍荼利明王立像 東寺所蔵 平安時代・承和6年(839年) 腰には虎布をまとい、手足に蛇を巻き付けるなど呪術性を感じる表現が特徴

国宝 軍荼利明王立像 東寺所蔵 平安時代・承和6年(839年)
腰には虎布をまとい、手足に蛇を巻き付けるなど呪術性を感じる表現が特徴

国宝 金剛夜叉明王立像 東寺所蔵 平安時代・承和6年(839年) 六臂三面、さらに正面の顔には五眼を持つ。金剛鈴・金剛杵を持つのは、対となる金剛菩埵(こんごうさった)菩薩を意識した形だ

国宝 金剛夜叉明王立像 東寺所蔵 平安時代・承和6年(839年)
六臂三面、さらに正面の顔には五眼を持つ。金剛鈴・金剛杵を持つのは、対となる金剛菩埵(こんごうさった)菩薩を意識した形だ

国宝 大威徳明王騎牛像 東寺所蔵 平安時代・承和6年(839年) 文殊菩薩が変化したとされる明王で、冥界の王ヤマ神を調伏するため、その乗り物である水牛に座している

国宝 大威徳明王騎牛像 東寺所蔵 平安時代・承和6年(839年)
文殊菩薩が変化したとされる明王で、冥界の王ヤマ神を調伏するため、その乗り物である水牛に座している

表情という観点でいえば四天王も憤怒の形相だが、その怒りの意味は少し異なる。「天」は仏の世界を守護する役割を担っており、その怒りは外敵に向けられているのである。異形の相も見られず、両手に持つのは剣や戟といった通常の武器だ。

展示室入り口に配置されている「持国天立像」は木彫技術の最高峰と言われており、拝する者に迫るような勢いある前傾姿勢、後方になびく躍動感に満ちた衣の襞、緊密な甲の彫刻などが素晴らしい。瞳には鉱物状の異材が嵌めこまれており、視線にも異様な迫力が漂う様は必見である。
国宝 持国天立像 東寺所蔵 平安時代・承和6年(839年)

国宝 持国天立像 東寺所蔵 平安時代・承和6年(839年)

「仏像曼荼羅」展示風景 右手前:国宝 金剛宝菩薩坐像 東寺所蔵 平安時代・承和6年(839年) 左奥:国宝 金剛薩埵(こんごうさった)菩薩坐像 東寺所蔵 平安時代・承和6年(839年)

「仏像曼荼羅」展示風景
右手前:国宝 金剛宝菩薩坐像 東寺所蔵 平安時代・承和6年(839年)
左奥:国宝 金剛薩埵(こんごうさった)菩薩坐像 東寺所蔵 平安時代・承和6年(839年)

特別展「国宝 東寺―空海と仏像曼荼羅」
https://toji2019.jp
期間:2019年3月26日(火)~6月2日(日)
開館時間:9:30~17:00 ※ただし、会期中の金曜・土曜は21:00まで開館(入館は閉館の30分前まで)
休館日:月曜日、5月7日(火) ※ただし4月29日(月・祝)、5月6日(月・休)は開館
場所:東京国立博物館[平成館](上野公園)
問い合せ先:03-5777-8600(ハローダイヤル)
入館料:一般 1,600円、大学生 1,200円、高校生 900円
読者プレゼント情報
「国宝 東寺―空海と仏像曼荼羅」の展覧チケットを、抽選で5組10名様にプレゼントいたします。応募期間は4月23日(火)まで。応募方法は専用ページよりご確認ください。
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