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絵本・雑誌・ポスターまで、抑えておきたいムーミンアートのすべて「ムーミン展 THE ART AND THE STORY」

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絵本・雑誌・ポスターまで、抑えておきたいムーミンアートのすべて「ムーミン展 THE ART AND THE STORY」
森アーツセンターギャラリーで、過去最大級の規模となる「ムーミン展 THE ART AND THE STORY」がスタートした。「ムーミン」の原点となった小説全9作の原画をはじめ、絵本や広告、フィギュアなどその多彩なアートと奥深い物語の魅力を約500点の展示品とともに紹介する、これまでにないムーミン原画展だ。

本記事では、キャラクターとしての「ムーミン」に焦点をあて、その誕生から商業展開、作者来日の経緯などをを交えて、その魅力を紹介していきたい。

2019年4月19日
(取材・文/編集部)
トーベ・ヤンソンの二つの顔
日本では絵本やアニメなどで繰り返し紹介されてきたため、「ムーミン物語」を知らない人はまずいないだろう。トーベ・ヤンソンは、1945年(トーベ31歳)から四半世紀をかけて小説9作、絵本4作のムーミンの物語を紡ぎ、その奥深い内容は大人から子供まで多くの人を魅了してきた。

しかし、人気画家であったトーベには、雑誌や小説の差し絵師、広告を飾るイラストレーターといった商業画家としての側面も存在する。本展ではムーミン物語のために描かれた挿絵や絵画とともに、雑誌、ポスター、グッズ類など、通常はみられない貴重な作品群を展示し、そのアート活動の全貌を見ることができる。
キャラクター「ムーミントロール」は、雑誌の片隅から
ムーミンの誕生には、ふたつの起源がある。ひとつは、スウェーデン留学中に叔父のエイナルから聞いた、首筋に冷たい息を吹きかける「ムーミントロール」というオバケの話。もうひとつは弟のペル・ウロフと喧嘩をした時にトーベがトイレの壁に描いた、怒った顔をした鼻の大きな生き物「スノーク」である。

鼻の大きな生きもの「スノーク」は1930年~1940年代にかけてトーベが描いたいくつかの水彩画に、赤い目の黒いトロールという形で登場しているが、現在のムーミンに近い姿が世に出たのは、1943年(トーベ29歳)、スウェーデン系フィンランド人による風刺雑誌「ガルム」上においてであった。

トーベは雑誌「ガルム」で1937年から1952年まで挿絵を担当し、そのトレードマークともいえる「ムーミントロール」は、表紙イラストや挿絵の片隅に度々登場している。相次ぐ戦争を経験したこの時代の「ガルム」には、食糧難や空襲といった暗いテーマも少なくなかったが、トーベはユーモアを交えながら日常の悲劇を表現していった。そのウィットに富んだ挿絵は、風刺雑誌「ガルム」に抜群のエスプリを添えている。
「ムーミン物語」の中の作風の変化
画風からストーリーまでトーベ・ヤンソンのすべてが詰まった「ムーミン物語」が世に出たのは、それから2年後。トーベ・ヤンソン31歳の時である。一番最初に書かれたムーミン物語(小説)第1作「小さなトロールと大きな洪水」と、第2作「ムーミン谷の彗星」では、一部の挿絵が墨の濃淡を使った水彩画のような技法で描かれていた。

しかし、第2作目の挿絵は、後に線画のみで描き直されて最終版として出版されている。第3作目からは完全にペンによる細かな線のみで表現するスタイルへと変化し、以降ダイナミックな構図や線質への挑戦はあるものの、この線画スタイルは貫かれていく。トーベ自身、線画だけで描いた挿絵は画家としての前進だと自負していたようだ。
 ムーミン物語第1作「小さなトロールと大きな洪水」(英語版)より  ※「ムーミン展 THE ART AND THE STORY」では挿絵の原画の一部が展示されています。

ムーミン物語第1作「小さなトロールと大きな洪水」(英語版)より
※「ムーミン展 THE ART AND THE STORY」では挿絵の原画の一部が展示されています。

一方、4冊の絵本は、それぞれ違った技法を用いてバラエティに富んだ表現で描かれた。本展では3作目のムーミン絵本「ムーミン谷へのふしぎな旅」のために描かれた原画とスケッチを、最初に出版されたスウェーデン語の絵本とともに紹介している。それまでとはスタイルを変え、絵を先に描いて後から文章を完成させるという順で制作されたそうだ。大胆で伸びやかな絵と自由奔放な色彩は、精密な線画による挿絵とはまた違った魅力に満ちている。

この作品以外にも、第1作目の絵本「それからどうなるの?」では、絵本のページに穴を切り取る仕掛けを施して、絵のフォルムと色彩をデザイン的に見せる大胆なストーリー展開を、第4作目の絵本「ムーミンやしきはひみつのにおい」では、ムーミン屋敷(模型)の内部を撮影した写真と共にストーリーを展開するなど、4冊のムーミン絵本にはそれぞれ違う技法が使われているのが興味深い。
 ムーミン絵本第3作「ムーミン谷へのふしぎな旅」(英語版)より  ※「ムーミン展 THE ART AND THE STORY」では原画が展示されています。

ムーミン絵本第3作「ムーミン谷へのふしぎな旅」(英語版)より
※「ムーミン展 THE ART AND THE STORY」では原画が展示されています。

本の世界を飛び出したムーミン
1954年、当時世界一の購読者数を誇っていたイギリスの夕刊紙「イブニング・ニュース」でムーミンの漫画の連載がスタートし、世界40カ国以上に配信されると、世界的なムーミンブームが巻き起こった。銀行やデパートの広告、キャンペーンポスター、イースターカード、アドベントカレンダー、ボードゲーム、人形、ファブリックなど、愛されキャラクター・ムーミンは本の世界を飛び出して活躍の場を広げていく。演劇やオペラまで制作されて、幅広い層から人気を集めた。
《ミュージアムショップのグッズ「絵葉書」より》 左:ボードゲーム「ムーミンゲーム」 ムーミン谷を舞台にしたボードゲームは、ムーミンママがハンドバックから落としてしまったものをみんなで探すというコンセプトで作られている。 右:イースターカード ※「ムーミン展 THE ART AND THE STORY」では原画が展示されています。

《ミュージアムショップのグッズ「絵葉書」より》
左:ボードゲーム「ムーミンゲーム」
ムーミン谷を舞台にしたボードゲームは、ムーミンママがハンドバックから落としてしまったものをみんなで探すというコンセプトで作られている。
右:イースターカード
※「ムーミン展 THE ART AND THE STORY」では原画が展示されています。

《ミュージアムショップのグッズ「絵葉書」より》 左:「スナフキンの春の歌」楽譜表紙 右:スウェーデンの環境保全キャンペーンのポスター ※「ムーミン展 THE ART AND THE STORY」では原画が展示されています。

《ミュージアムショップのグッズ「絵葉書」より》
左:「スナフキンの春の歌」楽譜表紙
右:スウェーデンの環境保全キャンペーンのポスター
※「ムーミン展 THE ART AND THE STORY」では原画が展示されています。

日本とトーベ・ヤンソン
さて、日本に初めてムーミンが紹介されたのは、もう少し後の1964年、小説「ムーミン谷の冬」の日本語版出版まで待たねばならない。翻訳本においては「おさびし山」「ニョロニョロ」など固有名詞をユニークに訳出した、翻訳家の山室静氏の功績も大きいだろう。

第1冊目の挿絵は、原画からではなく画家の池田龍雄氏が書き下ろしている。現代であれば“味のある挿絵が魅力なのに!”と言いたいところだが、当時翻訳児童書に日本人画家が絵を添えることはよくあったそうだ。続いて翻訳出版された「たのしいムーミン一家」から原作の絵が使われるようになったのは、やはり原作イラストに捨てがたい魅力があったためであろうか。

続く1969年、日本オリジナルのファミリー向けアニメの放送が開始されると、ムーミンの名は一躍有名となる。1990年にはトーベと弟ラルスが全編を監修した新しいムーミンアニメの放送も開始。このアニメは繰り返し再放送され、本国にも逆輸入されるほどの人気となった。

トーベはテレビアニメの宣伝のために2度来日しており、同展では、日本滞在中のスケッチや、浮世絵が好きだったというトーベの作品と浮世絵との共通点を探る展示なども行われている。
《ミュージアムショップのグッズ「絵葉書」より》 雨や大波の表現には、日本の浮世絵と共通する芸術性が見られる。

《ミュージアムショップのグッズ「絵葉書」より》
雨や大波の表現には、日本の浮世絵と共通する芸術性が見られる。

フィンランドのムーミン美術館から来日した、タイナ・ムッリィハルエ館長(右)とヴィルピ・ニッカリ学芸員(左)

フィンランドのムーミン美術館から来日した、タイナ・ムッリィハルエ館長(右)とヴィルピ・ニッカリ学芸員(左)

日本フィンランド外交関係樹立100周年記念「ムーミン展 THE ART AND THE STORY」
https://moomin-art.jp/
期間:2019年4月9日(火)~6月16日(日)会期中無休
開館時間:10:00~20:00 ※火曜は17:00まで(入館は閉館の30分前まで)
場所:森アーツセンターギャラリー(六本木ヒルズ森タワー52階)
問い合せ先:03-5777-8600(ハローダイヤル)
入館料:一般 1,800円、中学生・高校生 1,400円、4歳~小学生 800円、3歳以下無料
読者プレゼント情報
「ムーミン展 THE ART AND THE STORY」の展覧チケットを、抽選で5組10名様にプレゼントいたします。応募期間は5月6日(月)まで。応募方法は専用ページよりご確認ください。
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