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ドガ、ゴッホ、ブーダンまで。日本初上陸の「印象派への旅 海運王の夢 バレル・コレクション」

2019.6.16 SUN

ドガ、ゴッホ、ブーダンまで。日本初上陸の「印象派への旅 海運王の夢 バレル・コレクション」
Bunkamura ザ・ミュージアムで、英国・グラスゴー出身の実業家ウィリアム・バレルのコレクションを展示する「印象派への旅 海運王の夢 バレル・コレクション」がスタートした。このバレル・コレクションは、グラスゴー市に寄贈される際、その条件の一つとして「英国外には貸し出さない事」が提示されていたため、永らく英国外で展示されることはなかった。

今回は、2014年に女王の裁可を得て行われた遺産条項の改訂と、当コレクションのための美術館の改修工事(2015年~2020年)という二つの出来事が重なり、計80点の作品中76点が奇跡の初来日を果たすこととなった。

企画展「印象派への旅 海運王の夢 バレル・コレクション」は、福岡会場(2018年10月12日~12月9日)、愛媛会場(2018年12月19日~2019年3月24日)と巡回し、現在は東京会場Bunkamura ザ・ミュージアム(2019年4月27日~6月30日)で開催中。東京会場会期終了後は静岡会場(2019年8月7日~10月20日)、広島会場(2019年11月2日~2020年1月26日)へ巡回される。

2019年5月15日
(取材・文/編集部)
ウィリアム・バレルのフランス絵画コレクション
本展は、日本でも人気の高い、マネやルノワール、セザンヌ、ドガといった印象派の画家たちの作品が一度に見られるお得な展覧会だ。もちろん、そのほとんどが日本初公開である。名だたる名作の中でも目玉となっているのは、エドガー・ドガの初期作「リハーサル」。繊細かつ大胆な構図と色彩が美しく、2016年にオーストラリアで開催されたドガの大回顧展「Degas. A New Vision」でも図録の表紙を飾った世界が認める名作である。

印象派絵画の特徴の一つに、現実的な風景と光を描くために戸外制作を行う「外光主義」という考え方があるが、ドガはこの考え方とは無縁であり、人物の配置や画面構成に強いこだわりを見せる画家だった。作品もスケッチや写真をアトリエで合成するという方法で作られており、重層的で考え抜かれた構図は他に類を見ないものである。
左:エドガー・ドガ「リハーサル」 1874年頃 バレル・コレクション 右:テオデュール・リボー「調理人たち」1862年 バレル・コレクション

左:エドガー・ドガ「リハーサル」 1874年頃 バレル・コレクション
右:テオデュール・リボー「調理人たち」1862年 バレル・コレクション

「リハーサル」を見ても、鑑賞者を絵画の中へと誘い込む、巧妙な仕掛けが施されていることがわかる。この絵を見てまず目が行くのが、中央奥でアラベスクのポーズをとる若い踊り子だ。窓から差し込む淡い光がさりげないスポットライトとなって、さほど大きく描かれていないにもかかわらず、観客は一瞬でこの踊り子に目を惹きつけられる。

次に、踊り子の手の動きに促されるように画面右の群像へ。ここでは休憩中の踊り子や年配の女性が描かれており、静と動、明と暗の対比が表現されている。さらに、画面左側に目をやると、螺旋階段の上から降りてくる人物の足先や、壁際で順番待ちをする踊り子たちといった、この空間を構成する人たちの全体像が見えてくる。そして気が付くと、いつのまにか絵画の中に誘い込まれているのである。壁際の踊り子のうち何人かは、次に中央の空間へと飛び出していくのだろう。

右奥に描かれた唯一の男性像は、ダンサーで振り付け師のジュール・ペロー(1810-1892)だ。この絵をX線写真で調べたところによると、この男性は、もともと描かれていた柱を塗りつぶして描き足されたようである。ダンサーたちを指導しているのか、見定めに来ているのか、この有名なバレエ監督を描き加えることで、画面はよりストーリー性のあるものへと変化している。

他にも、ゴッホ、セザンヌ、ルノワール、マネ、クールベ、ブーダン、ピサロ、ミレー、シスレー、ル・シダネルなど、贅沢なラインナップで我々の眼を楽しませてくれる展示会だ。
海運王ウィリアム・バレルの“絵の好み”とは?
今回来日したバレル・コレクションは、写実主義から印象派への流れを辿るように、19世紀半ばから20世紀初頭のフランス絵画を中心に構成されている。印象派というと、色鮮やかで光に満ちた絵が多い印象があるが、同展の静物画、人物画、室内画のコレクションは、暗色の背景から対象が浮かび上がるような配色のものが多い。ウィリアム・バレルは具象的で暗い色調の作品を好む傾向があったようである。

展示の順路半ばに、バレルが収集した静物画と、ケルヴィングローヴ美術博物館の所蔵する静物画が向かい合わせに展示されている箇所があり、この顕著な「色調の好み」が見て取れる。実業家であるバレルは、華やかな色彩よりも落ち着いた色彩を、着飾った社交界の女性たちよりも、労働者や農民、家畜と言ったモチーフを好んだようである。
バレル・コレクションの静物画 左から サミュエル・ジョン・ペプロー「コーヒーとリキュール」1898年頃 ルイ=ギュスターヴ・リカール「静物―洋ナシと皿」 フランソワ・ボンヴァン「コップ、洋ナシ、ナイフのある静物」1884年 <!--アントワーヌ・ヴァロン「静物」1865年頃-->

バレル・コレクションの静物画
左から
サミュエル・ジョン・ペプロー「コーヒーとリキュール」1898年頃
ルイ=ギュスターヴ・リカール「静物―洋ナシと皿」
フランソワ・ボンヴァン「コップ、洋ナシ、ナイフのある静物」1884年

<ケルヴィングローヴ美術博物館所蔵の静物画> 左から ポール・セザンヌ「倒れた果物かご」1877年頃 ピエール・オーギュスト・ルノワール「静物―コーヒーカップとミカン」1908年

<ケルヴィングローヴ美術博物館所蔵の静物画>
左から
ポール・セザンヌ「倒れた果物かご」1877年頃
ピエール・オーギュスト・ルノワール「静物―コーヒーカップとミカン」1908年

<素描にも注目!>
油彩画だけでなく、素描のコレクションにも注目したい。黒一色でザックリと描かれたスケッチだが、この背中を向けた男性の雰囲気、どこか見覚えがないだろうか。このスケッチの作者は「種をまく人」「落ち穂拾い」「晩鐘」などで知られるジャン=フランソワ・ミレー。素早いタッチながら、作業に没頭する農夫の姿がリアルに捉えられている。海運王とまで呼ばれた大実業家のコレクションでありながら、このような習作が含まれている点もバレルの鋭い審美眼を思わせる点である。
ジャン=フランソワ・ミレー「干し草を刈る人」1852年頃 ジャン=フランソワ・ミレー「羊毛をすく人」1848年頃

ジャン=フランソワ・ミレー「干し草を刈る人」1852年頃
ジャン=フランソワ・ミレー「羊毛をすく人」1848年頃

スコットランドの印象派「グラスゴー・ボーイズ」
本展では質の高い水彩画作品が見られるのも特徴の一つだ。こちらは“スコットランドの印象派”と呼ばれる画家グループ「グラスゴー・ボーイズ」の作品群。バレルの出身地・グラスゴーが位置するスコットランドは、イングランドではなくフランスと歴史的に結びついていたため、フランス美術の影響を受けた画家も多かった。

近代西洋絵画の中では、別格であるゴッホ(オランダ)を除くと、フランス画壇以外の画家はあまり知られていないが、水彩画の技法が目覚ましい発展を遂げたのは実は英国であり、ウィリアム・バレルもこれらの作品を好んで買い集めたようである。
アーサー・メルヴィル「ホワイトホース・インの目印」1888年 バレル・コレクション

アーサー・メルヴィル「ホワイトホース・インの目印」1888年 バレル・コレクション

アーサー・メルヴィルの水彩画は、なんといっても独特の「にじみ」が美しい。簡略化された描画に、絶妙なにじみを組み合わせることで、すっきりとしているのに叙情的な画面を作り出す技術も見事である。メルヴィルはよく、ガラスの上で絵具の広がり方や混ざり具合を試して、にじみの効果をコントロールしていたそうだ。

ジョゼフ・クロホールは、フランスの印象派などの影響を受けて、戸外制作で光を捉えようとした画家だ。鳥や馬などの動物の描写が高く評価されており、本展でも陽光のもとで自由奔放にふるまう動物達を生き生きと描いた作品が展示されている。このように、動きやすい対称を素早く捉えるには、油彩画よりも軽やかな水彩画の技法は、とても適していることが実感できる。
左:ジョゼフ・クロホール「山腹の山羊、タンジールにて」 右:ジョゼフ・クロホール「杭につながれた馬、タンジールにて」1888年

左:ジョゼフ・クロホール「山腹の山羊、タンジールにて」
右:ジョゼフ・クロホール「杭につながれた馬、タンジールにて」1888年

「印象派への旅 海運王の夢 バレル・コレクション」は、身の回りの情景から、戸外へ、そして川や港、外洋へと広がるイメ―ジで構成されている。本展最終章では、海運王のコレクションらしく、帆船の集まる港や漁村を描いた作品が多数展示されており、まるで海辺の街にいるような気分で鑑賞することができる。

港や漁村の風景を描いた絵画

港や漁村の風景を描いた絵画

印象派への旅 海運王の夢 バレル・コレクション
https://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/19_burrell/
期間(東京会場):2019年4月27日(土)~6月30日(日)
     ※5月21日(火)6月4日(火)は休館
開館時間:10:00~18:00(入館は17:30まで)
     ※毎週金・土曜日は21:00まで(入館は20:30まで)
場所:Bunkamura ザ・ミュージアム
問い合せ先:03-5777-8600(ハローダイヤル)
入館料:一般 1,500円、大学・高校生 1,000円、中学・小学生 700円
読者プレゼント情報
「印象派への旅 海運王の夢 バレル・コレクション」の展覧チケットを、抽選で5組10名様にプレゼントいたします。応募期間は5月28日(火)まで。応募方法は専用ページよりご確認ください。
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