
2019年7月9日
(取材・文/編集部)
松方コレクションが他のコレクターの収蔵品と異なるのは、これが個人の趣味趣向で集められたものでないという点である。神戸の実業家・松方幸次郎は、当時まだ日本では見る機会が限られていた西洋美術を、若い画家や貧しい画学生たちにも広く紹介するため、専門の美術館をつくる構想を抱いてコレクション蒐集を開始した。そのため、場所も時代もジャンルも幅広く、蒐集当時から既に高い評価を受けていた画家達の作品が多い。

コレクション蒐集を助けた画家・フランク・ブラングィンが描いた松方幸次郎の肖像画
左:フランク・ブラングィン《松方幸次郎の肖像》1916年 国立西洋美術館
右:フランク・ブラングィン《共楽美術館構想俯瞰図、東京》 国立西洋美術館

ギュスターヴ・クールベ「海岸の竜巻(エトルタ)」を含む5枚の絵画が、1921年にパリのノードラ―画廊から購入されたことが記載されている。

絵画「モーリス・ドニ《ハリエニシダ》1917年以前 国立西洋博物館所蔵」の裏側。
購入したパリのドリュエ画廊のラベルの他、いくつかのラベルが貼られているのがわかる。
一枚目は、ファン・ゴッホの「アルルの寝室」。有名な絵なので、テレビや雑誌などで目にしたことがある人も多いだろう。ゴッホの「アルルの寝室」は3つのバージョンが知られているが、これはその中でも最後の作品である。この絵を描いた翌年、ゴッホは自ら命を断つこととなるが、こうしてみる限り、明るい静けさに満ちた一枚だ。
「アルルの寝室」の右側に展示されている油彩画「ばら」も同年に描かれたゴッホの作品である。こちらには最晩年の作品に特徴的な、激しくうねるような筆遣いがすでに認められる。この二枚から画家の心情を多少なりとも推し量ることはできるであろうか。(「アルルの寝室」はオルセー美術館所蔵、「ばら」は日本に返還され国立西洋美術館所蔵)

フィンセント・ファン・ゴッホ《アルルの寝室》 1889年 オルセー美術館

フィンセント・ファン・ゴッホ《ばら》 1889年 国立西洋美術館

ポール・ゴーガン《扇のある静物》 1889年 オルセー美術館
この3枚(「アルルの寝室」「扇のある静物」「ページ・ボーイ」)は、日本で見られる貴重な機会となるので、是非とも見ておきたい。

左:ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル《男の頭部》(《ホメロス礼賛》のための習作)1827年頃 ポーラ美術館
中央:ハイム・スーティン《ページ・ボーイ》1925年 パリ国立近代美術館・ポンピドゥーセンター
右:ピエール=オーギュスト・ルノワール《アルジェリア風のパリの女たち(ハーレム)》1872年 国立西洋美術館
フランスの地で第二次世界大戦を潜り抜けたこの作品は、疎開時代に過酷な保管状態に晒され、この時期に画布の上半分を失う大きな損傷を受けたと推測されている。フランス政府による接収時には、すでに破損作品とみなされていたため、1959年の返還の作品リストからも漏れ、その存在は次第に忘れ去られていったようである。この「睡蓮、柳の反映」は、修復後初の公開展示となる。

クロード・モネ《睡蓮、柳の反映》 1916年 国立西洋美術館(松方幸次郎氏遺族より寄贈)
国立西洋美術館では、修復した絵画とは別に、凸版印刷株式会社と共同で「睡蓮、柳の反映」の欠損部分をデジタルで推定復元し、その姿を公開している。国立西洋博物館が実施した残存部分の科学調査により絵具を推定、さらに国内外にある主題や時期が近い作品を観察することで、モノクロ写真からの解釈を絞り込んでいった。色彩を推定する手がかりとしてAI技術も併せて活用し、AIの推定する配色と人の調査による仮説を比較して客観性を高めていった。
こうして完成したデジタル推定復元には、睡蓮の浮かぶ池の水面に、柳の木が逆さまに映り込む様子が巨大なカンヴァス一面に描かれている。オランジェリー美術館に設置されている睡蓮の大装飾画のうち、第二室の「木々の反映」に関連付けられる作品のひとつと見られ、同様の構図は北九州市立美術館所蔵の「睡蓮、柳の反影」などにもみることができる。

クロード・モネ《睡蓮、柳の反映》デジタル推定復元図 監修:国立西洋美術館 制作:凸版印刷株式会社
https://artexhibition.jp/matsukata2019/
会期:2019年6月11日(火)~9月23日(月・祝)
開館時間:9:30~17:30
※毎週金・土曜日:9:30~21:00
入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日、および7月16日(火)
※ただし7月15日(月・祝)、8月12日(月・休)、9月16日(月・祝)、9月23日(月・祝)は開館
場所:国立西洋美術館
問い合せ先:03-5777-8600(ハローダイヤル)
入館料:一般 1,600円、大学 1,200円、高校生 800円、中学生以下は無料
