似て非なる画材、この差って何?
あべちゃんのサブカル画材屋 紀行
左利き用品から考える、誰にでも使いやすい道具とは……?
番外編/菊屋 〜左利き用品編〜(前編)
都内近郊に点在する画材や文具の専門店をめぐる連載企画。大型店ではカバーしきれないマニアックな商品と知識を求め、イラストレーター兼ライターのあべちゃんが専門店に潜入します。今回は少し趣を変えて、“ある道具”を通して「誰にでも使いやすい道具とは」を考えます。訪れたのは、神奈川・相模原にある文具店「菊屋」。実はここ、左利きにとって駆け込み寺的文具店なのです。さて、右利きのあべちゃんが、知られざる左利きの世界に足を踏み入れます……!!
(取材・文・イラスト:阿部愛美)
<<< 第一回目 「鳩居堂本店」〜筆編〜
<<< 第二回目 「伊勢半本店」〜紅(べに)編〜
<<< 第三回目 「喜屋」〜岩絵具編〜
<<< 第四回目 「ならや本舗」〜墨編〜
<<< 第五回目 「うぶけや」 〜はさみ編〜
<<< 第六回目 「山形屋紙店舗」 〜和紙編〜
<<< 第七回目 「インクスタンド」 〜カラーインク編〜
<<< 第八回目 「ラピアーツ」 〜額縁編〜
<<< 第九回目 「箔座日本橋」 〜金箔編〜
>>> 第十回目 「宝研堂」 〜硯編〜
>>> 最終回 「岩井つづら店」 〜つづら編〜
画材に限らず、文具や家電、ファッションなど生活の品のほとんどは、お店で購入した既製品だ。この商品以外は考えられない!というほど、使い勝手のよいものに出会えれば幸運だけれど、当然の事ながら人の身体的特徴には差異がある。使いにくさを感じている少数派は「仕方ない」と諦めるしかない。
例えば、筆者が諦めているものに「靴」がある。一般的な日本人女性よりも筆者の足は大きいため、 なかなか手に入らない。お金と時間を費やせば見つけることもできるだろう。でも、いつの間にか「男女兼用のスーニーカーを選ぶ方が楽だ」と諦めるようになってしまった。
そこで今回は「左利き」の視点から見慣れた道具を見直すことで、 多くの人にとって使いやすい道具とは一体どんなものなのか。その、ヒントが見えてくるのでは? ……という想いの下、神奈川県・相模原に向かった。今回訪れる専門店は、左利き用品を多く扱う文具店「菊屋」だ。
豊富に左利き用品を取り揃える「菊屋」へ
とは、菊屋を運営する菊屋浦上商事3代目社長の浦上裕生(うらかみ・ひろお)さん。ご自身も左利きだ。今でこそ、左利き用品を常時100種取り揃えているという充実ぶりだが、そこには、あるきっかけがあったという。
「1993年頃に、当時中学生だった私の弟が、カッターを使って大けがをしました。弟は、私と同じく左利きで、けがをした時に使っていたのは右利き用カッターだった。その時に母は『お店では左利き用のカッターを扱っているのに自分の子どもには使わせていなかった』とショックを受けたそうです。そこから本格的に、左利き用商品を集めるようになりました」
まず、はさみ。左利きの人が右利き用を使うと、両刃を引っ張り合うように力が働く(=逆こじり)ため、刃が擦れあわず切れないのだそうだ。(ご参考:第五回目「うぶけや」の「はさみの構造を理解しよう。ポイントは『支点・力点・作用点』!」)はじめてみる左利き用はさみは、右利き用はさみを鏡で反転させたような構造になっていた。
また、カッターも左右反転させた形をしている。左利きが右利き用カッターを使うと、ネジが手の平に当たって緩むため、使いづらいうえに危険だ。そして、左利き定規はというと、0mmの表示が右側についている。右から左に線を引くことで、左手で線や数字を隠すことなく線を引くことができるというわけだ。
そう。通常トランプは、数字と図柄が右上と左下のみに描かれている。だが、左利きの人がトランプを扇状に広げると、手前の1枚以外の数字が隠れてしまうというわけ。それを改善したのが、四隅すべてに数字と絵柄を施したこのデザインなのだ。これによって、右利きも左利きも使いやすい仕様になっている。
見慣れた多くの道具が、実は右利きのための道具だということを知り、ただただ驚くばかり。さて、後編では、左利きも右利きも使いやすい、ユニバーサル商品を少しご紹介しよう。
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<<< 第一回目「鳩居堂本店」〜筆編〜
<<< 第二回目「伊勢半本店」〜紅(べに)編〜
<<< 第三回目「喜屋」〜岩絵具編〜
<<< 第四回目「ならや本舗」〜墨編〜
<<< 第五回目「うぶけや」 〜はさみ編〜
<<< 第六回目「山形屋紙店舗」 〜和紙編〜
<<< 第七回目「インクスタンド」 〜カラーインク編〜
<<< 第八回目 「ラピアーツ」 〜額縁編〜
<<< 第九回目 「箔座日本橋」 〜金箔編〜
>>> 第十回目 「宝研堂」 〜硯編〜
>>> 最終回 「岩井つづら店」 〜つづら編〜
1973年に文具・事務用品の店「菊屋」としてオープン。46年の歴史を持つ文房具店として営業を続けている。店内には常時約100種の左利き用品を展示販売。遠方や海外からもお客さんが訪れる左利きの駆け込み寺となっている。
住所/神奈川県相模原市中央区相模原6-26-7
アクセス/JR横浜線「相模原」徒歩10分
営業時間/9:30~18:00
休業日/土曜日(不定休)、日曜日、祝・祭日
TEL/042-754-9211
※土曜日来店の場合は、電話にて確認を。
URL:http://www.kikuya-net.co.jp/