今回は書籍『透明人間は204号室の夢を見る/奥田亜希子』の使用フォントをご紹介。本記事はデザイン構成において重要な「フォント」の選定プロセスや加工方法を、貴重なプロの実例から紐解いてデザイン制作に役立てる連載です。
ストローを思わせる文字で透明感や浮遊感を演出
高校三年生で小説の新人賞を受賞するも、スランプで作品が書けずに世間から忘れられつつある地味で冴えない女性作家の孤独と妄想を描いた、イタくて切ない青春小説『透明人間は204号室の夢を見る/奥田亜希子』。2013年に『左目に映る星』ですばる文学賞を受賞した奥田亜希子の受賞第一作に当たる作品で、文庫化にともないデザインも刷新された。
表紙カバーでは、主人公の「透明人間となって自分の著書に興味を持ってくれた男性の部屋に行く」という妄想や独特の作品世界が、透け感や浮遊感のあるビジュアルとメインタイトルで表現されている。
Font.01「Leather Regular」「小塚ゴシック M」
角ばった文字を加工してストローのような印象に
メインタイトルの文字のうち、数字は角ばったデザインが印象的なブラックレター「Leather Regular」(Canada Type)がベースに。和文は数字に合わせて直線的なフォルムのゴシック体「小塚ゴシック M」(アドビ)が選択されている。いずれも、メインイラストの半透明の女性とともに宙に浮遊するイメージを出すため、下図のように輪郭線を間引いてストロー状にする加工などが施されている。
Font.02「ヒラギノ角ゴ W8」
タイトルに合わせ隙間が感じられる文字に
著者名の文字は、フトコロの少し締まったオーソドックスなゴシック体「ヒラギノ角ゴ W8」(SCREENグラフィックソリューションズ)に。「奥」の字が上下に隙間があり、メインタイトルのストローっぽいイメージに通じる部分があったため選択された。
Font.03「筑紫B丸ゴシック M」
かわいらしいけれど主張しすぎない書体に
レーベル名部分は、丸みを帯びたフォルムやフトコロの狭いデザインが特徴的な「筑紫B丸ゴシック M」(フォントワークス)。かわいらしいけれど主張しすぎない書風のため選択された。
2020.05.21 Thu2021.09.03 Fri