今回は書籍『博士を殺した数式/ノヴァ・ジェイコブス(著)、高里ひろ(訳)』の使用フォントをご紹介。本記事はデザイン構成において重要な「フォント」の選定プロセスや加工方法を、貴重なプロの実例から紐解いてデザイン制作に役立てる連載です。
程よい軽さのある文字でクスッと笑える印象に
不可解な死を遂げた天才数学者が、書店を営む孫娘ヘイゼルに遺した“方程式”をめぐる謎をテーマにしたミステリー小説『博士を殺した数式/ノヴァ・ジェイコブス(著)、高里ひろ(訳)』。理系が苦手な主人公が突然数学の世界に放り込まれ、方程式や殺人事件に翻弄されつつ祖父の死に迫る姿が、小気味好く描かれている。
表紙カバーでは、その軽妙で独特な作品世界や読後感の爽快さが、個性的なタッチの装画と軽やかなタイトル文字などで表現されている。
Font.01「うつくし明朝体」
滑らかな明朝体を グランジ風に加工
メインタイトルの文字は、先端部分が丸みを帯びたやわらかな印象の明朝体「うつくし明朝体」(フロップデザイン)がベースに。謎解きの面白さや小説の軽妙さ、読後感のよさを出すため、重厚な書体ではなく、程よい軽さのある書体が選択された。なお、装画の温かみのある線になじむよう、タイトル文字はグランジ風に加工されている。
Font.02「筑紫Aヴィンテージ明朝S-R」
タイトル文字に合わせ繊細で流麗な明朝体に
著者名の文字は、慶應義塾出版「手習の文」福澤諭吉編の「ふ」のデザインにインスピレーションを受けて開発されたオールドスタイルの明朝体「筑紫Aヴィンテージ明朝S-R」(フォントワークス)に。滑らかな筆の運びを感じさせる書体のデザインが装画やタイトル文字になじむため選択された。
Font.03「Citizen Light」
独特のニュアンスを持つサンセリフ体に
作品名の欧文は、低解像度のビットマップフォントを高解像度化する印刷機能にヒントを得て開発された「Citizen Light」(Emigre)に。ビットマップフォントのジャギーを目立たなくする際に生まれるアナログ的なニュアンスや文字自体の軽やかさが、装画の線やタイトル文字のグランジ加工にマッチしていたため選択された。
2020.06.25 Thu2021.09.03 Fri