今回はコミックス『この町ではひとり/山本さほ』の使用フォントをご紹介。本記事はデザイン構成において重要な「フォント」の選定プロセスや加工方法を、貴重なプロの実例から紐解いてデザイン制作に役立てる連載です。
独特の趣がある文字を大胆に配置して印象的に
自伝的な漫画作品『岡崎に捧ぐ』で話題を呼んだ山本さほの最新作『この町ではひとり/山本さほ』。美大受験に失敗してゲーム三昧の毎日を送っていた主人公が、自分のことを誰も知らない町で人生をリセットしようとするも……。『岡崎に捧ぐ』のスピンオフ的な位置付けで、作者が人生でいちばん辛かった「1年の記憶」が特別な想いを込めて描かれている。
表紙カバーは、『岡崎に捧ぐ』と同じフォーマットを採用して作品の関連性を匂わせつつ、大胆な構図でキャラクターを引き立てながら背景の広がりも感じられるデザインに。また、イラストのタッチになじんだタイトル文字を大きく配置して作品の世界観を読者に印象付ける工夫もされている。
Font.01「NPG ヱナ W400」「太ゴB101」
金属活字を思わせるアナログ的な書体に
メインタイトルの文字は、ひらがなが古い金属活字の特徴を取り入れたゴシック体のかな書体「NPG ヱナ」(nipponia)、漢字が活字書体のデザインを受け継ぐゴシック体「太ゴB101」(モリサワ)に。いずれも抑揚のある縦画や横画、うねるようなストロークが独特の趣を醸し出しており、メインイラストのタッチにマッチするため選択された。なお、「NPG ヱナ」は9ウェイト用意されているが、ここでは「太ゴB101」と組み合わせるのにちょうどいい「W400」がチョイスされている。
Font.02「NPG ヱナ W400」「太ゴB101」
タイトルと同じ書体で統一感を出す
作者名の文字は、かなが「NPG ヱナ W400」(nipponia)、漢字が「太ゴB101」(モリサワ)に。メインタイトルと書体をそろえることで全体に統一感を持たせるのが狙い。
Font.03「NPG ヱナ W400」
他の文字要素と同じ味わい深いかな書体に
タイトルや作者名のルビは、他の文字要素と同じく「NPG ヱナ W400」(nipponia)に。うねるようなストロークやエレメント先端の角丸処理がアナログ的な雰囲気を醸し出しており、メインイラストのタッチになじむため選択されている。
2020.07.30 Thu2021.09.03 Fri