今回は書籍『ギフト、ぼくの場合/今井恭子』の使用フォントをご紹介。本記事はデザイン構成において重要な「フォント」の選定プロセスや加工方法を、貴重なプロの実例から紐解いてデザイン制作に役立てる連載です。
流れるような筆致の文字でシリアスかつ明るい印象に
両親の離婚を機にギターに触れるのをやめてしまった少年が、バンドの子の代役で再びギターを弾くことになり、その練習を通して将来の夢を見つける姿を描いた物語。『こんぴら狗』で第67回小学館児童出版文化賞を受賞した今井恭子の新作で、「死」や「貧困」などの重いテーマをも扱いつつ、「希望」を感じさせる内容になっている。
→『ギフト、ぼくの場合/今井恭子』
表紙カバーでは、そのシリアスでありながら夢や希望を感じさせる内容が、流れるような筆致の繊細なタイトル文字や、主人公の心の葛藤をイメージした内省的なイラスト、パステル調の配色などで表現されている。
Font.01「秀英明朝 L」「築地体三号細仮名」
流麗な明朝体に平体をかけシリアスかつ優しい印象に
メインタイトルのうちカタカナと漢字は歴史ある秀英舎の活字書体の特徴を受け継いだ端正な明朝体「秀英明朝 L」(モリサワ)、ひらがなは東京築地活版製造所の三号活字をもとに覆刻されたかな書体「築地体三号細仮名」(SCREENグラフィックソリューションズ)がベースに。
作品のシリアスな雰囲気や主人公の少年の心象風景を表現するため、平体をかけたり太さや濁点を調整したり、エッジにラフな加工を施すなどの工夫がされている。また、異なる2書体で文字組みしたときに違和感が出ないような調整も行われた。
Font.02「筑紫B丸ゴシック L」
パステルトーンに合わせ優しく柔らかい書体に
著者名部分は、温かみのある丸みを帯びたフォルムの丸ゴシック体「筑紫B丸ゴシック L」(フォントワークス)に。背景のパステル調のモチーフに合わせて優しく柔らかい書体が選択された。
Font.03「筑紫B丸ゴシック B」
温かみのある味わい深い丸ゴシック体をチョイス
出版社名「小学館」部分は、著者名と同様に温かみのある味わい深い丸ゴシック体「筑紫B丸ゴシック」(フォントワークス)がチョイスされた。全体のバランスや可読性なども意識し、ウェイトは「B」が選択されている。
2020.08.27 Thu2021.09.03 Fri